晴れのち雨、時々曇り        


「今度の土曜日泊まりにおいでよ。」

そう言った塔矢は少し緊張しているようで、俺も少し緊張して、だって泊まりにこいってそういうこと・・・だよな?お互いの気持ちを確かめて1ヵ月。なんだかんだと忙しくてゆっくり話しできたのなんて数えるほど。
そんな中2回キスをして。
初めてのキスはすごくドキドキして、うわぁ、キスってこんなカンジなんだ!ってすごく感動して、加えて塔矢が相手ってのがまたさらに俺のドキドキを増幅させた。だってあの塔矢だよ?近くで見る塔矢はホントにキレイで、頬なんかつるつるしててまるでつきたての餅みたいで。触れた唇もすごく柔らかくて・・・。初めてのキスが塔矢で良かったって心の中からそう思う。
塔矢のキスの初めての相手も俺だったらいいな。本人には怖くて聞けないけれど。だってもし俺じゃなかったらショックじゃん。落ち込んだまま浮上できなかったら困るもん。

「進藤?」

俺がうっとりしていたら塔矢が不安そうな顔でこっちを見ていた。ええと、なんだっけ?ああそうだ。土曜日泊まるってことだった。そんなのはもちろん、

「うん、泊まりに行く。」

デレ〜っと緩みそうになる顔を引き締めて。
塔矢は俺の返事にパッと顔を輝かせて、俺も嬉しくなってへへって笑って。男同士向かい合って顔を赤くさせているのは傍から見ればかなり異様な光景だろうが、そんなことは俺達には関係なかった。



土曜日の夕方、イベントの仕事を終え早々に帰宅した俺はいつものディバックに1日分のお泊りセットを詰め込んで家を出た。明日は久しぶりに重なった二人の休日。ちゃんと下着も新しいので準備万端。ああ、なんか緊張する。塔矢も今頃緊張してるかな?
いろんなドキドキを抱えながらもなんとか塔矢の家に辿り付いた。北斗杯の合宿以来だったけど、相変わらずどっしりした大きな家だ。
笑顔で迎えてくれた塔矢にますますドキドキして、でもなんてことないように平然とふるまって「お邪魔します!」なんてわざと大きな声で言ったりして。ちょっとわざとらしかったかな。

夕飯は二人でぎゃーぎゃー騒ぎながらカレーを作った。じゃがいもの皮の剥き方で口論になって、切り方でまた口論になったけどそれさえも楽しかった。
テーブルの上に二人で作ったカレーとお母さんが持たせてくれたかぼちゃサラダを並べたら、立派な夕飯の出来上がりだ。二人で食べるカレーは今まで食べたどんな料理よりも美味しかった。

「なんか俺達新婚さんみたい。」

俺が何気なく言った言葉に塔矢は飲んでた烏龍茶を噴出した。俺変なこと言ったかな。

「大丈夫?」
「うん、大丈夫・・。」

咽ながら言った塔矢の頬が少し赤くなっててなんだかかわいい。
なんか俺達ラブラブちっくでいいカンジじゃん?なんてこっそり思ったりして。へへ。



片付けを済ませると自然と碁盤の前に足が向く。当然のように二人で向かい合って座り対局が始まる。この時ばかりは浮かれ気分もどこかへ吹き飛び、俺も塔矢も棋士の顔になる。
今までの勝率は4割。
あと少しのところがなかなか追い付けないんだ。俺と塔矢の間にある小さな段差を越えることができない。塔矢の背中は見えているのに、手を伸ばせば届きそうな距離にいるのに、肩を並べることさえできずにいる自分を歯痒く思う。

「やっぱりここはツぐべきだった。」
「でもそしたらボクはこう変化する。」
「押さえられたら俺だって黙っちゃいねぇよ。」
「無理したら続かないよ。ほらこうやってしのがれたらキミの二目半負け。」

塔矢の長い指先が碁石をパチンと弾いて俺は一巻の終わり。俺はなんだか納得いかなくて、ジャラジャラと石を崩してまた1から並べ始める。さっきから何度もそれの繰り返し。塔矢との少しの差を埋める何かを探したくて、いつも長い検討になってしまう。塔矢はそんな俺に嫌な顔1つせずにとことん付き合ってくれる。結局最後はけんかになってしまうんだけど。
塔矢のこと大好きだけど、碁に関してはそんなこと関係なくて、負けると悔しい。ただ悔しい。追い付けないのが悔しい。

