「私がなんで怒っているか、わかるか?」
緒方は腕を組みながら、項垂れているアキラを見下ろしていた。
トレードマークの白いスーツ、しかし煙草は見当たらない。
「すいませんでした。」
「俺は以前、君は自由にしていいと言ったがこういう意味じゃない。わかるな?」
「・・・はい。」
「君が急に居なくなってみんながどれほど心配したか、頭のいいアキラ君ならわかってるはずだな?」
「・・・はい。」
「だったらなぜこんなことを?」
「・・・・よくわかりません。青い空を見てたら急に外に出たくなって・・・。」
アキラらしくない物言いに緒方は溜息を吐いた。
芦原は横でおろおろしながら、「アキラも無事戻ってきたんだからいいじゃないですか。」と言いかけたところで
緒方にじろりと睨まれ口を閉じた。
「どこに行ってきた?」
「・・・・・・・・。」
下を向いたまま何も言わないアキラに、緒方はもう一度溜息を吐く。
「・・・それで?何か得るものはあったのか。」
アキラは顔を上げると今度は緒方の目を真っ直ぐ見た。その顔には今まであった迷いや戸惑いはなく、緒方は
眩しそうに目を細めた。
「はい。」
凛とした声だった。
緒方はそうか、と呟く。
「芦原も今日1日かけずりまわったんだ。ちゃんと謝っていけ。今日はもう遅いから寝ていい。明日、みんなに
ちゃんと謝ること。」
「はい、すいませんでした。」
アキラは頭を下げると傍らで二人の様子を眺めていた芦原にかけより、すいませんでした、と頭を下げた。
芦原はなぜか泣きそうな顔して、それでも、「うん。」と笑顔を作った。
屋敷に戻ってきたアキラを1番に見つけたのは芦原だった。アキラの姿を見るなりくずおれた芦原は、床に頭を摩り
付けるような体制で
「良かったぁ〜・・・・。」
と漏らした。その時初めて、自分がやってしまった行為の重大さに気付いたのだった。
ごめんなさい。
ボクはいろんな人から想われている。
身近な人から、そして見知らぬ人までもがボクを心配し、ボクに期待する。
それなのにボクは運命を呪うだけで、何をするわけでもなく。
ボクは――――――。
アキラが自分の部屋のドアを開けると、冷たい風が頬を掠めた。
また誰かが窓を閉め忘れている。
アキラが中に入ると、窓の1枚が開け放たれていて12月の冷たい風が吹き込んでいた。
アキラの部屋は毎日メイドが掃除をしてくれるのだが、こんな風に窓を開けたまま忘れていくことがよくある。
普段なら勉強が終わって戻るのが夕方前なので、ここまで部屋が冷えることはないのだが、今日はアキラが
屋敷を抜け出して陽が沈むまで橋を眺めていたせいで、帰るのが大分遅くなってしまった。
部屋は外と変わらない温度になっていた。
窓を閉めてエアコンのスイッチを入れると、ウィーンという音とともに暖かい風が流れてくる。
ヒカルは朝部屋を出た時と寸分違わず同じように椅子に腰掛けていたが、朝開いていた瞳は閉じられていた。
アキラは近付き、跪いてヒカルの手を取った。
「――――え?」
ヒカルの手はまるで陶器のように冷たくなっていた。
アキラは慌てて額に手を当てると、そこは燃えるように熱い。
アキラの背中を冷たいものがひやりと這い上がった。
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