遊園地        


棋院のエレベーターを降りると丁度こちらに歩いてくる緒方が見えた。
アキラが頭を下げると緒方も軽く頭を下げる。
そのまま何も言葉を交わすことなく通り過ぎたところで、何か思い出したように緒方に
呼び止められてアキラは振り返った。

「アキラ君にこれをあげよう。」

緒方はそう言うと内ポケットから長方形の紙片を取り出し、差し出した。
アキラは反射的にそれを受け取る。

「遊園地のチケット?」
「ああ。貰ったんだがそんなとこに行くような年でもないもんでね。アキラ君にあげるよ。
好きな子とでも行ってきたらいい。たまには息抜きも必要だよ。」
「好きな子・・・・。」

好きな子と言われて咄嗟に思い浮かんだ明るい笑顔にアキラは慌てて頭を振った。
そんなはずはない。彼はただの-----------
ライバル。
そう。それ以上でもそれ以外でもない。

そんなアキラの様子を緒方は面白そうに眺めていた。
アキラの耳元に口を寄せるとわざとからかうような口調で囁く。

「アキラ君もお年頃だね。」

途端にアキラの顔が赤く染まって、緒方は声をあげて笑った。
「ボクには好きな子なんていません!」
「ああ、楽しんでおいで。」
アキラの言葉を聞いてるのか聞いてないのか、適当に返事を返しひらひら手を振りながら
緒方は去って行った。
緒方の後姿を苦々しく見ながら、貰ったチケットをどうしようか考えていた。

市河さんにあげようかな・・・。
彼女ならきっと喜んで貰ってくれるはず。

もし・・・、
もし、進藤だったら誰と一緒に行くのだろう。

そこまで考えてアキラは苦笑した。



パチンと目の前で手を叩く音がしてアキラは我に返った。
気がつくとヒカルが目の前で不思議そうな顔で見ている。

「何ぼーっとしてんだ?」
「え、あ・・。」
「お前でもぼーっとすることあるんだな。」
「キミが来るのが遅いから考え事してたんだよ。」
「ふ〜ん。何考えてたんだ?」

ヒカルはそう言いながらアキラの目の前の椅子に腰掛けた。
碁会所で約束していても遅れてくるのは決まってヒカルの方で、最初のうちは文句を言ってたものの
最近ではすっかりそのことに慣れてしまった。

「別に。何だっていいだろう。」
「まぁ、いいけど?」
ヒカルは気にしてないように碁笥の蓋を開ける。
アキラも同じように碁笥の蓋を開ける。

「・・・進藤。」
「何?」
「あの・・・」
「うん?」
「いや・・・いいんだ。何でもない。」
珍しく歯切れの悪い言い方にヒカルは首を傾げたが、あえてそれ以上聞くことはなかった。
そのまま対局は始まり1目半でヒカルが勝利を収めた。

外に出ると外はもう真っ暗で、ぽっかり浮かんだ丸い月がまるで空に開いた穴のようだ。
吐き出す息が白く染まりヒカルが寒いなと呟くとアキラがああ、と小さく答える。
それ以上会話は無く、二人は無言で歩いた。
やがて地下鉄の入り口が見えてきて、アキラが歩を止めるのに気付いたヒカルも足を止める。

「どうかした?今日のお前ちょっと変だぞ。」

アキラは少し視線を彷徨わせていたがやがて静かに息を吐くと、コートのポケットから
緒方から貰ったチケットを2枚取り出し、ヒカルに差し出す。
「何これ、遊園地のチケット?」
「緒方さんから貰ったんだけど、ボクは行かないからキミにあげるよ。
・・・好きな人とでも行ってきたらいい。」
そう言ってアキラは地下鉄の階段を降り始めた。
ヒカルは受け取ったチケットとアキラの後姿を交互に見ていたが、やがてアキラに続く。

「塔矢はいつ休み?」
「え?」
「だから、休み。」
「今度の日曜日は何も・・・。」
「じゃあ日曜日。9時に駅前で。」

ぽかんと見ているアキラにヒカルは少し笑ってチケットの1枚をアキラの胸に押し付けた。
「せっかくだから一緒に行こうぜ。俺お前と一緒に行きたい。」
塔矢と遊園地なんて想像できないからな、とヒカルは言い訳のように言葉を続ける。

なんだ・・・・。こんなに簡単な事だったんだ・・・・。
ボクは何をぐるぐる考えていたんだろう。

何も言わないアキラにヒカルが「行くだろ?」と声をかけるとアキラは静かに微笑んだ。



「うん。行くよ。」



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