「Lost Paradise」
第一章 紫苑編 「焦燥」
カタカタカタ………
その日、僕は自室のパソコンに向かっていた。
退屈まぎれのインターネット…。
空いた時間に、こうしてHP巡り(ネットサーフィン)をするのは以前から変わらない習慣だ。
いま開いているのは、TITANSの作戦会議室とかいうくだらないページ…。
気まぐれに、水代葵という言葉を当てて検索してみたら、ヒットした(ほんとか?
ここはどうも主にアダルトゲームの話で盛り上がっているサイトらしい。
螺旋回廊というゲームは結構過激らしく、ここのTITANSとかいう管理人や掲示板の常連達も絶賛している。
僕はこのHPを一通り見る。
「本当にくだらないや……」
僕はそうつぶやく。
所詮それは架空の事。ゲームの事。
そう。普通の人間は、こうして自分の中の欲求やストレスを発散させているのかもしれない。
現実には行えないような事をゲームに期待する。
そしてそこで自らが感じた事を語り合うために、こうした掲示板を利用する。
すべて、自分の高ぶった感情を誰かに話すという満足感を得たいがためだ。
普通の人間はこうしている内に自らの鬱憤もわだかまりも解消してしまう。
理性という名の牢獄の中で、自分の内側から生まれた衝動を解消させるための…
…それは一つの方法なのかも知れない。
だとすればそれは、より現実的……というよりは常識的であるとはいえる。
少なくとも、常識も理性も両立させながら、縛られた心を解放させる事ができるのだから。
それは社会生活を営む人間にとって、大切な事なのかもしれない。
自分の欲望を表に出さず、解消させる方法を知ることは…。
しかし僕はもう既に、その一線を超えてしまった。
僕がその非現実的な扉を開く前からも、その存在だけは知っていた。
EDEN……失われた楽園。
そこは違っていた。
ごまかしではない。現実としての欲望がそこには存在していた。
そう。今の僕には、このTITANSの作戦会議室に出没する男達の心理は、もう小手先のごまかしにしか感じられない。
僕も狂気の扉を開かなければ、そういうふうに自分のわだかまりとかを上手くごまかす術を覚えていくようになったんだろうか……。
解消できれば、それはもうごまかしにはならない。
それで常識的な生き方ができるのならば、それでよかったのかもしれない。
だけど僕には…どうしても譲れないものがあった。
僕は表の世界のそのHPを消すと、裏の世界への扉を何の躊躇もなく人差し指で開いた。
EDEN。
その表の世界に生きるものにとって、偽りの楽園は姿を変え、未だに存在していた。
いや……変わったのは場所だけなのかもしれない。
その中身は何も変わらず、昏き者達の住処となっている。
あの日………僕が葵を依頼どおりに身請けした直後、前のEDENは姿を消した。
迅速な対応だった。
遊びの後はいつもそうだ。
そして、メンバーには新規のURLがWEBMASTERから送られてくる。
それは新たなEDENへの扉だった…。
EDENは決して地上界と接しない。
いつでもどこにあるのか分からない
…そしてそういうものでなくてはいけない。
だからこそ、たがが外れる。
普段、表に出さない、抑圧した欲望やエゴ、そういうものを丸裸にできる。
いわばEDENは、本当の自分、自分の心を裸にするところだった。
……理性にも欲望にもブレーキをかけない場所として。
そして、僕もユカリとしてEDENに遊びを依頼した時から、その一員になった。
そう。欲望に歯止めをかけない人間として。
どうしても欲望の対象にしたい人物が存在するから…。
