入れ歯にまつわるエピソード
・患 者『夜は入れ歯を外して寝るんですか』 
・歯科医『そう、外して下さい。靴をはいたまま寝る人はいないでしょう。飲み込んだら危ないし、夜は歯肉を休ませてあげましょう。また外した入れ歯は水につけておいて下さい』

 以前は何の疑いもなくこんなふうに夜の入れ歯の扱いについて指示してきた。
ところが「阪神淡路大震災で、外していたために入れ歯をなくして困った人が大勢いた。」と言う話を聞いてから、どうも歯切れが悪くなってしまった。十勝・帯広も地震が多い国だからである。
 もっとも、例外として夜も入れ歯を入れてもらうこともあった。噛み合わせの関係で入れ歯をいれないと歯肉に傷を作ったり、義歯を入れていないと落ち着かないと言う患者さんなどである。“入れ歯を外して寝ると怖い夢を見る”という人もいる。入れ歯を外すと噛み合わせが不安定になるためだろうと思う。眠っている間にも、人は口を動かしている。そのときに歯がなくて、顎が宙ぶらりんになると不安感に襲われる様だ。
 中には、入れ歯をいれたままずっと外さないし、歯磨きも入れたままという人がいるが、これは論外である。細かい隙間に入り込んだ汚れが積もり積もって、白くカビのようにこびりつく。そのままにしていると、歯肉は赤くただれ、痛みや出血を引き起こすし、残っている歯はムシ歯になってしまう。
 近頃は「抗菌・・・」という素材が色々なものに使われる。入れ歯にも使えるといいのだが、細菌に対して毒性をもつ材料を生体に使うには慎重でなければならない。よって入れ歯への応用はそう簡単にはいかないだろう。
 歯切れが悪いけれども「できれば外しておいてください」と言うしかない。