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■Wind synthesizer

 日本でウィンドシンセの第一人者としてその領域を開拓していったT.K.。この人のおかげで、ウィンドシンセは淘汰・進化されたと言っても過言ではありません。

 また、このページを作る際、いつも掲示板やメール等でアクティブに書き込みされている
大脇裕一氏に多大なる御協力をいただきました。大脇さんがいなければリリコン・タケコンや音源に関してここまで載せることは出来なかったしょう。無知な私のたくさんの質問に嫌な顔ひとつせず、懇切丁寧に教えていただけた大脇さんには大変感謝しています。この場を借りてお礼申し上げます。ありがとうございました。

●Lyricon
・音源:
以下を参照。
 当時はまだ「電気サックス」又は「電子クラリネット」の名称の方が日本では馴染みがあったというウィンドシンセですが、新しい楽器に果敢に取り組んだフロンティア精神はさすがです。
 新しい楽器だったので、当然ノウハウもなにもなく、ひたすら自分たちで工夫して使用したそうです。
 なぜかストラップは使わず、右手の親指のフックと右手小指をCキー(一番下のキー)の下に置いてテコの原理で支えるという独特のスタイルで吹いていました。リリコンには移調のためのスイッチがついているので、サックス同様Eフラットの楽器にすることも出来たのですが、以降EWIまで全て「C管」として使用しています。
 リリコンのシステムはスティック(コントローラ)、ドライバー、音源の3つの部分から成り、その総称をLyriconといいます。製造元はチップメーカーのCOMPUTONE(コンピュートン)社ですが、すでに倒産してこの世には存在しません。
 リリコンの名称の意味は、Lyric(詞)をonにする。つまり詞を歌うようにという意味の造語でありますが、非常に綺麗でセンスの良い名称ですね。
 リリコンには「Lyricon I」、「Lyricon II」、「Lyricon Driver」の3つの製品があり、当時の価格で順に18万、70万、50万と非常に割高でした。
 3つあるバリエーションのうち、伊東さんは「Lyricon I」と「Lyricon Windsynthesizer-Driver」を使用していました。(Lyricon Iの勇姿は『THE SQUARE LIVE』の「JAPANESE SOUL BROTHERS」で見る事が出来ます。スティックがちょっと長いのですぐ分かると思います。)
 音色は鋸歯状波、矩形波(もしくはその組み合わせ)を主に使っていました。あまり音色にバリエーションをつけると「音を瞬間的に理解することができなくなってしまうため」という理由だそうです。
 リリコンと後述するタケコンは時期を前後していることもあり、以下リリコンで使用したことのある音源別に解説します。

OBERHEIM 2VOICE
 使用当初はOBERHEIM 2VOICE(2VCO×2。つまり2音ポリ)を使用しており、本来キーボードが載るべきスペースにリリコンのドライバ−を組み込んでる様子は、『THE SQUARE LIVE』、『THE SQUARE ADVENTURE』等で確認できます。
 音も大変さわやかで透明感のあるきれいな音です。所謂「リリコンの音」、と云うとこれの事を指す事が多いのではないでしょうか?

MINI MOOG
 御存知アナログ・シンセの定番中の定番です。ねばりのあるブ厚い個性的な音です。
 後のアナログ・シンセに多大な影響を与えた偉大な機種でもあります。当時VCO、VCF、VCAという回路で電圧を使って音をコントロールする方式はまさに画期的でした。
 その心臓部であるVCOは3基(うちVCO3は通常LFOとして使う)、波形も6パターン装備しており、好みの音色を様々に作ることができます。
 ミニ・ムーグの特徴的でクセのある強烈な個性は製品精度の悪さが逆にメリットになっていると考えられます。当時は回路の精度も悪く、ICも出来立てといった時代背景があるようです。
 3つあるVCOは原理的にそれぞれのチューニングを完全に合わせることが出来ず、微妙にピッチのずれた状態で発音されるのでコーラス効果が増大、また温度変化がそれに拍車をかけて音を厚くする要因となります。また、波形部分でも部品精度の関係上、ある種の歪みが出て個性的な音色になるのでしょう。
 この素晴らしい音色は『SPORT』の2曲目「PASSAGE OF CLOUD」で聴くことが出来ます。また「TRUTH」もミニ・ムーグを使用しているらしいです(不確定情報)。