………それが僕にとっては葵だった。
僕の歯止めをかけない欲望の対象……。
僕の好きにできる道具……おもちゃ……奴隷……。
決して僕の下から離れない、僕だけの存在にするために。
そうなるようにEDENに依頼した。
そしてEDENはその期待に応えてくれた。
僕は葵を時折、EDENに出品する。
礼のつもりなんかじゃない。
「……ふっ、当たり前だ。」 僕は自分でそう思って失笑する。
葵は僕の奴隷なんだ…。
出品するのは……僕の命令だからこそ、そうするんだ…って事を誇示するためだ。
葵が人気があればあるほど、僕の独占欲は満たされる。
他の誰がどんなに葵を望んでも、
これは僕のものなんだ…誰のものでもないんだという優越感が生まれる。
今思えば、佐伯助教授に嫉妬心を抱いていた頃が懐かしい。
それともそれは僕の心に自信が芽生えたからなのか…ふふっ。
しかしそれもこれもみな、EDENの扉を叩いたからだろう。
それが例え、引き返せない扉であったとしても、
そうすることによって葵を手に入れることが出来たというなら、僕はそれに後悔はしていない。
今では葵は僕のいうことなら何でも聞く。
足の裏を舐めろと言えば舐め、四つん這いになり、猫のように鳴けと言えばそのとおりに鳴く。
EDENは葵を完全に塗り替えてくれた。
葵のおよそ前向きに何かを望むという心を潰してくれた。
そう、佐伯助教授への淡い想いもともに…。
それが何よりいい…………僕はにやりと笑う。
……意地の悪い笑い方だ。
EDENや奴隷以外に人前でこの表情を見せる事はない。
今の僕の心に一番近い表情だ。
………僕の心が、ふとぐらりとゆれる。
葵は…………今、シャワーか………。
僕はゆっくり立ち上がった………。
欲望に目覚めた獣のように…。
獣になればいい…僕はそう思った。
もう何も遠慮する事はないんだ。
シャアァァァァッ。
葵に気づかれないように、脱衣所のドアをゆっくり開ける。
シャワーの音が聞こえてきた。
葵にはいつも清潔にさせている。
僕は以前のように清楚な葵が好きだったし、何よりも他の家族に気づかれると…ことだ。
シャァァァァッ。
僕はゆっくり引き戸に忍び寄った。
(くっくっくっ。) 思わず忍び笑いがこぼれる。
今、突然この引き戸を開け、葵を犯してやったら、どういう反応を葵は見せるだろう…。
いつでもどんな時でも、僕は葵を犯せるんだってことを葵に教え込んでやりたい。
葵に刻み込んでやりたい。
僕は、暗い衝動にゆれた心に従って、引き戸に手をかけた。
「あっ!」 その時、葵の声が聞こえた。
(何だ……?)
僕は引き戸にかけた手を一端、離した。
そして耳を澄ます……。
「あっ……ん!」
(この声は……)
想像に難くなかった。
(ふっ………。ふふふっ……。)
僕は思わずこぼれてくる笑いを必死で押さえる。
(葵の奴………ふふっ。そうか)
葵は自慰をしているんだ。
自分で自分を慰めているんだ。
向うからこちらのシルエットぐらいは見える。
しかし、それに気がつかないくらい熱心に…。
(ふふっ。…そんなに待ちきれなかったのか…僕が…)
僕はにやりと笑う。こぼれてくる笑みが止まらない。
(そうか…)
僕は葵の気持ちを満たしてやる事に決めた。
今日はたっぷり可愛がってやろう。
どうせ親もいないんだ。
今日は葵が満足に感じるようにしてやってもいい。
今日の僕は至って気分がいい。
僕は引き戸に手をかけた。
そして一気に…開けた。
「あんっ!……せんせい!」
「!?」
それと同時に、葵の叫びが聞こえた。
一瞬、僕の中の時間が止まった。
