ドライマウス(Dry Mouse)
 自覚的な口腔の乾燥感を有する状態をdrymouthといいます。drymouthは,一般的には唾液腺の機能低下に関連し,安静時唾液が平常時の50%以下になると生じることが多いとされている。調査によれば、60歳以上の健常な高齢者では,食事中に約10%,起床時には約40%もの人が口腔乾燥感を有していた。それに対して、客観的な唾液分泌量の低下を表す言葉としてhyposalivationがある。咀嚼時唾液のcut-off値を0.5mL/分とすれば、60歳以上の健常な高齢者では約25%が唾液分泌低下とされ、要介護高齢者では実に約75%にものぼる。しかし臨床的には口腔乾燥感と唾液分泌低下が一致しないことも多い。
 唾液は、咀嚼、嚥下、発音、味覚、消化といった口腔機能を助け、また抗菌作用、歯の脱灰防止や再石灰化など、生体防御としても重要な役割を果たしている。とくに有床義歯装着者では、咀嚼、嚥下のみならず、義歯の維持や床下粘膜の疼痛にも唾液は関係し、補綴治療にあたって必ず考慮すべき項目である。
 唾液の量に影響を及ぼす因子としては、年齢、性別、全身疾患、薬剤、義歯の装着、心理的ストレスなどがあげられているが、とくに高齢者では年齢や全身疾患よりも薬剤の副作用によるものが多いとされている
 唾液分泌の低下を引き起こす薬剤としては、抗ヒスタミン薬、血圧降下薬、精神神経用薬、抗不安薬、自律神経作用薬などが知られているが、もっとも影響が大きいのは薬の種類にかかわらず、多剤服用であることがこれまでの研究から明らかにされている。.
 対 策
 口腔乾燥症の対策としては、まず現在投与中の薬剤を検討し、内科医と相談の上、可能であれば投与薬を変更してもらう。また、症状が重度であれば、糖尿病、自己免疫疾患、鼻咽喉疾患等による口呼吸などを疑い、医科に紹介することも必要である。
 歯科医師としては、咀嚼機能の回復は唾液分泌を促進するので、補綴治療による咬合の確立と維持が重要なことはいうまでもない。禁煙や飲酒の制限などの生活指導も必要である。
 対症療法としては、湿潤剤(ヒアルロン酸)配合洗口剤や最近日本で市販されるようになったジェル状の口腔湿潤剤がdrymouthの症状緩和に用いられる。
 人工唾液シェーグレン症候群ならびに頭頸部放射線照射による唾液腺障害に基づく口腔乾燥症に適応が限られているようなので、注意が必要。また口腔の自浄作用低下による根面齲蝕、歯周病、義歯性口内炎については十分注意し、とくに高齢者に対しては徹底した口腔衛生管理に努める必要がある。