歯科医師ができるパノラマX線写真による骨粗鬆症スクリーニング

パノラマX線写真では、多くの場合、甲状軟骨から中頭蓋低レベルまでの像が得られるが、歯科の日常臨床では歯や周囲歯槽骨、上顎洞あるいは顎関節の診断に用いられ、下顎骨下縁皮質骨などが診断されることはほとんどない。
それならば照射領域を狭めれば被爆線量をより低減できる。が、これまで診断に用いられなかった領域を他の疾患の診断に応用されれば被爆も無駄にはならない。
一例として総頸動脈分岐部の石灰化が挙げられる。総頸動脈分岐部位に動脈硬化による石灰化が起きれば、パノラマ写真上の第3・4頸椎前方に不整なX線不透過物として観察される。この例は未だ根拠が乏しく今後の研究を要する。
 日本人の高齢化に伴って、わずかな外力でも骨折してしまう骨粗鬆症が重大な社会問題になってきている。日本では約1200万人の骨粗鬆症患者がいると推定されてるが、治療を受けているのは200万人ほどである。
 患者の9割を占めるのは女性であり、特に閉経後の女性に多くみられる。また男性も発症こそ遅いが決して例外ではない。
 骨粗鬆症で、特に背骨・腰骨(推体)、足の付け根(大腿骨頸部)の骨折である。
大腿骨頸部の骨折では受傷後3〜6ヵ月で10〜20%が死亡、寝たきりの原因の第3位を占めるに至ってる。大腿骨頸部骨折の患者の死亡総数、現在、約15万人に達している。
 骨粗鬆症は骨密度(約7割)と骨質(約3割)の両方が反映される。診断にはX線による骨密度の減少や、椎体の変形等を認めることで、ほぼ診断されます。補助診断として血液検査・尿検査などを行います。更に骨代謝マーカーによって診断されます。
 しかしながらその患者の多くが骨折するまで痛みなどの臨床症状を有しない。症状が出ない以上、関心もなく、最近の調査では骨粗鬆症検診率の全国平均は約4.6%と低く、検診率の低い県では要介護率が高くなっている。
 さて我々は歯科治療のためにパノラマX線写真を撮影するが、そこには「骨」が映し出されていて、骨粗鬆症患者をスクリーニングし、医科へ精密検査のために紹介できる可能性がある。
 従来から歯の周囲歯槽骨は炎症や咬合の影響をうける事は否定できない。しかし下顎骨の下方の基底骨部は炎症も受けにくく、十分に骨粗鬆症のスクリーニングに使用しうる。
 骨粗鬆症の患者は早期には海綿骨、そして皮質骨が薄くなっていくため、@厚みが十分、Aオトガイ孔が目印であるため有・無歯顎者問わず測定可能、B咬合に関与する大きな筋肉の付着部でない、Cパノラマ撮影時のchinrestに近いため、縦方向の拡大率が一定のため、オトガイ孔下部の皮質骨が一番妥当な有用な指標となると思われる。
 パノラマ写真は、前後傾斜・左右回転・左右位置移動などによる位置ヅレ、現像による影響なども考えられるが、許容範囲内であった。また左右では、片方だけの測定でよいが、一応両側判定し、悪い方を判定とする。                                  デンタルダイヤモンド10月号より
皮質骨の形態の分類
T型 両側皮質骨の内側表面がスムーズ
U型 皮質骨の内側表面は不規則になり、内側近傍の皮質骨内部に線状の吸収
V型 皮質骨全体に渡り、高度な線状の吸収と皮質骨の断裂
 経験を有する歯科医師が、下顎骨下縁皮質骨を「薄い」と感じた場合、約8割は低骨密度を有する女性であることが分かっていて、高齢者の女性患者が歯科を受診し、骨状態が上表のV型に相当する場合は医科に紹介する事が極めて望ましい。  
  V型