引き戸を開いた状態で硬直する。
「?!」
葵が驚いてこちらを見る。
そして、葵もその場に釘付けになった。
「……………………」
「……………………」
シャワーの音だけがしている……。
時間が凍っていた。
葵はシャワーの飛沫に打たれ、輝いて見えた。
その肌の瑞々しさは以前と変りがない…。
葵に人気が出るわけだ。
葵のロングの髪は…しっとりと濡れていて…身体に張り付いていて…
女性の美を具現化した存在のように、美しく…汚してはいけないもののように清らかに感じられた。
(せんせい!) その姿と共に、僕の心にさっきの葵の叫びがリフレインする…。
この美しい女性そのものとも言える存在が心を向けている相手は…。
いくら内面を汚そうが、その美しさを少しもそこねない姉さんの心は…。
そう変わらなかった。
姉さんは僕のものにはなっていなかったのだ。
いくら汚そうが、犯そうが、僕のどんな恥辱的な命令に従おうが…。
どんなに恥知らずな言葉をその口から言わせようが…。
水代葵の想いまでは、僕の方向には向いていなかったのだ。
それを……今、感じた。
(せんせい!)リフレインする。
僕の心にゆっくりとその言葉が染み入ってくる。
葵が切なげに言ったその言葉…。
僕は………自分の中の何かが壊れるのを聞いた。
葵の目が潤んで見える…。
いつもの、懇願する奴隷としての表情だ。
僕が手に入れられるのは、こんな姉さんだった。
僕が手に入れられたのは、こんな姉さんでしかなかった。
僕が本当に欲しかったのは、仮面をかぶった姉さんじゃなかった。
なんにでも従う……それだけの姉さんじゃなかった。
確かに葵は自分から望んで命令に従うようになった。
でも……、ただそれだけなんだ。
僕には姉さんのそんな部分しか手に入らない。
そして、姉さんの一番綺麗な心は…あいつに…佐伯助教授に向けられるんだ。
僕はひどく暗い衝動に襲われる自分を感じた…。
(姉さん……。姉さん…。姉さんを誰にも……特にあいつだけには渡すもんか。)
(…こんな姉さんを渡すもんか!!)
僕にはただ従うだけで……姉さんの綺麗な部分は、いつまでもあいつに向けられる…。
そんなことは許せなかった。
僕は、その…どろりとした感情を……葵に向けた。
「うわぁぁぁぁ!」
僕は葵に平手打ちを食らわせた。
「あうっ!」
勢いで葵はバスルームに倒れこむ。
構わず、僕は葵の左手を掴むと、後ろにねじ上げた。
「ああっ!」 葵の端正な顔が苦悶に歪む。
…それを望んでいる自分を感じた。
(壊してやる………)
そういう衝動が沸き起こる。
(今…ここで……)
僕は葵の片腕をねじ伏せたまま、脱衣所のタオルをとった。
すかさず、葵のもう片方の手もとり、後ろ手に縛り上げる。
「あっ…!」 かなりきつく……。
いつものように手加減などしない。
縛り上げると、僕は葵をバスルームの床に転がした。
だんっ…という音がして葵が仰向けになる。
葵は突然の僕の行動に怯えていた。
いつもはこんなに激しくしない。
大抵は僕は命令して、葵に何かをさせる。
自分から葵に何かをすることは少ない。
それが服従させた証だと思っていた。
僕が自分から何かをすることはありがたいこと。
そう思い込ませるために。
ちゅうたさんにも、そう教わった。
それが奴隷をしつけるコツだと。
………でも、今、僕はそんな理屈などかなぐり捨てようとしている。
方法なんてどうだっていい。
やり方なんてなんだっていいんだ。
葵は怯えた表情で僕を見ている。
何も言えないでいる…。
その表情は、確かに僕の中の何かを刺激するものがあった。
