螺旋回廊







第三章 悶え




 夢にも思わなかったぜ。

 まさかこんな生活が始まるなんてな。

 昔から女に対しては冷酷だと仲間内から言われていた。冗談交じりでサディストだろうなんてことも言われていた。

「その通りさ…」

 北海道の片田舎で葉子を犯した事は、予想以上に俺を恐怖に駆り立てた。その恐怖から逃れるように東京にやってきて、葉子とEDENを見つけた。

 葉子を従えたのも大きいが、何よりEDENの中のやつらは俺以上に狂っていて、そして安心させてくれた。

 そして俺の中から恐怖は消えた。

 以前俺をからかっていた友達の顔が浮かぶ。俺はそいつらに向って言い放つ。

「けど、お前等だってそうだったろう?」

 葉子をレイプした時、みっともないほど興奮したのは誰だ?

 葉子を飼っていた時、死ぬほどうらやましがったのは誰だっ!

 俺のやってる事は正しいって事だ。

 そして、人間には支配と服従しかないって事に気付け!!

 葉子を見てみろ、始めはいやがっていても今じゃすっかりメス奴隷だ!

 葵を見てみろ、今じゃ弟にイカされるだけの人形だっ!

 佐伯を見てみろ、エリート顔したその中にあったのは俺以上にサディストな考え方じゃねーか。

 いつのまにか友達の顔は消え、俺は笑っていた。

「そして、見ろよ! 俺は望むものを手に入れたぜ?」

 俺は今の生活を充実させてくれるメス豚を見下ろす。

 前の知的な表情はなりを潜め、苦痛と快楽におぼれ、そしてご主人様であるこの俺に服従するだけの人形になってしまった香乃。

 今は俺が出した命令どおり、ペニスにむしゃぶりついている。

 こいつを手に入れるのは苦労した。

 けど、まだ完全に俺のものとは言えない。

 特に佐伯の名前を聞いたときは理性を取り戻すときがある。その表情を思い浮かべると歯歪みしたくなるほどムカツク。

 それももうすぐ終わりだ。昨日かかってきた電話は改めて佐伯のサディストぶりを認識させた。

(まさか、俺に頼むとはな。あの先生も優秀だぜ……)

 そして、俺は奴の願いを聞きながら香乃を完全に俺のモノにする方法を思いついた。

「……明日から楽しみだなぁ。香乃……」

「ご主人様がそうおっしゃるなら」

 従順にそう答える香乃の言葉を聞きながら俺は計画の詳細を考え始めた……

――


 翌日、これから夕方になろうという時。

「ここに来るのも久しぶりだろ? 香乃?」

 俺は佐伯の部屋の前で香乃に聞いた。

「……」

「怒らねーから答えろよ。俺のものになる前の話だ許してやる」

 去年と同じように降り出した雪がうざったいほど世界を白く見せていた。吐く息も白い。

「は、はいっ。あの…… あっ」

 香乃はよろけると俺の腕にしがみつき、苦痛とも快楽とも言える表情で俺を見上げた。

「おいおい、しっかりしろよ。今から佐伯先生の部屋に行くんだからな。そんなにふらふら歩いてたんじゃ、俺が恥をかくぜ?」

「申し訳ありません。香乃はだらしない牝豚ですから……」

 そう言って目を伏せる。

 しかし、その目に浮かび上がった表情を俺は見逃さない。

(香乃。お前がそんなだから俺はお前を壊すしかないんだぜ?)

「まあ、こんな真冬にコートの下がそんなに薄着じゃそう思われてもしょうがないわな」

 この牝豚のコートの中は俺が選んでやった黒の下着と、乳首とクリトリスにつけられた金色のピアス、用心のための薄紫のストッキングのみ。

「はいっ…」

「まあ、こんなところで手間取ってても、牝豚がコートをとりたがるだけだろうからな」

「そ、そんなっ。香乃はっ」

「とりたがるよな? おいっ!」

「は、はい、その通りです。香乃はこんなところで裸を見られて喜ぶ変態ですから」

 望んだとおりの答えを出す香乃を見下ろし、満足した。

「そうだろうよ。まあ、今はやめとけ残念だろうけどな。部屋についたら可愛がってやるよ」
「はい、ありがとうございます」

「さあ、行くか…」


 ピンポーン。

 間の抜けた呼び出し音が聞こえてからしばらくすると葉子の震えた声がインターホンから聞こえてくた。

「…… ど、どなたでしょうか?」

 相変わらず、ビクビクとしたその声に苦笑を浮かべながら俺は答える。

「俺だ、俺」

「えっ、宙さん?」

(やっぱり、驚いてやがる。あいつはかわらね―な)

「ああ、ん? 佐伯先生から聞いてないのかよ? しばらく留守にするから一緒にいてくれって頼まれたぜ?」

 それは本当の事だ。

 お陰で俺は香乃を完全なものにできるし、葉子も手に入れてやる。

「……」

「安心しろよ。佐伯先生との約束は守るぜ? 手は出さね―し、香乃も一緒だ」

「…わかりました」

 プツッという短い音をたてインターフォンは沈黙する。

 しばらくすると内鍵がはずされる音とともに扉が開けられる。

「よぉ。さみーんだ早くいれてくれないか?」

 葉子の目は猜疑心ってやつで一杯だった。けど、以前のような俺に対するおどおどとした印象は受けない。

 悔しいと言えば悔しいが…

「香乃も寒いだろうしな」

 それもこれから変えてやる…

――


 その部屋に入ると暖房が効いていない事に気付いた。

「おいおい、寒くないのか?」

 葉子はそう言われて始めて暖房がはいっていない事に気づいたみたいで、慌ててエアコンのスイッチを入れる。

 佐伯がいなくて相当寂しいらしい。

(それも変えてやるよ……)

 俺はそうつぶやくと、香乃に命令を出す。

「香乃脱げ」

 この部屋に入るまで一言もしゃべらなかった香乃は、あっけにとられながらもそのコートに手をかける。

 葉子は説明を求めるようにこっちを見た。

「なに、留守番を頼まれたのは良いけどな。お前と話しててもつまらないしこいつをつれてきたわけだ」

「全部でしょうか?」

「全部ってお前コートしか着てねえ変態じゃねーか」

 香乃の間抜けな質問を流しながら、葉子に説明した。

「そうそう、お前には手を出さないから一人でオナニーでも… おっと、そのことも先生から聞いてるぜ? しちゃいけないんだよなお前」

「はい…」

(佐伯の命令は絶対って訳か? まあいい……)

「まあ、好きにするからお前も見てれば?」

 俺はそう言うと香乃に対して命令を下しはじめた。









・・・・・続く。