「まだ、やる?」

塔矢の声に顔を上げて時計を見ると10時を少し回っていた。ああ、もうこんな時間なんだ。碁をやってるとどうしても時間を忘れがちだ。

「お風呂先に入ってきていいよ。ここ片付けておくから。」
「あ、うん。」

俺は塔矢の言葉に甘えて風呂場に向かった。頭の中ではまだ白黒の石がかちゃかちゃ動いてて、俺は身体を洗いながらもずっとさっきの一局のことを考えていた。湯船に入って初めて我に返って、あれ?俺身体ちゃんと洗ったっけ?なんてボケたことを考えたりして。無意識に洗ってるから洗った記憶があやふやなんだよな。
・・・大丈夫。ちゃんと洗った。うん。
湯船に浸かりながら改めて風呂場を眺める。北斗杯の合宿以来、相変わらずでかい風呂場。でもってこの湯船、檜ってヤツなのかな。なんだかいい匂いがする。塔矢はいつもここに浸かってんだよなぁ・・・。

ハッ!

俺今日何しに塔矢ん家来たんだっけ!?
唐突に思い出した現実に俺は慌てて立ち上がると、湯船から出てスポンジにボディソープをいっぱいつけてもう1度自分の身体を隅々までよーく洗った。
おかげで風呂に1時間もかかってしまった。



「遅かったね。風呂場で倒れてるんじゃないかと思ったよ。」

部屋に戻ったら塔矢に開口1番そんなことを言われて、まさか身体を2度洗ってました、なんて言えずに「さっきの対局のこと考えてたら長湯しちゃった。」と、誤魔化した。まぁ、半分は嘘じゃないし。塔矢はそう、と一言だけ言って風呂に行ってしまった。
塔矢の部屋に一人残された俺は塔矢が敷いてくれた布団にコロンと横になる。初めて入った塔矢の部屋はただ机があるだけの殺風景なものだった。予想してたとは言え、俺の部屋にあるようなものが見事に1つもない。なんつーか、ホントに俺と同じ年なのか?と疑いたくなるほどの。そこに仲良く2つ並べられた布団がなんだか気恥ずかしい。

俺これから塔矢とするんだ。

塔矢の肌ってどんなかな、きっと白くてキレイなんだろうな・・・。
うわ!どうしよう!緊張してきた!
俺女の子とだってしたことないのに、塔矢とうまくできるんだろうか。ガッカリされたらどうしよう。進藤みたいな下手なヤツとはもうしない、とか言われちゃったらどうしよう。うわ〜!うわ〜!
落ち着け、俺!誰にでも初めてはあるんだ!まぁ、それが男というのは特異だろうけれど・・・。
俺は一人で暫く布団の上をゴロゴロ転がっていたが、これじゃいかんと起き上がるとディバックの中からマグネット碁盤を取り出し、さっきの一局を並べ始めた。不思議と碁石を並べていると段々落ち着いてくる。そのうちそれに没頭して、ああでもない、こうでもないとやっていたからいつの間にか塔矢が戻ってきたことに気がつかなかった。

「また、並べてるの?」
「え?あ、塔矢。」

塔矢はタオルで髪を拭きながらマグネット碁盤を覗き込んだ。う。髪が濡れてて風呂上りのせいか頬もほんのりピンクでなんだかすごく色っぽいんだけど。
俺はあまり塔矢の方を見ないようにして、うん、と答えた。

「ボクに負けたのそんなに悔しい?」
「すげー悔しい。でも、次は負けない。そのうち勝率5割まであげてやるからな。」
「じゃあボクはもっと頑張らないと追い越されたら大変だ。」
「あ、何その言い方。」
「追い越されてしまったらキミに見向きもされなくなりそうだから。」

そう言って塔矢がふわりと笑う。
・・そんなことあるわけないじゃん。
ずっと塔矢を追ってここまできたのに、何があったってこれからも塔矢を見つめてる。追い越したいって気持ちはもちろんあるけど、それよりも俺は塔矢と並んで歩きたい。同等の位置にいたいんだ。