どろりとした感覚を…。
僕はそんな葵を見下ろすと、ボディーソープのボトルを手にとった。
もういい……。
姉さんが手に入らないなら…
そしてあいつに姉さんを渡すぐらいなら…
壊してしまった方がいい。
そうすれば、少なくてもあいつのものにはならないんだ。
僕はノズルの先端を葵に向けた。
そして……ノズルを押す…。
びゅっ……と白い溶液が葵の裸体に向かって飛ぶ。
葵は身をひねるが、かわせるはずもなく、溶液は葵の太股のあたりにかかった。
葵は身をひねって嫌がっている。
それを無関心に眺めると、僕は、再びノズルを押した。
びゅっ…と、またボディーソープが葵めがけて放たれる。
今度は葵の腕にかかった…。
びゅっ……。びゅっ……。
僕は機械的にそれを繰り返す。
なぜだろう…………。
ボディーソープは身体を綺麗にするためのもののはずなのに…
それが葵にかかるたびに酷く淫靡に感じる。
その度に葵を汚しているような感覚を覚える。
僕はその間も簡易ポンプを押す。
そうだ……。汚せばいいんだ。
今まで以上に………。
もっと……。もっと……。
僕は狂ったようにノズルを押しつづけた。
葵は……ソープの白い溶液まみれになった。
そして、そんな中で悶えている…。
これでいいんだ……。
葵はこれで……。
さっきのように清らかでいてはいけないんだ。
葵は汚さなくちゃいけないんだ。
汚された存在でなくてはいけないんだ。
僕が汚すんだ。
他の誰でもない。この僕が汚すんだ。
葵が汚れれば汚れるほど、葵に僕の存在が刻み込まれるんだ。
他の人間が見るのは…………僕が汚した葵なんだ。
さっきの清らかな葵は、今、後ろ手にくくられて、
その淫らな液体を落すことも、その姿を隠すことも出来ないまま、身悶えている。
「姉さん……」
僕は久しぶりに葵のことをそう呼ぶと、身につけているものを脱ぎ始めた。
親しみからなどではない……。
昔の自分との関係を葵に意識させるためだ。
僕は、服をすべて脱ぎ去ると、葵の身体へ手を伸ばした。
「姉さん…」 もう一度呼びかける…。
あの誰もが警戒心を解く顔で。
そして待つ…。
葵は怯えながらも、少し戸惑ったような顔をしていたが……
ふっ…と、突然その表情に生気が吹き込まれる……。
昔の……姉さんの表情だった。
「姉さん……」僕は更に呼びかける。
「……………」沈黙が漂う……。
「し…お……ん…?」
「………?!」
その時、僕ははっきりと聞いた。
一語一語を確認しながら話すようだったが…
…確かに葵は僕のことを「しおん」といった。
やはり、未だに姉さんの心には昔の気持ちが眠っているんだ。
さっき、葵が「せんせい」と口走った時……
僕はそれでも、正直嬉しかった。
まだ姉さんに、こんな部分があったなんて。
前の姉さんの心が生きていたなんて。
でも、だからこそ渡せない。何が何でも。
姉さんは僕だけのもので、僕の物でなくてはいけないんだ。
葵の目が、さっきとは違う雰囲気に潤んでいる。
その目には少しではあるが、理知の面影が見えている。
昔の心が表に出てき始めているのだ。
突如、僕の胸に痛みが走る。
僕の姉さん…。
僕の好きだった姉さん…。
何を犠牲にしても渡さないと誓った姉さん…。
僕はその時、気づいた。
僕はもう……昔の姉さんの前では、前の自分にはなれない。
自分でそれを破壊したのだから…。
……僕は昔の姉さんの心を犯し続けるしかない。
いくらそれを求めても…。
昔の姉さんの心が表れればそうするしかないんだ。
僕は……それを望んでいるはずだ。
いや、望んでいる。
だからEDENに…!!
