Lost Paradise

佐伯祐司 第6章「凌辱」







葵くんは、紫苑くんと僕の見ている前で、おずおずと四つん這いになった。

「ふふっ、どうですか? 先生? 葵のこんな姿を目の前で見たのは初めてでしょう?」

「良かったら先生も参加しませんか? 姉さんも喜ぶと思うけどなぁ…」

葵くんは震えていた…。

「ふ………ふざけるな!」

「そうですか……残念ですね…」

「姉さんはね…今は僕のいうことなら何でも聞きます」

「この前なんて、風呂場で尻に入れてやりましたよ」

(!?………そんなことまで……)

(実の弟にまでそんなことをされて…葵くんは…)

僕は血を飲むような思いで、紫苑くんを睨んだ。

「…この場で再現してみましょうか?」

「?!何を言ってるんだ…」



「ふっ、冗談ですよ」

紫くんは

「さて……先生には観客でいてもらいましょうかね…」

「最初に言っておきます…。僕はこれが終わった後、姉さんを解放してもいいと思っています」

(?!)

「これはEDENからの解放も意味します。」

「………なんだって?」

「元々、EDENに依頼したのは僕ですからね」

「葵は僕のものであって…EDENのものじゃない」

「そういう決まりがあるんですよ。持ち主が僕になっていますから…」

「?!」 二重の驚き…。

それもEDENからもというのは聞き捨てならない話だった…。

そうなれば葵くんは本当に解放されるのだ。

以前のような生活に戻れるのだ。

弟である紫くんとの関係は戻りはしないだろうが・・・。

それでも、それは今よりもずっと救いがあるように思われた。



「ただし!!」

紫苑くんの言葉が、僕の考えを打ち消した。

「………条件があります」

「………………なんだ…それは?」

僕は警戒心を隠そうとしなかった。

これほどのことを姉にやった人間の言うことだ…。警戒もする。

「……・今日…ここで、あなたたちが僕を十分に満足させることです」

「そうしたら……、姉さんは解放しましょう」

僕は、紫苑くんに怪訝な表情を向ける。

「………………………満足とはどういうことだ…」

「ふっ……そうですね……とりあえずは僕の言う事に従ってもらうことですね」

「…僕の言う事には何でも従ってもらう」

「…………………・…」

「どうしますか?先生」

「…………………・」



正直…迷った。

このことがどんな結果を及ぼすか…

…彼が何を考えているのか理解できなかったからだ。

何より…葵くんをより苦しめる事になるかもしれない…。

「姉さんは既に承服済みですよ…」

葵君の体がびくんと反応する。

僕はふと…葵くんを見た…。

(葵くん…………)

そして決心する。

「わかった……約束しよう」

(この悪夢から葵くんを救い出せるなら…)

「君の言う事に従うよ」

(葵くんを苦しめる事になるかもしれないが…)

(それならば僕も一緒に苦しもう)

「………わかりました…」

(あと少しだよ葵くん…)