「俺、塔矢が好きだよ。多分お前が思ってるよりも、ずっと。」
「ボクが思ってるより?」

塔矢がふふって笑って、俺の頬に両手を添えて静かに額を合わせる。


  “ボクもキミがスキ。”


吐息のような優しい囁きと共に降りてきた唇を受け止める。初めてしたキスより甘くて、2回目のキスよりドキドキして。啄ばむようだったキスはいつの間にか深いものへと変わっていく。入り込んできた塔矢の舌はすごく熱かったけど、でもすごく気持ちよくてすぐに夢中になった。舌なんていつもはあまり意識もしたこともなかったのに、こんな風に他人と絡めているとなんて淫らで卑猥なんだろう。
少しずつ塔矢が体重をかけてきて自然に俺の身体が傾く。敷いてあった布団にすっかり横にされると、塔矢が覆い被さるようにして身体を重ねる。漸く離れた唇に、はぁと息を吐いてゆっくりと目を開けると塔矢がすごく近くて心臓が跳ねた。
唇が濡れてて、なんつーかイヤラシイ。
いつもは真っ直ぐ前を見つめている目が、今は俺に向けられている。俺がずっと欲しかった瞳だ。

「・・・いいよね?」

塔矢の言葉に俺が頷くと、嬉しそうに笑うその顔がとても綺麗で。こんな綺麗な人が俺のこと好きだなんてほとんど奇跡に近いと思う。ってか、奇跡だよ。うん。
静かに塔矢の唇が降りてくる。唇から頬を伝って耳朶を少し噛んで、それから耳の後の皮膚の薄い所へ。塔矢の息がかかってくすぐったい。首筋をきつく吸われると予期せず身体がビクリと震えた。
なんとなく塔矢はこういうこととは無縁のように思っていた。
いつもの爽やかな笑顔で「ボクは欲情なんかしたことありません。」って言ったら、そうなんだ〜って素直に納得できそうなカンジで。まぁ俺達の年で健康な男だったらそんなことあるわけないんだけど。
だから泊まりにおいでって言われた時、許されたと思ったんだ。塔矢が俺を受け入れてくれるんだって。
それなのに今の状況は想像してたのとまったくの逆で。塔矢が俺の上で。俺にキスして。
なんか不思議。
でも、全然イヤじゃない。寧ろ嬉しい。他のヤツだったら絶対ごめんだけど。

「ひゃ、」

そんなことを考えていたら、いつの間にかTシャツの中に入り込んだ塔矢の手が脇腹の辺りを撫でたから、俺は妙な声を上げてしまった。おかまいなしに這い回る手にぞくりと肌が粟立つ。塔矢は俺のTシャツをたくし上げ脱がせるとぽいと横に放った。塔矢の唇が首筋からさらに下へと降りて行く。時々止まっては吸い上げる。塔矢が動くたびにさらさらと流れる髪にも摩られ、くすぐったいのかなんなのかわからなくなってきた。心拍数はさっきから上がりっぱなしで、下がる気配は無い。

「あッ、」

突然胸を舐められて思わず漏れた高い声にぎょっとした。今の声、俺?だよな?
っていうか、俺女じゃないから、そんなとこ、舐められても・・・う・・なんか、変、だ。
弾む息に思考も途切れ途切れで、執拗に攻める塔矢にまた変な声が出そうで手の甲で口を押さえた。それに気付いた塔矢がやんわりと俺の腕を口元から外して、布団へと縫いつけた。

「声聞かせて。キミの声が聞きたい。」
「そんな、」

恥ずかしいことできるか、と言いかけてはっとした。俺を見ている塔矢の瞳には明らかに情欲の色が浮かんでいて、妖しくゆらゆらと燃えている。普段は女とも男ともとれないような中性的で美しい顔をした塔矢だけど、この時はまさしく男そのものだった。俺の全身がかぁっと熱くなる。
ああ、きっと俺今真っ赤な顔して、カッコワルイ。
塔矢が近付いてくる。さっきより激しく、まるで貪るようなキス。俺は自由になった腕をそっと塔矢の首に回した。胸の辺りを這い回っていた塔矢の手が俺のスウェットのズボンに手をかけた、まさにその時。

突然鳴り出した軽快なメロディ。

今のこの状況にあまりに不釣合いなそのメロディに俺達はフリーズした。
何の音??

