予定外の出来事
腰のだるさで目が覚めた。
目覚めの気分は最悪だった。下半身が鉛のように重くて、頭の芯がじんと痺れている。
俺は暫く目の間にあるシーツの皺だとか、畳の縁だとかをぼんやり眺めていたが、ふと横にあるはずの
温もりがないことに気がつき顔を上げた。
男は窓の桟に腰掛けて外を眺めていた。
その窓からは中庭が一望できる。あまり大きくはないけれど適度に手入れされた中庭は、今は不在の
この家の主の性格を伺わせる。
威厳を放ちながら、陽が差し込むと暖かく迎え入れるようちゃんと計算されているようだ。
主の性格をそのまま受け継いだと思える彼の息子は、ただじっと既に見慣れているであろう中庭の
朝陽の当たる様を見ていた。
空気が流れるのを感じたのか男はこちらを向くと、いきなり目が合ってドギマギしてる俺に「おはよう。」と
声をかけた。
その顔は晴れ晴れとして、窓から差し込む朝陽に少しも引けをとらない。
そんな顔をされたらこの腰のどうしようもないだるさとか、なかなか寝かせてくれなかったせいで痺れて
いる頭とかの文句も言えなくなってしまう。
自然に昨夜のことを思い出して顔が熱くなった。
最近は二人ともずっと忙しくて会えない日々が続いていた。
段位があがるのは喜ばしいことだけれど、仕事の量も比例して増えていく。
最後に二人で朝を向かえたのは1ヵ月も前の話だ。
そのせいか男はいつもより執拗に俺を求めた。
何度も何度も達かされてその度にもうやめてくれ、と懇願してそれでもその言葉が聞き入れられることは
なかった。
「どうかした?」
黙りこんでいる俺を不審に思ったのだろう。男が近付き、顔を覗き込む。
男の切り揃えられた髪がさらりと揺れた。
中世的な美しい仮面の下は誰よりも熱い。
「腰痛い、立てない、だるい、死ぬ。」
俺は短く言って、目の前の端正な男の顔が困ったように歪むのを期待した。
しかし男は俺の期待を裏切り、そう?と短く言って微笑った。
オニめ・・。
「どうしてくれんだよ。今日は和谷と約束があるのに。」
「そんな様子じゃ行けそうもないよね。」
まるで悪戯が成功した子供のような顔をして言った男の言葉に、俺は突然気付いてしまった。
男が昨夜俺を放してくれなかった理由を。
やられた・・・・!
「お前、だから・・・。」
「なんのこと?」
男は嘯いて俺の横に滑り込むと、腕を伸ばしぎゅと抱きしめた。
外に出ていた男の身体は少しひんやりして冷たい。
「キミが悪いんだよ。久しぶりに休みが重なったのにボクを置いて和谷と約束?ひどい話だよね。」
「お前が今日休みだって知る前に和谷と約束しちゃったんだから、しょうがないだろ。」
「うん、しょうがないよね。今日行けなくなったのもしょうがないよね。」
そういうと俺の胸に頬を押し付けてくる。
顔は見えないけど彼が微笑っていることが柔らかい雰囲気で伝わってきた。
俺はわざと大きく溜息を吐いて、男の頭を抱え込む。
毅然とした態度で凛と前を向いている普段の彼からは誰も想像できないだろう、男は意外と“子供”だ。
ありとあらゆる褒詞を受けながら、実は我侭で負けず嫌いで短気なこの男のアンバランスな所も
嫌いではないのだけれど。
「今日は一緒に居たって何もできねぇよ。俺起きれないもん。」
少し情けない気持ちで呟くと
「いいよ。今日は一日キミとダラダラする。」
事も無げな様子で言う男にこいつやっぱり確信犯だな、と改めて思うとともにどこか嬉しい気持ちも
隠せない。
「塔矢アキラの言葉とは思えないよな。」
「キミにはもっとボクを知って貰わないと。」
「もう十分知ってる・・・。」
口を尖らせて拗ねたように言うと、男は声を上げて笑った。
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