僕はそう思った。

でも……しばらく後にそれは甘かった事に気づかされる。

彼は…紫苑くんの精神は、僕が思っていた以上に崩壊していたんだ…。



「では、先生…最初の命令です」

「……そこで見ていてください」

「?…なんだって?」

「そこで見ているんです。ただじっと…」

「これから起こることを…」

紫苑くんはそう言うと、葵くんを無理矢理、立たせた。

「……………姉さん…佐伯先生が見てるよ…」

柔らかく甘美な声でささやく。

葵くんはそれにぴくりと反応する。

「………先生」

「そうだよ、姉さんの好きな先生だ」

葵くんは……ゆっくりこっちを見た…。

目があう…。

「せ………」 

「せ…ん……せ…」 葵くんの目が潤んでいる…。

そう思っていたら…葵くんの眼から涙が零れ落ちた。

どんなに辛かった事だろうか…。

あの日、クリスマスの日…僕と草薙先生と別れてから…。

口では言い表せないくらいの辱めを…辛さを…味わってきたに違いない。

でも、それももうすぐ終わる。…もうすぐ終わるんだ。

終わらせる…。紫苑くんの約束に限らず…。

僕は…あの公園の少女を見たとき、自分の身の安全から警察に訴える事はできなかった。

でも……葵君ならそれに躊躇しない。

葵くんを今度こそ守るために…僕はどんな事をするのもいとわないだろう。

「葵くん…もう少しの辛抱だ…」

僕が口から出したのはそれだけだった。



紫苑くんはそんな僕を軽く一瞥すると…葵くんに言った。

「さぁ、姉さん……始めるよ…」

「ゆっくりと……靴と靴下を脱げ……」

「…………」

葵くんは言われるまま、まず、右の靴を……足から抜き取った……。

そして……震える手で、左の靴を外しにかかった。

「……とまれ。」

葵くんが靴に片手をかけた中腰の格好で止まる……

紫苑くんは僕の方を向くと、満足そうに笑う……。

「……………」

……葵くんは動かない。

まるで、一時停止を押した立体映像のAVのようだった。

「よし、続けろ」

紫苑くんがそういうと葵君が再びゆっくり動き始めた。

左の靴を脱ぎ…………右の靴下を脱ぎにかかる。

「とまれ」

びくっ!と葵くんの動作が止まる。



そういうことか……僕は思った。

紫苑くんは、葵くんを…思い通りにできる自分を…僕に見せ付けているのだ。

今までもそうだったと…。

僕は思わず歯軋りする…。

「よし、続けろ」

葵くんはまたゆっくりと動き始めた。

言う事に従うという事は…

…指一本ですら、言うとおりに動かさねばならない……。

操り人形になる事なのだ……。

それはいまや僕も同じだった。

僕も葵くんも…紫苑くんを満足させるための道具でしかないのだ。



ただ…何よりも残酷のは……、葵くんが女性だということだ。

傷つくものをもち、受け入れるものをもった…。

葵くんは右の靴下を脱ぐと、左の靴下を脱ぎ始めた。

裸足になった右の足が冷たかそうだった……。

葵くんは指示どおり、両足とも素足になった……。

「良し……」紫苑君は満足げにそういうと、次の命令を下した。

「スカートを脱げ…」

葵くんは震えながら、それに従う…。

葵くんの白い素足が露わになった…。

葵くんは、ブラウスと下着のみを身につけた格好になった。



「こっちへこい」

「!!」 それは恐怖を伴うものであったが…

…葵くんはそれでも、無防備になった素足を…

…一歩……一歩……自分の身体に言い聞かせるように前へすすめた……。

そして、紫苑くんの身体につくほどに近づく………。

葵くんはただじっと……自分のスカートを押さえていた……。

少しでも自分の素足と無防備の心を守るために……。

しかし、それさえも紫苑くんは許さなかった。

「手を後ろに組め!」

葵くんはゆっくりと手をスカートから離し……後ろに両手を回した……。

「…………」 酷く不安そうな顔をする。

「恐いか……?」 紫苑くんが聞いてくる……。

葵くんはこくっと首を落とす。

紫苑くんはそれを見て、満足げに顔を葵くんの顔に近づける。

顔をそむける葵くん……。

紫苑くんは口を葵くんの頬につけた…。

葵くんはびくっと身体をすくめる。

舌で葵くんの頬を舐め上げた。

葵くんが僕に見られている為か背徳感を顔に出し顔を背けた…。



その隙に紫苑くんは、傍らのテーブルから、妙な色の瓶と筆を取り出した。

そして…その瓶のラベルを…僕に見せつけた。

『蓮華蜂蜜』 そう書いてあった……。

(何を……するつもりだ…)

