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2006年12月25日、大阪市立大学法学部棟11階大会議室にて第4回大会が開催されました。

12:30−14:50 シンポジウム:第一次大戦の記憶  司会者:富山太佳夫(青山学院大学教授)

 高橋章夫(和歌山大学非常勤講師)
  「第一次大戦と回顧録―総体化された兵士」

 松永典子(お茶の水女子大学後期博士課程)
  「偉大なる志願兵―伝記における死の修辞学」

 荒木映子(大阪市立大学文学部教授)
  「戦争詩とモダニズム・再考
15:00−15:40 研究発表:キーツの『レイミア』における女性像―Is Lamia an 'innocent bird' or a 'disguised demon'?

 発表者:谷内律子(奈良女子大学後期博士課程)
 司会者:山崎弘行(大阪市立大学教授)
15:50−17:20 講演:『クマのプーさん』と第一次大戦
 講演者:富山太佳夫(青山学院大学教授)
17:30− 懇親会
(アンケート) 後ほど掲載いたします。
シンポジウム
第一次大戦の記憶  司会者:富山太佳夫(青山学院大学教授)




「第一次大戦と回顧録―総体化された兵士」 高橋章夫

両大戦間、前線で戦った数多くの兵士によって第一次大戦の回顧録が執筆、出版された。多くの著者は自身の回顧録に関し、これは飽くまで個人的な体験であるという主旨のことを記している。その理由としては、既に指摘されているように、一兵士という立場から戦争全体の構図を提示することが不可能であったということが挙げられる。だがそれは同時に、同じ前線で戦ったが、異なる経験をした他の兵士からの反論を予期し、それを予め牽制するためでもあると言えよう。個々の回顧録はそれぞれがその独自性を主張する一方で、直接的、間接的に他の回顧録と密接に関わっている。回顧録に書かれた内容は、著者の執筆時の状況に大きく左右されており、戦場で経験した現実をそのまま描いているとは言い難い。さらには、このような再構成された記録を基に、様々な形態の二次的、三次的な作品も創出されおり、そこからわれわれは第一次大戦の記憶を形成しているのだ。今発表では、今日まで安定した人気を保っている、シーグフリード・サスーンの『シャーストン三部作』、及び、ロバート・グレイブズによる、『さらば古きものよ』を中心として、回顧録が記録され、出版される過程を検証し、それが戦後の人々の記憶に与えた影響を考察する。また、このような文化的産物が歴史として大戦を定義する際、どのように利用されてきたかについても言及したい。


「偉大なる志願兵―伝記における死の修辞学」 松永典子

第一次大戦開戦当時、徴兵制を敷いていなかった英国においては数多くの青年が、国家のために戦うことを志願した。最終的には植民地を含め、総勢9000万人もの男たちが動員されたという。志願兵が開戦当時の英国における大戦の特徴とすると、大戦の後の特徴に大量の戦死体が挙げられる。その死傷者は、1790年から1914年までの西洋の主要な戦争における戦死者数の二倍の数に上り、英国においては休戦の段階で、身元の判明した戦死体の数とほぼ同数の50万名が未だ行方不明者名簿に記載されたままだったという。死という極めて私的な経験が国家行事によって引き起こされることにより、死体は公的な性格を有する戦死体へと変換され、国家によって埋葬可能な対象となる。この政治性を帯びた未曾有の死体を、人々はどのように記憶したのか。死という形で他者となった存在は、生者(主体)にどのような記憶を与えたのだろうか。

「第一次大戦と記憶」というテーマを論じるにあたって、本発表では伝記という媒体に注目し、戦後数多く出版された戦争本の先駆けとなったリットン・ストレイチーの『偉大なるヴィクトリア朝時代人』(1918)の、とくに「フローレンス・ナイティンゲール」の章を分析する。大量の志願兵の死体が伝記にどのようなレトリックをもたらし、そしていかにこの文化的政治的な属性を帯びた身体(死体)が、伝記を経由して死者だけでなく生者に対して(反)作用を及ぼしているかを考えたい。



「戦争詩とモダニズム・再考」 荒木映子

イェイツがオーウェンの詩を『オックスフォード現代詩選集』から排除し、モダニストが塹壕詩を避けたのはなぜか、について、「数量化された死」という観点から再考する。

研究発表
キーツの『レイミア』における女性像―Is Lamia an 'innocent bird' or a 'disguised demon'?
発表:谷内律子  司会:山崎弘行



愛するリシアスを追って人間界に降りた蛇女レイミア、彼女は “La Belle Dame sans Merci” のような宿命の女か、Endymionに現れる月の女神のような理想の女性なのか。浮世離れした両極端の女性像を描くキーツの詩においてもレイミアは異彩を放つ。少女の初々しさと大人の妖艶さを併せ持つ彼女は、その両面性についても論じられるが、悪女的見方が主流であるように思われる。本発表ではレイミアの神秘性や無垢な可愛らしさに焦点を当てたい。レイミアはリシアスを捕らえるため妙なる虹の織り糸を張り巡らす。だが、彼女は狩られる側でもあり、自ら紡ぎだした二人のための愛の宮殿に閉じこもることで身を守ろうとする。結局、リシアスに裏切られ、招かれざる彼の師アポロニウスが婚礼の場に来ることで、二人は悲劇的結末を迎える。正体を隠していたのはレイミアだけではない。アポロニウスの正体を探ることで、この悲劇の真の犠牲者を明らかにしたい。
講演
 『クマのプーさん』と第一次大戦
講演者:富山太佳夫






懇親会
場所:大阪市立大学学術情報センター内ウィステリア
アンケート
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