「キミの・・・・携帯じゃないのか?」

ぽかんとしてた俺に塔矢の一言。あっ!そうだ!携帯か!
ホントマジで何の音かわかんなかったよ。な〜んだ。とか言ってる場合じゃない。誰だー!こんな時に電話なんかかけてくるヤツはー!
こういう場合、出るべきなんだろうか。でもなんか出る状況じゃないよな。俺がちらりと塔矢を見ると塔矢は小さく溜息を吐いた。

「出なくていいの?」
「いい。続き・・・しよ?」

俺はシカトを決め込んだ。ここで電話なんか出たらせっかくの雰囲気がぶち壊しだろうが。とは思ったものの、しつこく流れ続ける着信音は続きをするにはマヌケすぎた。ってか、しつこい!早く諦めて切れっつーの!

「やっぱり出た方が良くない?もし家からとかの大事な用事だったら困るだろう?」

そう言って塔矢が俺の上から退いたから、しょうがなく俺はディバックの中から携帯を取り出した。
ディスプレイに出てる見慣れた文字。北斗杯以降こうやってたまに電話をくれる大阪在住のかつての戦友だ。

「・・・もしもし。社?」

社と聞いた途端、塔矢が隣で微かに眉を顰めた。

『進藤〜!久しぶりやな!元気しとったか!?』
「まぁな。で、どうかした?」
『なんや、冷たいな。俺達北斗杯で一緒に戦った仲間やんか。』
「あ〜うん。ナカマナカマ。で、何?」
『仲間のよしみで進藤!今日泊めたって!』

「はぁ!?」

『今日静岡に行く用事あってな、ついでだからちょっと足伸ばしてみたんや。北斗杯以来5ヵ月ぶりやんか。懐かしいなぁ。お前ともまた打ちたい思てたんや。だから泊めたって!』
「ちょっと待てよ!いきなりそんなこと言われたって、俺一人暮らしじゃないんだぜ?だいたい今、俺家に居ないし。」
『え?進藤今どこにおるんや?』
「塔矢の・・あ!と、友達んとこ!だから今日は無理!」
『塔矢?』

しまった。塔矢の家と言いかけて慌てて友達と言い直したんだけど時既に遅し。しっかり聞こえちゃったらしい。耳のいいヤツめ。あ〜なんだかイヤな予感がするぞ。

『塔矢のとこにおるなら、ちょうどええやん。』

ほら、きた。

『ついでに俺も泊め、』

「ダメだ!!!絶対ダメ!!!」

『いきなり大声出すなや!ビックリするやんか!』
「うるさい!!ダメったらダメ!!今日はダメ!!」
『はぁ!?意味わからん。なんで今日はダメなんや。ってか、なんで進藤にダメダメ言われなあかんねん。そこ塔矢ん家やろ。塔矢がダメや言うならわかるけどな。』
「と、塔矢だってきっとダメだって言うに決まってる!だからダメ!」
『そんなん本人に聞いてみな、わからんやろ。ちょっと塔矢に代わってな。』
「う・・。」
『早よ!!』
「わかったよ・・。」

俺は渋々塔矢に携帯を差し出すと、塔矢は俺の顔と携帯を交互に見て少し首を傾げる。

「何?」
「社から。・・・塔矢に代われって。」

塔矢は片眉を上げて携帯を受け取ると耳にあてた。
なんてタイミングが悪いんだ。昨日や明日とかだったら別に家に泊めてやっても良かったけど、今日はダメだ。久しぶりに塔矢と休日が重なったんだぞ。今日はずっと塔矢と一緒に居るんだ。そりゃ5ヵ月ぶりに社と打ちたい気もするけれど・・・。
横では塔矢が「え?今から?」と驚いた声をあげている。塔矢うまく断ってくれ・・・。

「いや、今日はダメなんだ。なんでって、えーと、忙しい・・そう、忙しいんだ!だから悪いけど今日は泊めてあげられなくて・・・忙しいわけ??えっと、そう!二人で碁の検討をね!集中してやらないと!え?三人の方がいい検討ができるって?あ〜それもそうだけど、いや、そうじゃなくて、」

