「Lost Paradise」
水代紫苑 第三章「ユカリ」
再び、ここにくる時が来るとは思わなかった。
EDENのメンバーとなったあの日…
僕には何の興味もなかったが、ちゅうたさんの道具で姉さんの友人だった何とか…ようこ…
…とかいう雌奴隷を、葵の必死の願いから見に行った時より…。
この大学にはかつてEDENへの扉が開いていた。
そこに新たに巻き込まれた生贄は、講師二名、学生二名…。
そこから現実に戻れたのは、約一名…男の佐伯助教授だ…。
今、僕の隣には、『ユカリ』がいた。
金髪のかつらをかぶった…本物のユカリだ。
僕がなりたくてなりたくて、仕方がなかった本当のユカリだ。
水代 葵と言う女性の完全なコピー。
……完全に決まっている。
僕は思わず大笑いしそうになる。
中味は本物の水代 葵なのだから。
ユカリはもういらないのだ。
僕は水代 葵を手に入れたのだから。
だから僕がユカリになる必要はない。
でも、まだだ。
本当に葵を手に入れるための大切な儀式が、今日、ここで行なわれる。
ユカリはその幕を引くために最もふさわしい人物のように思えた。
それは僕の心の決別。
葵を手に入れた後、脱ぎ捨てられる僕の心。
それは僕と葵の中間点。
僕が葵になる姿。
葵が僕になる姿。
だから、すごくふさわしい。
葵がユカリになるのは。
葵が僕のほうに寄ってくる事だから。
そう、今日の儀式の後、ユカリは……死ぬ。
葵は僕のものとなり、葵からも僕からもユカリと言う肖像はなくなる。
そして、僕は紫苑に、葵は葵になる。
完全に自分たちとして……二人はひとつになる。
もう、どちらもユカリになる必要はない。
葵も、そして僕も。
葵の『ユカリ』は『アクア』といった。
僕がそう名づけた。
葵にもそう言い聞かせてある。
この姿のお前の名はアクアだぞ…と。
僕の名前が紫苑。紫はゆかりとも読む。
そして葵……自分のHPで付けていた名前を僕は知っている。
それは葵のハンドルネームでもあった。
葵はアクア…。
その言葉が与える清涼感が姉さんにぴったりだった。
しかし……その格好はユカリそのものだ。
ユカリが僕の心なのだから。
姉さんに近づきたいという僕の心に。
だから、葵は僕に近づくためにユカリの姿になる。
僕はニヤニヤしながら、『ユカリ』となった葵を引きつれて人気のない学内を行く。
あらかじめ、僕はこの大学で遊ぶのに適した場所を、直接ちゅうたさんに聞いていた。
「そりゃあ、お前、西館の東側だろうよ。なんせあそこは…くっくっくっ」
「破廉恥な女が、思わず自分を慰めてしまうほど人気のないところだからな」
ちゅうたさんが誰のことを言っているのかは推測できなかったが、実際そういうことがあったのだろう。
「お前も見てみるか? いや、すでに見たことがあるだろうがな」
「?」
「まぁ、いいさ、とにかく、葵と遊ぶにはあそこはうってつけだぜ」
僕はうなずく。
ちゅうたさんが何かを詮索するように、にやりと笑う。
「何で学内なんだ? 」
「佐伯の先公とでも遊ぶのか…? 」
図星だった。
「いいな、それ…。面白そうだったら俺も混ぜろよ」
答えてもいないのに、ちゅうたさんはそう言う。
それとも僕の反応でそう確信したのだろうか?)