・PROPHET5
 これまたオーバーハイム、ムーグに続き「アナログ・シンセ御三家」とも言える名機のひとつの登場です。
 発売元はSCI。同社初のシンセサイザーとして注目を浴びました。既存のメーカーに先駆け、世界初のコンピュータ使用によるキーアサイン、プログラマブル・ポリ・シンセとして開発されました。
 基本コンセプトは「プログラムのできるポリフォニック・ミニ・ムーグ」というもので、外観デザインにもミニ・ムーグ影響がみられます。
 その心臓は2VCO、1VCF、1VCA、2EG、1LFO、1NOISE GENERATORの オーソドックスな構成ながら、VCOの自動チューニングを備えた初のシンセでした。
 余談ですが、「PROPHET」は、よく「プロフィット」と呼ぶ方が多いそうですが、正確には「プロフェット」が正しい発音だそうです。
 Prophet5にはいくつかのバージョンがあり、Rev1と2ではVCO/VCF/EGにSSM社製のチップが使われていますが、Rev3からはCESのチップに変更、さらにRev3.2以降は初期のMIDIにも対応しています。
 よって伊東さんが使用していたものはRev1〜3のどれか・・・ということになるのでしょう。(不確定情報)
 音色的には上記2機種より多少洗練され、都会ナイズされた音に聞こえるのは気のせいでしょうか?
 『SPORTS』の「LOVE ALL」等で聴くことができます。

・YAMAHA DX7(バージョンアップKIT付き)
 言わずと知れたデジタル音源の代名詞、DX7です。
 多彩な音色の16ポリFM音源、MIDI(IN,OUT,THRU)端子、タッチセンサー、アフタータッチ、ブレスセンサー、果てはアナログ音源制御用のアナログ端子等々...と豪華絢爛な装備でした。アナログ音源にはない華やかなで様々な音色と制御の安定感、そして個性的な音色は一時期それまでのシンセを駆逐する勢いで帝王の如く君臨していました。カメラの世界でライカがM3を出した時に「M3ショック」と言われた現象が起きましたが、まさにそれに匹敵する大事件だったと思います。キーボーディストはこぞって使用したので、皆さんどこかでその音色は聞いているはずです。
 当初伊東さんはリリコンでMIDIコントロールを模索しており、「DIGIATOM 4800というCV-MIDIインターフェイスを使って制御していましたが、あいにくリリコンのドライバーとの相性が悪く思うようにいかなかったようです。以降、DX7はタケコンで制御しました。(
※TAKECONの項を参照
 DX7を使った音色は『SPORT』の「宝島」が有名ですね。
「宝島」のような音はアナログ音源でパルス系の音をいくらいじっても出来なかったそうです。
 ちなみにこの「宝島」。当初和泉さんはサックスの曲として書いたのだそうです。レコーディングの最後まで和泉さんはタケコンで吹くことに反対していたのですが、伊東さんは押し通します。出来た曲を聞いた和泉さんは「伊東さんの判断が正しかった」とおっしゃったというエピソードがあります。
 また、伊東さんのDX7にはバージョンアップKITが組み込まれており、以下の機能が強化されていました。
 ●MIDI受信チャンネル
  1〜16chに加え、OMNI chに増設。
 ●MIDI送信チャンネル
  1〜16chに増設。
 ●32音/8-BANKの256音増設バンク
  インターナルバンクを8バンクに増設。
 ●液晶バックライトディスプレィ
  暗いステージでもパラーメーターが見える。
 ●充電式バッテリー内蔵
  ROMのバックアップは充電式。バックアップ電池の交換不要。

