『君の側に・・・』



 「ちっとばっかし、遅くなっちまったな」

 残業の為いつもの時間よりも、峠に来るのが遅くなってしまった。
 仕事だと言い訳をするが、やっぱり腹が立った・・・
 上の駐車場に着くといつものように慎吾を中心に何か雑談をしている。
 チームの奴らの姿があった。
 ほとんどの者が、Rの音に気づいて振り返っていた。
 毅は、車から降りると軽く手を挙げて挨拶を交わした。
 慎吾が、楽しそうに近づいてくる。
 その手には、見慣れない機種の携帯が握られていた・・・

  こいつもよくコロコロと替えるヤツだよなぁ

 少し呆れ気味に、その携帯を見つめてしまう。
 二つ折りタイプのブラックメタリックでなかなかカッコイイ

  最近出たばかりの新機種だよな、あれって・・
  本当に流行りに素早いヤツだよなって、げっ!
  気づいてしまった・・イヤな事に・・・

 慎吾は、にやっと笑うと徐に携帯にキスをした。
 小さな『NightKid’s』のロゴスッテカー・・・
 極めつけが・・・折りたたみ式の中に隠されていた・・・
 大きめのカラー画面に映っていたのは、間違いなく
 『R32』それもバックからの写真

  なんなんだ!いったい、何考えてんだよ!コイツは!!

 パニックに落ちかけてる毅を楽しそうにくっくっと笑った。
 もちろん!最後の止めも忘れていなかった!!

 「いいだろぉ、これ?いつでも側に居るって感じだろぉ?」

 毅は、その場にへたり込んでしまっていた。
 手を差し伸べて慎吾が立たせてやる。
 自然な形で、耳元で囁かれた。

  <文句なら、今夜おまえんちで聞いてやるよ>

 「てめぇー!調子に乗ってんじゃねぇー!」

 慎吾の高笑いが夜の妙義の峠に響く。
 EG−6は御機嫌に飛び出していった。

  あんなに真っ赤な顔して怒鳴ったって怖くねぇぜ
  他のヤツに見せるのは勿体ないからもう峠でからかうのはよすか

 真面目にそんなことを考えていた慎吾だった。
 EG−6を悔しそうに睨み付けた毅だけがその場に残された。

  ちっくしょー!また、良いようにからかわれてしまった

 分かっているのに煽られる、反応しなくてもいいのにしてしまう。
 勝手に家に来ると、約束されてしまっても怒る気にもなれない。
 何故だか、許してしまう自分が居る。

 「だけど、あれはかなり恥ずかしいってヤツじゃないのか」

 無言での率直過ぎる告白にイヤでも煽られてしまった。

  <おまえは俺のモノだろ?だからいつだって側に居たいんだよ>

 口にはしない気持ちだから悔しいけれど嬉しいのだ。
 その後、R32が勢い良く走り出した。
 それを遠回しに見ていた仲間が、いつケンカになるかも知れないと
 ヒヤヒヤしながら見て見ない振りをしていたことに気づかない二人だった。



らんさんから頂きました。ありがとうです!!

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