記憶        


君が記憶の欠片を探して彷徨う横で、僕は何も出来ずにただ君が戻ってくるのを待っている。
それは一瞬のようでいて、果てしなく続くようにも思えてひどく切なくなる。

今どこに居るの。
誰のことを考えているの。





進藤は誰も居ない対局室の窓辺に座り外を眺めていた。
外は雨。時折強い風に流され窓硝子にぶつかって強い音をたてる。
彼を見つけて、でも声もかけれなくて。
僕は進藤の隣に座ったが、何かを思いながら外を眺めている彼はちっとも気付かない。
何分ぐらいたったのだろう。ふいに前を向いた彼がやっと隣に座っていた僕に気がついて「あれ?」と
声をあげた。

「いつから居たんだ?全然気付かなかった。」
「だろうね。どこか余所に行ってたみたいだから。」

僕の言葉の意味がわからずにきょとんとしている彼がひどく羨ましかった。
彼はきっとこんな僕の気持ちを知らない。

「声かけてくれれば良かったのに。」
「そうだね。次はそうする。」
「うん。」
「・・・。」
「いろいろ考えてたんだ。お前に2回目に会った時もこんな風に雨が降ってたなぁって思って。
それからいろいろな事があったなぁって。」

進藤の視線が遠くに離れて、また行ってしまう、と思った。
咄嗟に僕は進藤の腕を掴んでしまい、驚いた進藤と目が合う。

行かないで、僕の側に居て。

思いは言葉にはならず、胸の中に落ちていく。
僕は掴んでいた進藤の腕をそっと放すと、静かに立ち上がった。

「帰るのか?」
「・・・ああ。」
「じゃ、俺も帰る。傘持ってるだろ?俺忘れてきちゃったからさ。」
実はお前が来るの期待してた、彼はそう言って笑った。

君はずるい。
こんな何気ない一言が僕の心に小さな灯りを灯すなんて考えもしないんだろう。

「僕が来なかったら濡れて帰るつもりだったのか?」
「お前が来るって多分知ってた。」
「多分?」
「現にお前来たじゃん。」

それは君があんな顔をして外を眺めていたからだろう。
君があのまま僕に気付かなければ僕は帰っていた・・・・いや、違う。きっと進藤が僕に気付かなくとも
僕はあのままあそこに座ってるつもりだった。

君が戻ってくるまで。

僕を見るまで。


ふいに指先に暖かい物が触れたかと思ったら進藤の指だった。
並んで歩いていたから当たってしまったらしい。進藤がごめん、と小さく呟いて、僕は謝らなくていいのにと
思ったが口にはしなかった。
彼の言葉がそのまま僕達の距離なのだ。
友達ですらない。
こんなに近いのに果てしなく遠く、決して交わることのない平行線。

きっと、これからもずっと。



外に出ると雨は大分小降りになっていた。
西の空が明るいからもう少しで雨も上がるだろう。
 



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