・TAKECON-1(音源)EPF8890
 伊東さんが受注して作ったオリジナルのアナログ・シンセです。ここで言う「TAKECON-1」とは音源部のみを指します。リリコン同様「TAKECON-1」も本来は「スティック、ドライバー、音源」の3つで「TAKECON-1」なのですが、ドライバーがDX7との相性が非常に良かったので、「TAKECON-1のスティックとドライバー」はDX7に、「TAKECON-1の音源」はリリコンで制御するというややこしい事態になりました。(こちらもリリコンとの方が相性が良かったそうです)
 ラックに組み込まれた黒いボディに赤い大きなツマミが多数あるという一種独特の雰囲気の音源ですが、ハンドメイドとは思えないほどフィニッシュは綺麗に仕上がっています。
 スペックは4VCO、1VCF、1VCA、1NOISE GENERATOR、1EXCITER。OBERHEIMのオシレ−タ−(CURTIS(カーティス)社製)にMOOGのフィルターが載っているという構成だったので、独特の太い音色は魅力的でした。とは言っても音の太さを求めた結果、フルアナログ制御のデメリットである「ピッチ制御の難しさ」が出てしまい、ライブでピッチがヒョロヒョロになってしまうこともあったようです。
 スペック中に「EXCITER」とありますが、これはエフェクターの一つです。一般的には「エンハンサー」と呼ばれている物です。位相や倍音を操作する事で、音にメリハリが付く、乾いた音になる、"立つ"音になる等の効果を産みます("EXCITER"と言っているからにはおそらくAPHEX社のAURAL EXCITERの回路を載せてあるものと推測できます。EXCITERは商標なんです。普通は"ENHANCER"(エンハンサー)って言いますから)。
 ツアー用の機材として"SPORTSツアー"の前後使われていました。数年前までYAMAHA渋谷店に非売品として展示(当初は伊東さんがNYに行っている間だけ預かるついでに展示するという予定)してあったので、見た方もいらっしゃるのではないでしょうか?
 余談ですが、この音源と同タイプのものがつい最近まで原宿の「FIVE G」で受注生産を続けていました。80万超えるという高価な音源ですが、個性的で太いアナログ音源の音色は人を惹きつけるものがあるのでしょうね。

●TAKECON-1
・音源:
TAKECON-1、DX-7、MINI MOOG、PROPHET5(各音源の詳細はLyricon欄参照)
 
横浜の「EIZUKA(エイヅカ、もしくはイイヅカ) ENGINEERING WORKSHOP」がその製作元と言われます。かかった費用は当時の費用で200万円とか。
 このシステムを導入したのは、DX7導入とほぼ同時期の様です。
 スティックが黒かったので、伊東さん本人が「黒いリリコン」と揶揄していました。
 スティックはリリコンと同じ内容で、ドライバーは2EG出力があり、リリコンに比べ全体的にしっかりした作りになっていました。
 また、そのすぐれた設計は、後に「リリコンよ再び!」との現場の声から生まれた「D&K ADVANCED PRO AUDIO DESIGNS WINDSYNTHESIZER TYPE II」、「同−TYPEIII」に活かされたであろうことは容易に想像できます。
 元々は専用音源とセットで使用するはずだったタケコンですが、ドライバーが前述のCV→MIDIインターフェイスのDIGIATOM 4800と非常に相性が良く、後半はDX 7専用コントローラとなったようです。
 DX7のコントロールはタケコンがアナログCV出力なので、MIDIに変換するためDIGIATOM 4800を使用。ここで「音階のみ」コントロールします。これはダイナミクス(音の大小)をMIDIで変換するとベロシティの中でしかダイナミクス処理できないのでメリハリのついた強弱をつけられないためです。
 そこで、DX7のバックパネルにあるアナログ端子を使用し、なめらかな強弱を付けるためにCVのカーブを変えるオリジナルのアナログインターフェイスも併用します。
 文章では分かりづらいので、以下の図を参照して下さい。

