SCENE.04.   結託

(あんな良い男千里にはもったいないわ)
歩きながら姫美子は考えていた。どうにかして、千里の彼氏である
川村勇を自分のものにする方法はないだろうか、と。
「西野っ。」
呼び止める声に振り返ると、克彦が立っていた。
「あら、堀部君。妙な所で会うわね。」
「久し振りだな。これも何かの縁だろう。どこか近くでゆっくり話
 でもしないか。」
「いいわよ、時間はあるし。」
二人は千里達が入っている喫茶店の向かいのドーナッツ・ショップ
に入った。

「そういや、桃生が帰って来てるんだってな。」
と、克彦が切り出した。
「知ってるわよ。今、ここの向かいの喫茶店にいるんでしょ。」
「なんだ、知ってたのか。」
姫美子が驚く風もなかったので克彦は拍子抜けした。
「彼氏、かっこよかったわねぇ〜。」
「え、一緒にいたのか。俺は見なかったけど。」
「ふーん。何だか会わせないようにしているみたいね。」
「そうかもしれないな。」
克彦がちらっと向かいの店を見る。ちょうど一組の男女が入って行
くところだった。
「ところで、どうだったの。告白の返事は聞けた?」
「え、どうしてそのことを・・・」
克彦は驚いた。あのことを知っているのは自分の他には和洋と千里
だけだと思っていたのである。
「どうせ誰にも話してないから誰も知らないとか思ってるんでしょ
 うけど甘いわよ。情報なんて絶対どこかから漏れるものなんだか
 ら。まして私の情報網をもってすればね。」
克彦は観念してすべてを話し始めた。

「なるほどね、そういうことだったのか。」
姫美子は一人納得すると、すばやく頭の中で戦術を練った。
「堀部君、あきらめちゃ駄目よ。私の見たところ、まだ可能性はあ
 るわ。多分、千里はあなたと大野君を忘れるために一人の男を愛
 そうとしたのよ。それが偶然川村さんだっただけ。私はあなたの
 恋に全面的に協力するわよ。」
もちろん、この言葉の裏には二人を別れさせた後、自分が勇を慰め、
つきあうという考えも入っているのであった。
「けれど、そうなると邪魔なのは大野君よね。」
「あいつなら大丈夫だろう。掘り返す気はないって言ってたし。」
「甘い、甘いわ。大野君は、多分自分がその話を持ち出すことで、
 千里が傷付くのが厭だったのよ。そういう男に限って昔の想いを
 引きずっているものなのよ。」
「そういうものかねぇ。」
「そういうものなのよ。大丈夫、まかせなさい。あなたは千里にモ
 ーションかけるだけでいいの。あとはこの別れさせ屋(トラブル
 メーカー)に任せなさい。」
そう言って自称“別れさせ屋”はオーダー票を克彦の方へ押しやっ
て店を出た