そして紫苑くんはそのふたをゆっくりと開けると……その中に筆を入れる。

葵くんは顔をそらせたまま…ただじっと耐えていた。

「いいかい?姉さん……そのままでいるんだ……」

葵くんはただ黙ったまま顔をそむけている。

そして、かすかに首を縦に振った。

紫苑くんは……かすかに色づいた透明の液体がまとわりついた筆を…

…すぅーーーーーっと葵くんの白い素足の方へと持っていった。

そこには、汚れの知らないような無防備な白い素足があった。

「やめろ!!」 僕は思わず叫ぶ。

べちゃっ……

「はぁ!!」 葵くんは思わず声をあげる。

葵くんは驚いて自分の太股を見る。

そこには……わけのわからない卑猥な透明な粘着質の液体がまとわりついていた。

それはいやらしい糸を引いて、自分の足の下方へと流れようとしていた。

それこそゆっくりと……、葵くんの足を汚すように……音も立てずに。

その上を、そのいやらしい液体のたっぷりついた筆がなぞる。

「いやあ!!」

葵くんは手を前に出す。

その筆が近づかないように……。



「やめるんだ!!こんなことをしてどうする!!」 僕は叫んだ。

紫苑くんが冷静にこっちを見て言う…。

「……先生……静かにして下さい………命令です…」

「…ぐっ!!……」 何もできない…。

葵くんがひどい目に合わされているのに僕は何もできないのだ…。

実の弟に…身体を汚がされている葵くんに…

実の所…紫苑くんを殴り倒して葵君を救い出すことはできそうに思えた。

だけど…EDEN…彼らの存在が僕には気にかかった。

このは彼らが監修しているのかもしれないのだ。

この場を監視しているかもしれない…。

僕がこの非常識な現場を壊せば…

…EDENの連中が現れて、再び葵くんを連れ去るかもしれないのだ。

そうなれば、もう葵くんが目の前に現れる可能性はないだろう…。

僕は…歯を食いしばりながら…耐えるしかなかった。



その間も……透明な蜂蜜は……葵君の足をつたっていく……。

太股から流れ出たそれは……音もなく、膝小僧を通り……、ふくらはぎ……そしてくるぶし……足の甲へと落ちていった。

「手は後ろだ。」

「!!いや…!!」

「……………………」

「……………………」

そしてゆっくりと、葵くんの手は操り糸に引かれて、もとの場所へと帰っていった……。

筆がくる。葵くんは目をつぶった。

べちょっ。…びくっ!葵君の全身を嫌悪感の電流が流れる。

いくら目を閉じても感触は消えはしない。

べちょっ。

紫苑くんは筆で葵君の綺麗な素足にこの上なく卑猥な液体を塗る。

「!!……っ」 葵くんの顔が嫌悪に染まる。

べちょっ。

「あっ!!」葵くんは身体よりもその心を汚されているようだった。

……剥き出しにされた心を。

べちょっ。

そして葵くんの太股に張り付いた筆は、今度はそのまま離れようとはせず……、

その液体を伴って……、つぅーーーーーーーと葵くんの素足を這い始めた。

「あ!!…っ……!!……い…いやぁ。」

膝の裏……

「あぐっ………!!…や!」

つつっーーー。

腿……

「!!!」

つぅーーーーー。

くるぶしから足の先まで……。

「やん!!………!!……うぐっ!」

指の一本一本まで丁寧に…それは葵くんの足を塗っていった……。

葵くんはただ両手を後ろ手に組み、もがくだけの生きた人形だった。

剥き出しにされた心と身体を、実の弟に凌辱されている。



僕は気づいていた…。

時折、こちらを見つめる葵くんの視線に…。

だから…僕は、葵くんは僕に見られるのが…辛いんだと…うすうす感じていた。

(……ごめん……)

僕は葵くんに表情でそう告げた。



……葵くんの両足は、卑猥な蜂蜜に蹂躙され尽くした。

両足とも、太股から下は、べとべとだった。

葵くんはそれでも両手を後ろに組んで、ただ震えて立っている。

紫苑くんは、葵君の卑猥な化粧を施された、文字通り甘くなった太股に舌を伸ばした。

ぬるっ。

葵くんはその突然の感触に驚き、そちらに目を向ける。

「!!い!…いや!!」 葵くんは舌から逃げようと足を横にずらす。

ぶちゅっ。床に溜まった蜂蜜が泡を立てる。

紫苑くんの舌が逃げた太股を追う。

逃げた葵くんの太股の後ろのあたりを舐める。

「!!や!!」更に逃げる。

紫苑くんはその足を両手で抱え込んだ。

「おねがい!!やめて!!」

そんな葵くんの姿が哀れでならなかった。

その蟷螂はぺろぺろと葵君の白い太股についた蜜を舐めとる。

「いやぁ!!」 あまりにも卑猥な光景。そして悲惨な光景だった。

実の弟に、おんなとしての尊厳も自尊心も奪われている光景……。

大事な人の…そんなところを…僕は見せられていた。



ぺちゃ、ぺちゃ……

葵くんの太ももを舐める紫苑くんの舌の音が部屋に響く。

「やめてお願い!!」

ぺちゃ、ぺちゃ……。

「舐めないで……。……手を離してぇ!」

蹂躙……陵辱……そういうものがあるとしたら正にそれだった。

犯されている。身体も心も。

哀れなほどに直接的な叫びが葵君の口からでる。

「舐めないでぇ!!」

両手は後ろ手に目に見えない操り糸でがんじがらめだ……。

ただ、足だけが動く。蜂蜜溜まりの上を。

……ぶちゅっ…と卑猥な音をたてた。



……ずるっ!!

葵くんは足をすべらせ、その上に倒れた。

体中に蜂蜜がつく。

起き上がろうと両手を立たせる。

「……っ…!!」

卑猥な光景だった。 葵くんは体中から糸を引かせていた。

葵くんは、尻餅をついて振り返る。

紫苑くんがじっとそんな葵くんの姿を見ている。

「い……いや……。」

葵くんが両手と尻を蜂蜜溜まりにつけながら、ゆっくりと後ずさりをする。



葵くんはもう陵辱されるしかない、それを恐れるしかないのだ。

ここにいる木偶の坊は…それを防ぐための何もできないのだ。

そして…紫苑くんは、葵くんに飛び掛った。

葵くんのつけていた金髪のかつらが外れた…。

ふわっとした葵君の長い黒髪が中から現れた。







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佐伯祐司 第6章「凌辱」