図:DX7 II FDの制御方法
■DX7 II FD 制御法

 『SPORT』の頃にはMINI MOOG、PROPHET5等も制御。DX 7も含めレコーディングでは8割がたタケコンを使用していたそうです。
 予定では今後「OBERHEIM EXPANDER」や「Roland System100M(タンスサイズの拡張型モジュラー・アナログ・シンセ)」に興味があり、制御したかったようですが、YAMAHA WIND MIDI CONTROLLERやEWIの登場により、一時代を築いたTAKECON-1もその役目を終えました。
 ↓
(スタイナーホーン)
 これは実際には入手することが出来なかったウィンドシンセです。
 タケコン(リリコン)のメンテナンスが気難しくなり、当時すでにリリコンの発売元のコンピュートン社は倒産。パーツ供給も危うい状況でしたのでコンディショニングが気がかりでした。
 そこで目をつけたのがハンドメイドのウィンドシンセとして有名だった「スタイナー・ホーン」。
 これは、ナイル・スタイナーというトランペット奏者が発案したウィンドシンセで、息の出口がないブレスセンサー、タッチセンサーを採用したキーアクション、手元で行うベンドアップ・ダウン等々、現在のEWI、EVI(トランペット型のウィンドシンセ)の原形でマイケルブレッカー等も使用していました。
 その情報をLAでT-SQUAREのアルバムのレコーディングの際に知り、受注しようとしたところハンドメイドのため時間的に余裕がないと言われ(一説にはマイケル・ブレッカーのものを作っていたため1年後と言われたとか)あきらめます。
 この後スタイナーは、このように注文が殺到しても対処しきれない状況を鑑み、スタイナー本人がAKAIにライセンス生産を持ちかけて開発・発展させ、EWI、EVIと進化発展していきます。
 ↓
●YAMAHA WIND MIDI CONTROLLER(WX7のプロトタイプ)
・音源:DX7 II FD、TX802その他
 トゥルースツアーの前後だけという短い期間しか使われなかったので、吹いている姿を見た人も他に比べて少ないのでは?
 市販のものと細かい所(ボタンの位置やデザイン)に相違が見られますが、基本的には後のWX7とほぼ同じものです。
 原理は「MIDIコントローラー」なので、ダイナミクスレンジがせまい(ベロシティの中でしかダイナミクス処理できない)のが弱点といえば弱点でしょうか?(ブレスセンサーで多少はごまかすことも可能ですが...)
 ただし、ケーブルは電源ボックスまでは専用線ですが、その先はMIDIケーブルで制御します。よってMIDI信号をワイヤレスで飛ばすことができ、「電源ボックスを付けた腰から先はワイヤレス」という非常に身軽なステージで楽しませてくれました。
 
・・・と思いきや! 大脇さんに言われてNHKホールのビデオを見直したのですが、ケーブルが出てる・・・。でもステージの左右を行ったりきたり。よ〜〜く目を凝らして見てみると・・・ゲッ! ケーブル出てる!! しかも凄い長いのが(エラー寸前!:大脇談)!
 音源はDX7 II FD(DX7 IIにデータ保存用のフロッピードライブが搭載されたDXシリーズの最強ヴァージョン)を使用していましたが、トゥルースツアーの際にTX802があったのを覚えています。これはDX7 IIの鍵盤部を除いた音源モジュールなので、音色データは同じもの、もしくはDX7 IIのサポート用に使用していたものだと思います(不確定情報)。
 ただ、DX7 IIにあって、TXにない機能というのがあります。TXは平たく言うと2ポリのモジュールが8つ並んでいる様なものです。ところが、DXには独自の発音モードがあり、1つの音色(ボイス)の中で4音レイヤー(重ね)のモノモードに設定することができます。しかもランダムにデチューンがかかる! つまり、アナログ音源のオシレータが一気に鳴るようなもんです。その厚い音を「パフォーマンスモード」でさらに重ねることにより、とんでもなく太い音が作れます。よってDXはWXでコントロール、TXは当時使っていたショルダーキーボードで制御していたというのが正解なのかも知れません。また余談ですが、DX7 IIは中古で底値となっている(2000年現在)ので、WXユーザーはこの期に購入を考えてはいかがでしょうか?
 この頃はすでにEWIがありましたし、プロトタイプEWIも吹いて
いたハズなのですがなぜかこちらを使っていました。考えられる理由としては、「情に厚い伊東さんがリリコンの時に世話になったヤマハに義理立てて」、「オーソリティである伊東さんにヤマハが頼み込んだ」、「単に新し物好き(笑)」等々、諸説紛々ありますが、実際のところはどうなのでしょう?

