『ふぁーすと・らぶ』

 「ただいまー!」

 幼稚園から帰って来た啓介は、家中響き渡る大きな声で
 元気良く家に入る。
 勿論、無人の家から「おかえり」って返してくれる人はいない。
 両親も仕事が忙しくて帰りが遅いのは当たり前だし、
 兄は小学校から帰っていない。
 啓介は一番乗りで帰宅したのである。

 靴を脱ぐのも慌ただしく、カバンを投げてバタバタとリビングに行く。

 「ちぇっ。にいちゃんも帰ってないのー。急いで帰って来たのに…」

 ぷぅーと膨らませた頬はマシュマロのよう。
 実は今日幼稚園で、家族の人の絵を描こうって言われて兄の絵を描いた。
 他のお友達は、お母さんの絵とかお父さんの絵が多い中、
 啓介だけは兄の絵を描いた。
 大好きなにいちゃんの絵を先生に褒められて、上機嫌で帰ってきたのである。

 絵の出来は自分でもうっとりするぐらい…

 テーブルの上に広げて見た。

 「にいちゃん。よろこんでくれるかなぁ。」

 小一時間後、啓介がソファーでうたた寝していると、兄が帰ってきた。

 「けいすけ。こんなところで寝てると風邪ひくぞ。」

 「うーん。おかえりー。にいちゃん。むにゃ。むにゃ。」

 「しょうがないなぁ。」

 涼介は寝室から毛布を持ってきてかけてあげると啓介は再び眠ってしまった。
 ふとテーブルを見ると、クレヨンで描かれた人物画らしき物?があった。
 啓介らしい大胆な色使いの絵である。

 「誰を描いたのかなぁ。うーん?」

 涼介は見当もつかなかった。

 「子供の絵だって事は解るんだけど、友達の絵かな?」

 しばらくすると啓介が目を覚ました。

 「おはよう。にいちゃん。」

 まだ眠いのか目をこすりながら言うと

 「今は夕方だから、おはようじゃないよ。」

 TVを観ていた兄は振り返りながら言う。

 「ん?じゃー。夜のあいさつだから、うーんと。こんばんわ!」

 啓介は自信満々でニコニコしながら、言い直した。

 「ちょっと違うようだけど、まぁいいや。この絵どうした?」

 そう言って涼介はテーブルの上に置いてある絵を指差した。

 「うん。きょうねぇ…ようちえんで、せんせいが、かぞくのえをかきなさいっていったの。
  そんでね。にいちゃんのえかいたの。」

 …えっ!これが俺か?…

 いくら弟とはいえ、声に出して否定するのは、あまりにも可哀想だけど、
 涼介はショックを隠せない。

 口は真っ赤に曲がって描いてあるし、目はグルグルと黒く描いてあって、
 鼻はないし、髪の毛はモジャモジャ。眉毛はゲジゲジ。
 これでも、小学校では女の子にキャーキャー言われてるのに、
 これはないだろうって感じ。

 「…でね。先生にほめられたの。にいちゃんに一番にみてもらいたかったんだ!」

 よほど嬉しかったのか、啓介は興奮気味で話してる。

 涼介はちょっとショックだったけど両親の絵ではなく、
 自分の絵を描いてくれた弟が可愛らしくて、
 頭をなでてやった。

 「にいちゃん。だいちゅきだもん。だからね…えをかいたの。うまくかけてる?」

 「けいすけ。上手にかけてるよ。」

 「ほんと?にいちゃんにもほめられた!せんせいにほめられるよりも、
  にいちゃんにほめられるほうが、ずーとうれしい!!」

 啓介はキャッキャッ言って喜んでる。

 …でもな。もうちょっと上手に描けるようになれよ…

 っていう涼介の心の叫びは当の啓介には届いていない。

 ―おわり―

 ★あとがき★

 ちびちゅけ書きたかったのよ。
 ただそれだけです。
 久しぶりに甘甘。
 でも、短い話だわ(汗)
 最近、長文書く気力が・・・
 書いてる本人は楽しかったです。