いつもハキハキしゃべる塔矢のしどろもどろな所ってすごく珍しい。社は何やら食い下がっているらしく、塔矢はなかなか断りきれないでいる。

「いや、野宿しろとかそんなことを言ってるわけじゃなくて、え、ちょっとそんな泣かなくても・・・・は?冗談?ふざけているのか!キミは!とにかくダメなものはダメだ!急に来られても何も準備もできないし、だいたい、こういうことは遅くても2〜3日前に言っておくのが常識だろう!?・・・べっ、別に進藤を特別扱いしてるわけじゃ・・」

延々と続きそうな会話。俺から塔矢に代わってからもう既に30分は経過していた。おいおい、いつまでしゃべってんだよ?先程の塔矢の熱もどこへやら、なんだか寒くなってきたから脱がされたTシャツをとりあえず着て塔矢と社の電話が終わるのを待った。
そのうち塔矢の脱力した声が「ああ、・・・・わかった。」と紡ぐと、携帯の蓋を閉じてそのまま後にパタンと倒れた。すっかり疲れたような顔の塔矢を覗き込む。

「・・・どうだった?」
「今から・・・・社、来るって。」
「え?断ったんじゃねーの!?」
「・・・断れなかったんだよ。」
「え―――――――ッ!!」
「だいたいキミが携帯切っておかなかったのが悪いんだろう!」

塔矢はガバッと起き上がり、俺を恨めしそうに睨むから俺もついつい大声になる。

「お前が出ろって言ったから出たんだろ!!」
「大事な電話だと困ると思ったからだろう!!だいたいボクはキミと社がそんなに仲良いなんて知らなかったし!!」
「仲良いって・・・。たまに電話で話したりするだけだよ。」
「でも、もしキミが今自宅に居たら彼を泊めてあげてた。そうだろう?」
「そりゃ、だって友達だし・・・。」
「ハ。仲の宜しいことで。」

塔矢はプイと横を向いてしまいこちらを見ようともしない。子供か、お前は。何もそんなに怒んなくてもいいじゃん。社からたまに電話がきたりするけど別に大したことを話してるわけじゃない。大抵が碁に関する話だ。だから塔矢が怒ることなんて何もありはしないのに。

「塔矢。・・・俺、お前とけんかしに来たわけじゃねぇよ。」

塔矢は相変わらずそっぽを向いたままで。どうやったら機嫌直るだろう。俺だってガッカリしてるのに。社には悪いけどせっかくの休日、二人で過ごしたかった。
沈黙が辺りを包む。俺がそっと塔矢を伺うと塔矢は口を開いた。

「・・・不安なんだ。」
「え?」
「キミはボクのこと好きだって言ってくれたけど、その気持ちがいつか変わってしまうんじゃないかって。言葉だけじゃ確証が持てなくて、だからキミが欲しかった。ボクだけのものだっていう繋がりが欲しくて焦っていたのかもしれない・・・・・。」
「塔矢・・・。」
「バカかな。」
「・・・・・うん。バカだ。」
「そんなハッキリ言わなくても・・。」

やっとこっちを向いた塔矢は少し頬を膨らませて。ホント、ガキみたい。
そんなとこも好きだけど。
俺は笑って塔矢を抱きしめると塔矢も抱きしめ返してきた。肩口に顔を埋めたまま塔矢が囁く。

「Tシャツ着ちゃったんだね。」
「だって、寒くなってきたんだもん。」
「じゃあまた暖めてあげる。」
「ば〜か。今から社来るんだろ?」
「あそこからだとここまで来るのに30分以上はかかるよ。」
「30分じゃ足りな・・・ん。」

俺の言葉が塔矢にのみこまれて消えた。本日何度目かのキス。今日1日でたくさんキスした気がする。相変わらず、ドキドキは消えないけれどそれでも塔矢の首の後に腕を回すぐらいの余裕は出てきた。
塔矢は俺を抱きしめたままゆっくりと押し倒し、俺達はじゃれ合うように何度もキスを繰り返した。
やっと唇を離した頃には二人とも息が上がっていて、目を合わせて二人で笑って。
甘い時間はいつまでも続くように感じられていたのだ。無常にも鳴り響くインターホンが俺達の時間を引き裂くまでは。

        ピンポーン

・・・・オイ。ちょっと早過ぎねぇか。




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