ちゅうたさんは時々、自分の推測を元にして、言葉が飛ぶ。
(EDENの連中などみな狂った奴ばかりだけどな…)
そう。この僕を含めて…。
「どうなんだ? 」
ちゅうたさんが催促する。
「………すいません。今回は」
「ちっ…………香乃もつれていこうと思ったんだけどな…」
「あいつは佐伯の名を出すと喘ぎ方がすごくてな……くっくっくっ」
「目の前にいたらさぞかし痴態を見せ付けてくれると思ったんだけどな…」
「すいません。今回は自分だけでやりたいんです」
「ふん。まぁ、おまえがそう言うなら仕方ないけどよ…」
ただ、ちゅうたさんには二つだけ、力を貸してもらった。
それは…今日、佐伯助教授が研究室にいるということを教えてもらった事。
そして、佐伯助教授が西校舎へ来る事を確認してもらうという事だ。
こなければ、誘い出してもらう手はずだった。
その代わり、僕はその後、佐伯助教授を『貸す』事を約束した。
(この際……元同僚の草薙先生の落ちる姿も見せて、彼の精神を壊してしまった方がいいからな…)
周りに人気のない事を確認して、僕と葵は西校舎に入る…。
適当な空き教室を探し出し、僕は葵をその中につきばした。
「あうっ!」
葵が教室の床に倒れこむ。
僕は葵を見て笑う。
「姉さん……いいね。これから僕の言う事には完全服従してもらうよ」
「そうすれば、場合によっては佐伯助教授に引き渡してあげてもいい」
葵の目が潤む。そしてうなずく。
葵は恐らく、これは佐伯のところに行くために必要な事…
僕が最後に満足するためのものだと疑ってかからない。
だからこそ、完全服従するだろうと僕は思う。
気に入らない事だ…。
しかし、僕はそんな葵の恋心を利用する。
佐伯が葵を受け入れられないぐらいの痴態を…葵自身にさせるんだ。
そして佐伯にも…ふふふっ。
(これは最後じゃなくて始まりなのさ…姉さん)
僕は、佐伯を陥れるための準備を始めた…。
持ってきたバッグの中から、姉さんの普段着を取り出す。
大人びた白のブラウス…。
その上からのワンピース…。
姉さんと同じ髪型のかつら…これはEDENに頼んで、手に入れてもらった。
WebMasterが言うには、代金はいいそうだ。
その代わり、あとで報告する必要がある。
ここで何が行なわれたかを。
「できれば画像付きでHP上で公開することが望まれる……」
それがWebMasterの言葉だった。
僕は葵の服装を身につけると、早速、物陰にビデオカメラをセッティングし始めた。
これもEDENからの借り物だ。
このカメラは幾つの痴態と悲哀を冷酷に記録してきたのか…。
機械には人格がない…。
(まったくだな……)
「さぁ、姉さん…始めようか……」
僕は床に転がっている葵に近づいて言う。
「早く気づいてくれるといいね…」
とりあえずは、聞こえるものなら葵の声を聞かせてやろう…。
そう僕は思った。
からん………。
僕は床に、黒いバイブを転がした。
「さぁ…それを使ってもらうよ…」
「先生に気づかれるように…ちゃんと声をあげてくれよ…姉さん」
「先生に聞こえなければ…先生には会えないからね」
姉さんはそう聞くと…おどおどと、その淫靡な物体に、白く柔らかい手を伸ばす。
これから、自分の淫らな行為の淫らな声をあげなければいけない。
先生に聞いてもらうために…。
先生を呼ぶために…。
葵は…それを自分の秘部に当てた。
「はぁ………はぁ………」
5分後……
葵の呼吸が荒くなってくる。
しかしこれではとても西館中に響きわたるような声ではないだろう。
「そんな声では聞こえないよ…姉さんの声は佐伯先生に届かないよ…」
葵の身体が竦む。
「もっと素直になって、やってもらわないとね…」
それから更に三十分が経過した。
「あああああぁっ……」
目の前の葵は身体を床に委ね、仰向けに
右手だけが股間に当てたバイブをしっかりと握っている。
スクリューのように回転しつつ、自分の中を攪拌するそれを離さないように…。
床には…おびただしい量の愛液がたれ…不気味な光沢を放っていた。
バイブを握る葵の右手も自分の愛液でぬらぬらだった。
葵は弛緩している様だった。
力なく、ただただ自分の内部をかき回すバイブに反応していた。
「あぁぁぁぁっ………」
時折、びくびくと腰が波打つ。
もう、何回いったのだろうか…。
(これは見ている方も苦痛だな) 僕は苦笑いする。
そろそろ僕も参加しようか…
そう考えた時だった。
何か足音のようなものが聞こえた。
それと同時に葵の携帯に連絡が入った。
僕は急いで携帯をとる。
「おい!紫苑か?
佐伯の先公、気づきやがったぜ!
今、そっちに向かってる。それもダッシュでだ、ははは!
まぁ、楽しめよ。それと俺もひっそりと参加させてもらうぜ
何、邪魔はしねーよ。ビデオを仕掛けておいたからな。
それを見て香乃と楽しませてもらうだけだ。それぐらいならいいだろ?」
「はい。教えてもらってありがとうございます」
僕は携帯を切ると、葵からバイブを取り上げた。
「?!」 葵が怯えた目を向ける。
「姉さん…ご苦労さん。少し休んでくれ」
僕は『ユカリ』の格好をした葵を教壇へ連れて行く。
そして、葵を中に押し込んだ。
「いいかい?姉さん。姉さんはアクアだからな…佐伯先生にもそう言うんだよ」
僕は葵に優しい目を向ける。
葵はただコクコクとうなずく。
僕の機嫌を損ねたくないのだろう…。
あわただしい足音が近づいていた。
宴がもうすぐ始まろうとしている…。
僕が楽しみにしていた…最後の時が…。
「Lost Paradise」
水代紫苑 第三章「ユカリ」
完