大阪・海遊館、名古屋・名古屋港水族館など、近年、大型水族館施設がオープンして人気を呼んでいる。これらの水族館に共通するのは、観光地ではなく大都市の港湾地帯に建設されたことや、展示方法が非常にユニークなこともあるが、従来の水族館と最も異なる点は、水槽の窓面積が広くて館内も非常に明るいことだろう。
昔ながらの水族館の場合、水槽に使われる窓ガラスが、工場で製造できる限界や工場から水族館への運搬上の問題からある程度大きさを制限される上、水圧の大きさが無視できないため、大きな窓の水槽を作るのは難しく(作る場合、縦横に桟を入れざるをえない)、従って多くの場合、水槽の体積に対して窓面積が小さくなってしまう。観客は窓を覗き込むようにして魚達を見ることになり、また壁面積が必然的に大きくなる館内も薄暗い雰囲気になりがちだった。
海遊館などの最近の大型水族館施設では、水槽の窓として、ガラス板に代えて厚さ数十cmのアクリル板を使用している。単位体積あたりガラスより遙かに軽い分、かなり厚い板でも十分にトラックで現場まで運ぶことが可能だ。そして、一定の大きさに裁断されたアクリル板を建設現場に運び込んでから溶接して、枠も継ぎ目もない超大型水槽を製作したり、加熱して板を曲げることで、水槽の中を観客が通り抜けできるトンネルを製作したりすることが可能になったのだ。たいして新しい技術ではない筈だが、この材質転換が、最近の水族館の形態を劇的に変革させ、各水族館の展示方法を個性的になしえた最大の原因といっていい。
これらの超大窓水槽が登場する以前の水族館施設のトレンドは、イルカやアシカに芸をさせるショーだったり、一時「海のコアラ」と呼ばれ人気を呼んだラッコあたりだったか。いずれにしても、水槽自体の展示方法は昔とさほど変わっていなかった。水族館の「目玉」が、海洋生物の総数からいえば少数派である哺乳類から、多数派といえる魚類中心に転換してきた最近の傾向は、ある意味で正しいと言っていいのだろう。(勿論、新しい水族館でもショーを行っているところは数多いが)
さて、今回ここで取り上げる「蒲郡市竹島水族館」は、愛知県の三河湾を望む蒲郡という土地にある。海には竹島という小さな島が浮かび、橋で結ばれている。かつては結構なリゾート地だったらしく、昭和天皇が泊まった由緒正しいホテルもある(その後さびれて閉館していたのを西武が買収して、現在はプリンスホテルとして営業している)位だ。
しかし、東海道本線沿線ではあるものの、名古屋圏の主要交通である名古屋鉄道本線や、東名高速(近年インターチェンジとバイパス道路が造られたが)からは外れた地域にあることや、特に目を引く観光資源もないせいもあって、年々さびれているようだ。かつては名鉄もここまで特急を走らせていたが、今やワンマン運転の普通電車だけである。(余談だが、名鉄蒲郡線の終点・蒲郡駅のひと駅手前「蒲郡競艇場前」駅は、長い間、日本で最も長い名前を持つ駅名だったらしい)
そしてこの「竹島水族館」も、かつて観光地として賑わっていた頃に建設されたものである。一見すると、狭い窓、暗い館内という、平凡な「昔ながらの水族館」スタイルなのだが、しかしこの水族館の凄さは他の追随を許さない。
たしかに入館してしばらくは特に妙とも思わない、只の水族館である。しかし、やがて水槽の窓の上に掲示された、各水槽内の魚の説明書きを目にして、しばし呆然とする。
「…、…類…目、……に主に生息、美味」
……………え?
ふと最後の文字に驚き、他の説明書きを見るとそこには
「…、…類…目、……に主に生息、食用に適すが美味ではない」
などの文字が目に飛び込んでくる。
そう、ここは世界でも他に例を見ない「味」まで解説してくれる水族館なのだ。
…ほとんど生け簀と間違いそうだが。
僕がこの水族館に足を踏み入れたのはもう5年ほど前のことだが、その後何度か潰れるという噂を耳にしつつ今もまだ営業しているようだし、この説明書きもそのままらしい。
大型水族館施設が各地で人気を集める一方で、1998年春、長崎水族館が40年近い歴史に幕を閉じた。ペンギンの種類および飼育頭数では全国有数を誇った水族館だったそうだが、この他に客を呼べる目玉に欠けたこと、市街地から遠かったこと、施設の老朽化が客足を遠のかせたようだ。いま人気を集めている施設だって、古くなったり他に魅力的な施設ができれば、自ずと集客力は落ちていく。特に動物園や水族館の場合、博物館や美術館のような施設のように、展示物を頻繁に収蔵庫から入れ替えたりよそから借りてきたり、ということが出来ないから、建設前のコンセプトの段階がかなり重要なのかもしれない。
動物園にしろ水族館にしろ、研究施設としての側面を持つ場合も多く一概には言えないが、学術的な見地からの活動方針と利潤追求・集客のための経営施策を一致させるのは難しいところだろう。また、こういう施設の営業施策として重要なのは、一回きりの見物客を多く集めることよりも、如何にリピーターを多く作るか、という点にあることはいうまでもない。目新しさだけの、いわば一過性の話題性だけに終わることなく、何度見ても飽きないような内容・手法を追求していくことは、この手の施設に限らず、おそらくエンターティメントに関わる全てのものにとって重要なことだろうと思う。
…さて、こんど名古屋に帰省した時にでも、久しぶりに蒲郡に行ってみるか。(笑)
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