Top/Index

たまご(こっそり月見雑文祭参加作品
満月の夜に、僕はたまごを産んでしまった。

まるくて白いまるで月見団子のようなたまご。両手一杯ほどの大きさで、かなり硬そうな殻をしたたまご。

縁側にたまごを置いて、その前でとても狼狽して固まっている僕をよそに、庭では涼やかな秋風に吹かれて気持ちよさげにそよぐすすきと、夜空には、満月の中で楽しそうにぺったんぺったん餅つきをしているウサギが一羽。

「人の気も知らないで。」

僕は、すすきとウサギを恨みがましく見つめた後、冷静に冷静にと小さな声でつぶやきながら、再び、たまごに視線を戻した。

「一体何のたまごなんだろう。」

コンコンと硬い殻をつついてみる。すると、中からコンコンと音が返ってくる。

「うお。」と絶句する僕。生きてるよたまご。あぁ、どうするんだっけ。そうだ、暖めなきゃ。慌てて押入れに駆けて行き、中から冬用の毛布を取り出して、たまごをそっとそれでくるむ。

やがて、頭のてっぺんにあった満月が西に傾き始めた頃、たまごはぴしりと音を立てて割れ始めた。

その音を聞くや否や、僕はたまごにかけてあった毛布を急いで取り去って、たまごが割れる様子を見守る。手の平にうっすらと汗が滲む。

まずはくちばし、そして、頭、最後に身体の順でたまごの中から鳥らしきものが出てきて、僕を見て「みゅぅ。」と鳴いた。

その姿を見て、僕はまたもや絶句した。
モアのひなだ。約100年ほど前に絶滅したと言われる伝説の巨鳥。

僕は空想する。モアに乗ってあちこちをさまよう自分の姿を。いいなぁ。

たまごを産んだときにどれほど狼狽したかなんてすっかり忘れてしまい、自分のあまりのツキのよさにうっとりとしてしまう。

その瞬間に、ぶるるると身体が震えて目が覚めた。どうやら、縁側で月見酒を飲んでいるうちについ寝てしまったらしい。

うーん残念と思った僕の目の前には、やっぱり丸いままのたまごがあった。