………僕は心を固めた。
そして、呼びかける。
「……姉さん……」
「し……お………ん」
葵がその昔の表情を消さないうちに…
僕は………葵の身体を引き寄せ、強引に唇に貪りついた。
「んぐぅっ!?」
葵の驚いた目……。
EDENの連中に焼き豚のように宙吊りにされた時の目…。
僕は一瞬、正気に戻った葵の身体をしっかり掴んだ。
閉じられた口を僕の口で強引にこじ開ける。
葵と僕の唇がいびつな形に歪む
かちん!と歯と歯が合わさる音がする。
葵は嫌がって逃げようとする。
体中に掛けられたボディーソープの液体のせいで、僕の腕から葵の身体が、ずるりとすべり抜けた。
葵は立とうと足に力を入れるが……
ずるっ…と膝からすべり、顔からバスルームの床に倒れた。
そして、僕の面前に葵の尻がさらけ出される。
僕は、ほくそえむ…。
「姉さん……逃げるなよ…」
その言葉はもう先ほどのような熱は帯びてはいなかった。
それは、この上なく冷たく…そして残酷な宣告でしかなかった。
「こういうのも悪くないだろ…?」
僕は葵の尻に手のひらを乗せると、背中へすべらせた。
ボディーソープの泡が、ただでさえなめらかな葵の肌の上を、よりスムーズに滑らせる。
「!?」 前の心を一瞬でも取り戻した葵は、酷く臆病な表情をしていた。
(そうさ………。すぐには奴隷には戻れないよね……くくっ。
…………………すべてを諦めた奴隷の心には……)
背中に回した手を、葵の胸に這わせる。
(その方が楽だったろ……姉さん…。)
僕はボディーソープまみれの葵を後ろから抱きしめる。
初めてまともに抱きしめた姉さんは……とても華奢な体つきで……そしてなまめかしい肌をしていた。
その肌の感触に、僕の男の部分が素直に反応する。
僕はもう自分を止められなかった。
後ろ手に縛った葵を後ろから抱きしめる……すると僕の股間は自然、葵の尻の部分に当たる。
そして僕は、まるでそうするのが当たり前のように…、目覚めた自分自身を葵の尻に密着させた。
にゅるっ………という感触がして、僕のその部分が葵の中に埋没していく…。
「…あぐっ!」 葵があえぐ…。
『アナルの味を覚えさせるには、排泄の快感を覚えこませることなんだ。』
EDENのメンバーの一人がそう言ってた。
葵は既にその味を覚えている…。
………今、葵は排泄と同じような快感を味わっている。
僕には今、葵の気持ちがよくわかる。
なぜなら……僕もかつては同じ経験をしていたからだ。
お尻の穴に入れられるという感覚。
それは葵より僕の方が先輩だった。
だから……すごくよく分かるんだ。
今、葵がどんな気持ちでいるのか…。
どんな快感を味わっているのか…。
それが手にとるようにわかる。
例えば……………僕は自分を葵の中に押し込む。
「あぅぅっ!」 葵が喘ぐ。
こうして押し込んだ時…
逆流したような苦しさを覚える。
それは便意をもよおした時に、それを許されない背徳の感情…。
そうだ…ふふっ。葵は浣腸も経験しているんだったな…。
そして……………僕はゆっくりと腰を引く。
「ああぁ……っ!」
こうして腰を引くとき…これは排泄した時の感覚だ。
解放された時のような開放感…。安堵感…。
僕はだんだん愉悦してきた。
僕は僕自身を犯しているような気にさえなってくる。
自分で自分自身を癒しているような気にさえなってくる。
目の前の姉さんは、かつての僕と同じなんだ。
僕と同じ気持ちを味わっているんだ。
あの時の僕の……辛さ…苦しさ…切なさ…その全てを…。
僕は姉さんが愛おしくてたまらなくなってくる。
あの時の僕の気持ちを姉さんが味わっているんだ。
あの、いつでも明るく優しかった姉さんが。
姉さん……姉さん!!
