螺旋回廊  









幕間〜葵

 私はどうしてここにいるんだろう?

 生きていくのが辛いと思ったことはないの?

 私の中に残る理性が鏡の中の自分にそう語りかけている。

 お風呂上りの上気した頬とそれにまとわりつく長い髪は、光の無い自分の瞳を隠してくれていた。

 そして明確な答えが出ない事にほっとしている自分がいた。

 けど、その事が一層自分をおとしめている。

 死すら自分で選べない。

 それは彼等の言うとおり最低の人間の証しのように思えたから……

 なら、私は――

 ………

 佐伯先生… ごめんなさい…

 ………

 どう、思ったのだっけ?

 うーん……、思い出せない…

 とても大切な事のように思ったけど?……

 思い出せないのなら、きっと大切じゃないよね?

 しおん。…紫苑―

 おとうと。いいえ、私のご主人様。

 さえき。佐伯―

 佐伯先生。誰だろう?

 この人の事を考えると少し胸が苦しい。

 紫苑― ご主人様にその事を聞くとすごく怒るし…

 時々夢に見る。

 あのマフラーをかけてくれた、そして、そっと私を抱きしめてくれた人…

 ……そう、そうよね…

 きっと夢の中の人でしょう。

 だって、本当の世界はすごく痛くて気持ちが良いところだから…









・・・・・続く。