 ※YAMAHA Wind MIDI Controllerを使った理由ですが判明いたしました。伊東さんから「ウインドシンセで DX7 II FDを鳴らしてみたい」と言うリクエストがあり、それならばと、YAMAHAが伊東さんに当時開発中だった WX7プロトタイプを見せて使ってもらったようです。そして音源は予定通り DX7 II FDを使っていました.ちなみに1987年6月にTBS系で放送された東京音楽祭や、サンダウンコンサートでもWind MIDI Controllerを吹いている様子を見ることが出来ます(東京音楽祭はYAMAHA 音楽振興会主催のイベント)
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●AKAI EWI 1000
 
(ノーマル→白、黒(予備)→銀メッキ)
・音源:フルアナログEWV 2000、EWV 2000、S-1000
 御存知初代EWIです。AKAIさんが「全く新しい楽器を作りたかった」というコンセプトの元、スタイナー・ホーンを進化させたウィンドシンセです。既存のウィンドシンセの枠にとらわれない斬新な設計が話題を呼びました。
 音源は専用音源のEWV2000。2VCOのアナログ音源ですが、なかなか安定した動作をしています。また、オシレーターの代わりにMIDI接続にて外部音源の音をシールド経由で取り込み、VCF、VCA、フィルター等をかけて制御できるEXT INという便利な機能もあります。この機能により、ほとんどすべての音源の制御が可能になりました。(過去にSTINGがこの機能を持っていたことがあるので元祖ではないが)
 さて、こんなに使いでのあるEWIですが、伊東さんにはまだまだ不満があったようです。(^_^;
 最初は「普通に」使っていたのですが、すぐにオッシレータをカーティス製(今は亡きアナログ音源用の有名な発振器メーカ)を積んだり、電圧を上げたりとだんだん暴力的な改造になり、とうとう最後には3台のEWVをマージボックスで繋げて音を出すという力技に出ました(笑)。しかもメインで使用する1番上のEWVはデジタルな部分を完全に取り去り、フルアナログでブッとい音を出していました。(図:EWIシステム参照)時代的にはWAVE〜NATURALの頃。メンテナンスが大変だったそうですが、確かに太くていい音でしたよね。
 3台のEWVを同時に制御しなければならないのだが、センサーやオーディオ出力個体差があるためボリュームペダルを使用。また、ボリ
ュームペダルのおかげで音のオンオフがワンタッチと一石二鳥です。
 また、サンプラーのS-1000はブラスの音をサンプリングして出しており、厚みに拍車をかけています。
 
ちなみに、DAISY FIELDのパンフルートもS-1000を使用しているそうです。
 音源から出た音は一端ミキサーに入り、リバーブにSEND→RETURNしているのも音を太くしている要因となります。これだけやればあのブ厚い音も納得と言ったところでしょうか。

図:EWI 1000システム
■EWI1000システム図

 ちなみに、クセのあるEWI 1000ですがプロトタイプを触った時に伊東さんは、「息が抜けるようにしてくれ」、「キーを普通のにして」、「ベンドを口で行えるようにして」等と文句をつけたそうです(笑)。その後、いじっていく内にその「ソリッド感」というメリットに気付き、全く違う楽器としてアプローチしていったところ非常に可能性のある楽器だということに気が付いたそうです。
 また、EWI 1000は息が抜けないので口の横から息を出すようにするのですが、その時にツバがEWIのタッチセンサーに入るとキーが効かなくなります(特にオクターブローラー部)。そのツバ止めとして管体の口方向(サックスで言うネック部?)に「髪留め」を流用して使っています。
 また、右手親指位置にタッチプレートとグライドプレート(ポルタメントのスイッチ)が平行してあるので、手の大きい伊東さんはグライドセンサーは切って使っていたそうです。
 余談ですが、直線的でいかにも「ハンドメイドなデザイン」にくるまれた、独特のクセのあるEWI 1000は、その「分かりやすいデザイン」、「ソリッドな吹奏感」に惚れ込み、3020の出た現在でも「1000吹き」と言われる奇特な人種が若干存在するようです。(か
くいう私もその一人)