「あぅぅっ………!」
葵はまるで雌猫のような喘ぎ声を上げる。
快感と言うよりは、苦しいという感覚。
苦しみを与えられ、それから解放される事によって与えられる悦楽…。
これだ……と僕は思う。
これこそが今の葵に…僕のものとなった姉さんにふさわしい快楽。
僕のものになることを喜んでもらおうなんて思っちゃいない。
むしろ苦しめばいい。
苦しんで苦しんで、苦しみもがき抜けばいい。
それこそが僕への服従と屈服の叫びなんだ。
今までもそうだった。
でも、これからはもっと明確な気持ちと方法でそうするべきなのだと僕は悟った。
それが姉さんと、姉さんを望んだ僕の絆なんだと。
…僕はちゅうたさんとは違う。
僕にとって姉さんはただの奴隷ではない。
どんなことをしても、手に入れ、僕だけの所有物にしたい存在だ。
ちゅうたさんが壊した、あの肉穴と呼ばれた女のような…
…いつでも手に入れ、いつ捨てても惜しくないようなおもちゃじゃないんだ。
僕にとって、姉さんは道具じゃない。
自分から離せない存在なんだ。
例え、姉さんがどんなにそれを拒もうが、どんなにそれを嫌がろうが…。
だから、苦しめばいい。
無理矢理、姉さんの自由と純潔を奪いつづける、この僕にふさわしい感情を向けてくれ…。
そうなんだ。それが僕なんだ。
姉さんの幸せを奪っても、姉さんは僕のそばにい続けさせる。
そして姉さんは支配されるにふさわしい感情を持っていてくれ…。
快感よりも、苦しみの解放による愉悦を…。
優しさより、悲しさと憎しみと切なさを…。
僕の嗜虐心をそそるような気持ちでいてくれ…。
そう…今のように…。
「うぐぅ!!」
姉さん!!…姉さん!!!
その瞬間、……僕は姉さんの尻の中に、どろどろとした気持ちを放出した。
「あぅ………うぐっ……」
葵は括約筋をぶるぶると弛緩させると、糸の切れた操り人形のように、力なくバスルームの床に倒れこんだ。
口は半開きに開き……そこから、とろりとした唾液が糸を引いて流れ落ちた。
まるで……自分の尻へ受けた虐待を口で表現するように…。
僕たちは、泡まみれになって結びついたまま、バスルームで抱き合っている。
姉さんは、その解放された安堵感からか、眠りに落ちた…。
……………僕はそんな葵の顔を後ろからなでる…。
「姉さん………」 葵を起こさないような小声でつぶやく。
こうして見ていると、姉さんは少しも変わらない。
……変りはしないんだ。
ただ、中に押さえ込んだだけ…。
姉さんが佐伯助教授を想う気持ちは、当時のまま、姉さんの心の奥に封印されている。
そしてそれがある限り、姉さんは決して僕のものにはならない……。
許しはしない…………決して。
姉さんの幸福が、あの佐伯助教授にあることなんて、絶対に……。
それが姉さんの幸福なら、僕はそれを奪う。
苦しめばいい。その代わり離しはしない…。
そのことで苦しみもがけばいいんだ。
でもその苦しみは、姉さんに幸福を求める心があるから…。
あの佐伯助教授へと………。
そう思うと、胸の奥がぐっとなる。
僕はそうとしか、考えられなかった。
姉さんの幸せが佐伯助教授の元にあると。
そして、そう思えば思うほど、腹の底が燃えるような思いがする。
「許せない……」
佐伯助教授……僕から姉さんの心を奪ったあいつが……。
あいつのせいで姉さんは僕の事を見なくなった。
そのせいで、今も僕のものにならない…。
歯ぎしりする…。
何とか、姉さんの心からあいつを消し去る事は出来ないか……。
僕と姉さんの平和にズカズカと土足であがってきたあいつを…。
あいつをEDENに……。
ふふっ。それはいいかもしれない。
あいつをマゾ奴隷に仕立て上げる…。
そんなあいつを見て、葵はどう思うだろうか?
だが……今のメンバーでは、男を好んで調教したいと言う奇特な人間はいない。
賛同するとして、パチさんぐらいだろう…。
ひょっとしたら、僕のように新しいメンバーが出てくるかも知れないが…不確定な面が多い。
とにかく、このままではいつまでも葵はあいつにいい印象を持ちつづけるだけだろう。
僕は考える……。
葵の中からあいつを消すための方法を…。
「Lost Paradise」
第一章 紫苑編 「焦燥」
(完)