「ホントに戻ってきましたね。」
芦原は昨日の夜の出来事を思い出して笑った。

昨夜人形なんていらないと言っていたアキラは渋々承諾して去っていったものの、緒方の予想通りすぐ自分達の
もとに戻ってきた。
彼は息を切らせながら走ってきたかと思うと
「ヒカルはどこで寝ればいいんですか!」
と叫んだ。
緒方は口角を引き上げ芦原を見ると「ほら、な。」と呟くのに芦原は吹きだしてしまう。
二人のやり取りをイライラしながら見ていたアキラが口を開いた。
「聞いてるんですか!」
「聞いてるよ。ところで、ヒカルって誰だ?」
「えっと・・・人形ですよ・・・名前無いと不便かと思って。」
アキラにしては珍しく言い辛そうにもごもごと口篭る。
それはまるで言い訳のようで緒方と芦原は面白そうにその様子を眺めていた。
「一緒に寝ればいいじゃん。」
「ダッ、ダメだよ!!彼は人形でもちゃんと生きてるんだから!!」
芦原の言葉に赤くなって叫ぶアキラの姿に緒方はとうとう声を上げて笑った。
アキラは眉を顰めると緒方をキッと睨みつけるが緒方は気にしてる様子もなく笑い続けている。
「何がそんなにおかしいんですか。」
「イヤ・・・悪い。そう、だな。すぐベッドを1つ用意させよう。そこに寝かせるといい。」
口元を抑えながらまだ笑い続ける緒方に、不愉快そうな顔を向けながらも「お願いします。」と頭を下げた。

「昨日のアキラ可愛かったな。いつも何があっても動じないあのアキラが人形1つでわたわたしちゃってさ。
人形なんかいらないとか言いながら名前とかつけちゃってるし、なんだかんだ言って気に入ってるんだな。
ずるいよ、緒方さん。俺もそういうプレゼント上げたかった。」
「お前はまだまだ観察力が足りないんだよ。相談役。」
「ちぇ。」
芦原は頬を膨らませながら、チラリと時計を見遣った。
そろそろアキラが起きてくる時間だ。


    *    *    *


夢を見ていた。
幼い頃の楽しかった夢。それはたった1日の出来事だったけれど、何よりも強くアキラの胸に残った。
ここに連れてこられた時、もう会うことはないだろうと思っていた。
見慣れた天井に現実が押し寄せてきて涙が出そうになる。
アキラは額に掌を当て、空しさが自分の中を通り抜けていくまでじっとしていた。
溜息を1つ吐くと起き上がるため身体を傾け、そこでアキラの動きが止まった。
隣には昨日人形の為に入れてもらったもう1つのベッド。その上でこちらを向いている人形の双眸は開かれていた。
じっとアキラを見つめている。

ヒカルだ、とアキラは確信した。

こんな風にこんな所で再会するなんて思ってなかった。
二度と会えないと思っていた人。

アキラはヒカルに近付くと笑顔を向ける。


「おはよう、ヒカル。ボクの事覚えてる?」


人形は何も答えず、時々瞬きを繰り返すだけだった。



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