※1.EWI 1000は電子楽器なのですが、基本的にアナログ制御しているため、ICの感度等、個体差が非常に激しいという性質を持っています。よって、伊東さんレベルのEWI吹きだとICを10個位並べて「さぁ、どれにする?」ってなことをやったそうです。
  私の場合は幸い"当たり"コントローラだったようで、今後基盤以外が壊れた際には、スペアボディに基盤を載せ替えるという作業をすれば、違和感なく復活できるそうです。
※2.伊東さんの改造、他にもオペ・アンプを換えたりしたそうです。
※3.なんと、マイケル・ブレッカーもたまに1000を使用しているそうです! やはりスタイナーホーンで慣れてしまったからなのでしょうか? それとも音源(EWV2000)の音色が良いのでしょうか。どちらにしても、トップ・イーウィニスト(?)の一人が未だに使用している事実は1000吹きにとって心強いです。
 ↓
●AKAI EWI 3000
 
(ノーマル、白)
・音源:EWV 3000
 EWIの二代目です。息も抜けるようになり、デザインも一新しての登場でした。
 グライドプレートも左手親指(オクターブローラーの横)に移動され、ブレスセンサーも息が抜けるようになり、自然と吹けるので随分操作が楽になりました。
 ただ、特筆しなければならないのは、ブレスセンサーの感度を伊東さんの場合極端に低く設定。SENSの目盛りを1〜2で吹いているそうです。あの「プァー」とした感じは音源だけでなく、センサーの感度によるものも大きいようです。
 しかし、実際にEWIをお持ちの方は目盛りを1〜2にして吹いてみて下さい。普通の人なら5分と持たないのではないでしょうか? ちなみに、住友紀人さんもこんな「体育会系のセッティング」だそうです。
 左手親指の位置に移されたグライドプレートですが、やはり伊東さんの手には近すぎるのか、「こんなもんはいらん」と切ってあるそうです。(^_^;(※注) 
 それから3000になってもなぜか「ツバ止め」を使い始めた当初は付けていました。

 また、後半は白いボディにキーが金メッキ、サイドは銀メッキで、斜めに「Takeshi "T.K" Ito」と「EWI3000」とシグネチャーの入ったものを使用。

グライドプレートが左手に移動するアイディアは伊東さんが考案したものだそうです。「こっちにあったら使いやすい!」とAKAIにアイディアを出し、ちゃんと伊東さんのアイディアを商品化(さらに指の面積によって速度を変えることが出来るようさらなる付加価値つき!)したのですが、当の本人は「触っちゃって使えねー!」と相変わらず切ってるそうです。(笑)
  なにはともあれ、「グライドプレートが使いやすくなった」という方は伊東さんに感謝しましょう!

 ↓
●AKAI EWI 3000"わがまま仕様"
 
(白、未確認1本)
・音源:EWI3000m、EWI3020m、OBERHEIM EXPANDER、OBERHEIM MATRIX
 EWI3000の特注タイプです。管体が若干長めになっており、ネック部分のカーブも多少違います。
 デザインは流線的な書体でライトグリーンの「T.K.」と「EWI」の文字が・・・。

 ネックの部分と管体を長くしたのは、重心を変えて構えやすくするためと思われます。まさか「他の人と同じ形じゃやだもーん!」と特注したんじゃないだろうなぁ・・・。(笑)

 GrooveIslandのツアー時にはこの4種類の音源が豪華に並んでいました。
 ちなみにサックススタンドの脇に、スタッフに頼んで作ってもらったというEWI用スタンドがありました。

 また、Groove Islandのツアー時には予備用のEWIとして、ネックの部分をノコギリで数センチ切断して、真っ直ぐにつなぎ合わせた(接合部分はパイル地のヘアバンドを巻いて隠してある)短いタイプも存在していたようです。これまたわがまま仕様(笑)。

※理由判明。その"まさか"でした(笑) 「他の人と同じじゃーね。流線的なデザインで作ってよ」と作らせたそうです。(^_^;
 また、ネックがストレートのものも制作していたそうです。理由は伊東さん独特の"EWIを上に向けた姿勢"で吹く際にカッコいいからだそうです(笑) ほんとワガママなんだから・・・(しかも使ってないし)(^_^;

・OBERHEIM EXPANDER
 VISIONSの頃、九州で開催された城島JAZZ INNに出演した際にEWIのセットに入っていました。また、アルバム「GROOVE ISLAND」発表時に「マイカルシアター本牧」でのライブで使用していたとの情報もありますので、結構長く使っていたのでしょうね。TAKECON-1の頃に言っていた「ウィンドシンセでExpanderを制御」というのが叶ったわけですし。
・MINI MOOG
 なんでも繋げていたことがあるとか・・・。先日のEWIクリニックで仕入れた情報ですが、詳しいことは分かっていません。
 御存知の方います?

