「何って誕生日プレゼントだよ。」


ほとんど片付けられたパーティルームに緒方はいた。
息を切らせながら立っているアキラの前で、椅子に腰掛けゆったりとコーヒーを飲んでいる。
「僕はっ・・いらないってっ。」
走ってきたせいで息が弾んでうまくしゃべれないアキラを、緒方はチラリと見遣ると口の端を少し上げて笑った。
「少し運動した方がいいな。アキラ君。」
肩で大きく息をしながら睨んでも緒方にはどこ吹く風である。
緒方は懐から愛用の煙草を1本取り出すと、煙草の先でテーブルをトントンと軽く鳴らした。
その間少しでも息を整えようとアキラは深呼吸する。

「欲しかったんだろ?遠慮することはない。素直に受け取れ。少々値は張ったがね。」
「いらないと言ったはずです。僕にはあんなもの必要ない。」
「いらないなら捨てればいい。アキラ君の物なんだから好きにすればいいだろう?」
緒方の言葉にハッと顔を上げたアキラを緒方は満足そうに眺めた。
手に持っていた煙草を口に銜えると燐寸で火を点ける。立ち上る煙の向こう側でアキラはまだ黙り込んだままだ。
ふぅとアキラの顔に息を吹きかけるとアキラは眉を顰めた。

「・・・・よくそんなことが言えますね。人形とは言え、彼は“生きて”いるんでしょう?」
「いらないと言ったのは君だよ。」
「・・そうだけど、でも。」
「別に部屋に置いていても邪魔にはならないだろう?何も世話する必要もない、ただ座らせておけばいい。」

緒方は自分の満足いく答えをアキラが出すだろうと確信していた。
アキラの性格は長い付き合いで知り尽くしている。
アキラは暫く何か考えていたが、やがて大きく息を吐くと口を開いた。

「僕は何もしませんよ。ただ部屋の片隅に座らせておくだけですからね。」

静かにそれだけ言うとアキラはパーティルームを後にした。



「プレゼントって人形だったんですね〜。」
黙って二人のやりとりを見ていた芦原が、アキラが出て行くのを確認すると口を出した。
ニヤニヤ笑いながら“ああ。”と答える緒方に芦原が首を傾げる。
「でも、いらないって言ってましたよね〜。」
「さぁどうかな。」
「え?」
「真意は別のとこにあるのさ。あの人形お前のライバルになるかもしれないぞ。」
「はぁ?」
「まぁ見てろ。アキラ君すぐ戻ってくるから。」
益々訳が分からないという顔をしている芦原に緒方は声をあげて笑った。



部屋のドアを開けると人形は同じ場所で静かにアキラを出迎えた。
アキラは人形にゆっくり近付くと、抱えていたバラを人形の腕からそっと離して自分の机に置いた。
人形の顔を覗き込んだが瞳は未だ閉じられたままで、安堵したのと同時に落胆も確かにあってアキラは複雑な
気持ちになった。

瞳は開くのだろうか。
どんな色なんだろう。

手を伸ばしてそっと触れると冷たいと思っていた頬は意外と温かくてアキラは驚いた。
“生きている”という緒方の言葉を思い出す。
膝に置かれた人形の手をとるとアキラは跪いて自分の頬にあてる。
自分よりは幾分温度は低いものの人形には確かに体温があった。

「・・・・ヒカル・・なの?」

その呟きはまるで願いのように切なく響いた。




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