21世紀に間に合いました、"ASIMO"登場
2000年11月某日、HONDAが20世紀中の開発の総括といわんばかりにあるロボットを発表した。
"ASIMO"(Advanced Step in Innovative Mobility)である。
それまで発表されてきたP3の流れを組む外観を持ちながらも、明らかに大きな進化を遂げたであろう歩行を中心とする技術は、当初予想を上回るスピードでその成果を見せた。
しかも、近々にこれを誰でも見られる機会があるという。ROBODEX2000だ。最初は目玉があまり多いように感じなかったので強い関心は無かったのだが、こうなっては話が別。早速ローソンのロッピーで前売りを購入しつつ、当日を待った。
2000年11月26日、会場であるパシフィコ横浜へ向かう私は、「どうしてこうゆうイベントはいつも臨海部なんだ」と海の無い埼玉のしかも北部在住者にありがちなしょーもない愚痴も今回はこぼす事も無く、快晴に恵まれた事も幸いし、嬉々とした面持ちで会場へ到着した。
しかし、会場を取り巻く状況が、そんな心地よさを一気に浜風に乗せて吹き流す。
どこが始まりなのか、終わりなのかを全く確認できないような人の列。加えてそれに見事に反比例するかのような会場の小ささ。パシフィコ横浜は初めてだったので、有明の半分にも満たない、いや、相当に小さい器に大きな不安を感じた。
とりあえずは最後尾を探そうと、ROBODEXの会場案内をしているスタッフを捕まえ案内を受けるが、これが大雑把で不親切。それでもリレーのようにいろんな人に確認しながら行くのだが、途中人だかりを当て込んで全然関係無いプラカードを持った連中がフェリーだの食事だのと訳の分からん案内をしようとするが、こっちの方が応対は良かったりして、・・・ってそれどころじゃない。本来の目的の為に列の流れに乗り待つ事数時間。ようやくの思いで会場へと入っていった。
人だかりの凄さは最早いい直すまでも無いのだが、特定の目玉ブースに人が極端に集まる傾向があるので移動はそれほど苦にはならない。まずは入口入ってすぐ左手にテムザックの大型試作ロボット"T−5"というものが展示してあり、丁度デモンストレーションが始まるというので見ていたら、エイリアン2のパワーローダーもビックリの重たそうな腕をこれでもかとブンブン振り回し、内心、それだけ?とか思いつつもまずはその迫力に拍手。うん、これも当初の展示予定に無いロボットだから今はこんなもんだろう。
今度は中央のメインステージ、アソボットストリート(A・SO・BOT street)に目をやると、ここが当然一番人が集まっているのだが、今回の主だったロボットによるパレードがもう終わりを告げようとしているらしい様子が、会場上部にある大型三面スクリーンによって確認できた。P3もその中にはあったようなのだが、あまりにもステージを取り囲む人垣が多いのでこの場はスクリーン越しで我慢したが、終了時に流れに任せるままにステージの裏手へ回るといきなり今回最大の目的にご対面となった。
"ASIMO"である。一発目の印象はそのまんま。"小っちゃい"。P3までが普通に人程度の大きさをしている印象が強かった為に、事前に報道されて知ったイメージよりも一層小柄に感じられた。よくいわれているようにP3が宇宙服を着た人のイメージなら、ASIMOはホント、ランドセルを背負った小学生。しかしP3からの違いは何も小型軽量化だけではない。今までは必ずどこかしらに如何にも機械染みたコードやらネジやら金属やらが除いていたのが、皆無といっていいほど。パーツの合いも遠目では分からなくなるほど綺麗に組み上げられている。レトロなメカ好きには機械剥き出しの方を好まれる方も多かろうが、この仕上がりは実際見ると驚くばかり。
あー、あとは最大のポイント、歩行性能はどうなのか?どうせなら動くとこも見れないかなあ、と会場のプログラムを見ると、12時よりHONDA単独のデモンストレーションがあり、これにASIMOが登場するようだ。まだ30分以上も間があるのにステージを再び取り囲みつつある群集はこれがやはり目当て。自分もどこかに陣取ろう。
12時、ついにその時が訪れた。アソボットストリートの奥、向かって左側のゲートから、さっきは止まっていただけのASIMOが現れた。その歩みは決して速くはないが、バランスに何の不安も感じさせないようなしっかりとした足取りでステージの中央へ。その後、進行役の女性と握手を交わした後、ステップを踏ませたり、手を振りながら8の字に歩いて見せたり、これら従来なら立ち止まりながら方向を転換しなくては出来なかったものが、実にスムーズに歩いて見せてくれて、場内を軽く回って自分の位置から最も近い場所へ来た時などは何か涙出そうな気分になりましたよ。HONDAよありがとう。車買わなくてごめん。
ASIMOは一通りのデモンストレーションを終えてまた出てきたもとのゲートへ戻ると、会場にもう一度向き直り、ゲートが閉じる前に両手を振って去っていった。この間わずか15分ばかりの短い時間であったが、もう満足。遠くまで来た甲斐があった。
話が前後してしまうが、これらのASIMOの制御はすべてPSのコントローラのようなものとPDAのようなコンピュータのみ。これを無線でASIMOに指令を送ってコントロールしてしまう。鉄人28号ほどシンプルではないが(←引き合いにするな)、かなり簡略化されたシステムでこの辺りもP3の頃から随分進歩している。2〜3年くらい前の新聞で「P4まで試作を重ね、その次くらいができる2004年頃(だったかな?)には製品化したい」というような内容の記事を見た記憶があるが、それより早まるか、少なくとも遅れる事はなさそうだ。会場にはP1、P2、P3が並べて展示してあったが、それぞれの段階での開発者の労苦を思うと感慨深げである。今後どのように進歩し、どのような活躍の場を得るのか、今はまだ想像するばかりなので、これからも注目してみたい。
その後はその他の参加団体ごとのブースを見て回り、最後に手塚プロダクションのブースを見て想ったのだが、これだけ多くの研究者がロボットに拘れるのってやっぱ手塚治虫のお陰かなあとか考えてしまう。「アトムを作る」といって研究をはじめている人はホントにいるんだから(もしくはガンダムですかね)、この国の研究者のアイデンティティやモチベーションに今後も良い意味で影響し続けてくれればと思う。そして、僕らユーザーとなる側も、空想ではなく現実的な視点で、ロボットという新たな生命を考えなくてはならない時期になっているのではないだろうか。
とかいうまっとうな事を考える傍らで、あれについてはどうだったの?という貴方。えーえー、あれですね。ついでにあの踊る奴や子獅子もちゃんと見てきましたよ。特に踊る奴はあんな小さいのに更に標準より小さめのステージで、しかもあんな人だかりで果たして何人が十分に見れたんだろう。それと子獅子は大量の子供たちに苛められてちょっと可哀想だったな。ロボットに対する倫理観、その将来の縮図を垣間見た気がする。楽しい事はある意味大事なんだけど、どうか受け止める方々、くれぐれも大事に接してやって下さい。
そんなこんなで初めてのロボットだけのイベントは、自分なりに十分満足感を得て帰宅の途につく事が出来た。
でもお子様連れのご家族には、会場入りするだけでもさぞ、くたびれたイベントに感じられた事だろう。
という訳で主催者の方、次回はもっとおっきー会場でやって下さい。