 ↓
●AKAI EWI 3020
 
(銀メッキ→緑(サイドが銀メッキ、キー金メッキ)→白(ボディは白でネック部分にAKAIのロゴ、サイドパーツは銀メッキで斜めに白く「Takeshi T.K. Ito」の文字、キー金メッキ)→マルチカラーの緑(サイドとキー金メッキ)、他(未確認)2本)
・音源:EWI 3020m+EWI 3030m
 今のEWIは市販の3020をカスタムカラー化させたもの。
 色はマルチカラーという蝶の羽を参考にした分子構造によって色が光源の角度で変わる特殊染料(1缶で10万位するらしい)で基本色は濃いグリーン。本体サイド部に金メッキをほどこし、キー部分は18金。電導率の差から、キーの反応が良くなります。決して成り金趣味で18金にしているわけではないのであしからず。(笑)
 驚くべきは音源で、なんとドノーマルである。今のEWIの音源は非常に安定、進化しており、下手にいじるとかえって悪くなってしまうそうです。たしかに太い音の3020ですが、私個人的にはMINI MOOG、TAKECON-1、フルアナログEWV2000のようなジャジャ馬のような音(ピッチ)が味わい深く、妙な人間臭さがあり好きなんですけどね。
 音色の多くはJADD等のブラス系の音をアレンジして使用。アレンジと言っても、エンベロープカーブを好みに合わせたりする程度のことだそうです。
 基本的に「プァ〜」っとくる音色が好みの伊東さんです。

※1.現在使用しているマルチカラーEWI、3本あるのは皆さん御承知と思います(伊東=サイド金/キー金/濃緑、本田=サイド銀/キー金/濃緑、宮崎=サイド銀/キー金/薄緑)。伊東さんの現在使用しているものは実は最初に本田さんが吹いていて気に入り、「これカッコいいね! これオレの!」とどこかに隠したんだそうです(何か感ずるものがあったのでしょう)。後日伊東さんが来た時、隠してあったEWIをどこからともなく見つけ出し、「これ一番かっこいいじゃん! (選べるのは)年の順だろ?年の順! これオレの!!」と強奪・・・もとい選択したのが現在のEWIだとか(笑) すでにジャイ○ン状態(笑)
※2.1000ほどではないのですが、依然として個体差のあるEWI、プロミュージシャンには様々な要望に答えるため、「ボディはこれ、キーはこれ、基盤はこれ」というように様々なコントローラから部品を移植して1つのコントローラを作るそうです。宮崎さんのEWIはそうやって好みのものを作っているそうなので、伊東さんのもきっとそうなんでしょうね。
※3.「マルチカラー」の製品名が判明しました。やはり、きゅーちゃんが探し当ててくれた「マジョーラ・カラー」という製品で、東急ハンズ等全国の「マジョーラ・ショップ」で売られているそうです。1缶(下地剤含め)7,800円! レプリカ作りたい人は要チェック!
※4.現在(2000年11月)使用している楽器はなぜかEWI3000の後半(この時すでにEWI3020発売後、大体'97〜'98野音直前まで)に使われたボディを引っ張り出してきて吹いてます。
※5.最近は※4のEWIに、3020m+SONY製D7(ディレイ)とR7(リバーブ)の「お手軽セット」をよく見かけます。D7、R7は各々1Uの大きさで、3020mと共にひとつのラックに組み込み、可搬性を重視したものと思われます。またツアー等ではチューナーやミキサー、3030m等を組み込んだ「バブリー仕様」が別に用意されており、ステージによって使い分けしている模様。


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