コカ・コーラとマイクロソフト (1997.10「公楽荘友の会会報 準備号」掲載)

 どういう魂胆なのか、長野オリンピック関連のテーマ曲は呆れるほど多い。最初に出た公式イメージソングが杏里「瞳の中のHERO」で、今年冬に公式メッセージソングとしてさだまさし「Dream」が出た。更に、開会式では「WAになって踊ろう」(V6がカヴァーした方が有名かも)をテーマ曲にするらしい。更に、大会期間中は中継時に各TV局が独自にテーマ曲を設定するだろう(アトランタの時はNHK-大黒摩季、日テレ-渡辺美里、フジテレビ-TOKIO、だったかな)
 そしてつい先日、聖火リレーのテーマ曲を槇原敬之が担当することが発表された。長い間ワーナーを支えたさだまさし移籍後のワーナー唯一のエース格アーティストになるかと思われた矢先、ベスト盤「Smiling」大ヒットを置き土産にソニーに移籍してしまった人であるが、まぁこの際そんなことはどうでもいい。
 それはともかく、この聖火リレーのスポンサー(!!)になったのが、缶コーヒーのジョージア、つまりコカ・コーラだ。コカ・コーラ自体は昔からオリンピックのスポンサーをしている(アトランタでオリンピックが開催されたのはコカ・コーラ本社があるから、という説はあながち出鱈目ではない)が、他のブランド(しかもジョージアは日本限定ブランド)でスポンサードするのは初めてのことかもしれない。個人的にはアクエリアスの方がオリンピックのイメージには合うような気がするのだが。
 
 缶コーヒーはポッカやUCCが始めた、日本で作られ事実上日本にしか存在しないドリンク分野だが、最も売り上げの多いのがコカ・コーラの「ジョージア」シリーズである。現在の缶コーヒー市場隆盛の契機となったのは、矢沢英吉をCMに起用したサントリー「BOSS」やキリン「Jive」・アサヒ「Jo」といったビールメーカー系の缶コーヒーだが、これは、他の清涼飲料に比べて1年中ある程度安定して売れ行きが見込めること、冷夏などの気象条件に左右されにくいことから、缶入お茶とともに各社がここ数年力を入れてきた事による。しかし結局もっとも売れているのがコカ・コーラ製品という事実は一体どういうことなのか。これはコーヒーに限ったことではなく、キリンが「午後の紅茶」で先鞭を付けた缶紅茶市場でも同様の事態だそうだが、この理由はいたって簡単なことだ。つまり、自動販売機の数である。
 日本は缶飲料の自動販売機が異常に多い国でもある。棚に並ぶ時点で既に激しい競争が存在するコンビニではほぼ互角の勝負に持ち込まれても、コカ・コーラが他を圧倒しているのが自動販売機の数の多さであり、自動販売機で買う場合、他社の製品の方が好きでも目の前の選択肢には無い、という場合も多い訳で、そういう一種の消極的な選択の結果がジョージアの売り上げ1位を生んでいる、という見方もできる。決して飯島直子のお陰だけではない…と思う(笑)。アメリカではコカ・コーラとペプシコーラはかなり僅差で競り合っているが、これは日本ほど自動販売機が多くないことも理由なのだろう(もっともコカ・コーラはマクドナルドに供給している分で有利だし、それに対抗するために10年前ペプシはケンタッキーフライドチキンを買収したのだが)
 
 つまり、コカ・コーラの売り上げの多さは、圧倒的な自動販売機の数により、他社のコピー商品でさえも結果的には最も多く売ってしまうためなのだ。
 ここでふと思ったのだが、これって、どこかのやり方に良く似ていないか。
 そう、パソコン界の巨人マイクロソフト(Microsoft)である。
 WindowsがMacOSのコピーだとしてAppleと法廷闘争まで持ち込まれたのは有名な話だが、Windows95の登場がMacintoshを追いつめたのも事実である。そして、圧倒的なシェアを誇るOS (Windows)との親和性を売り文句に、他のソフトまで売り込んでいる。
 DOS時代にはどうしてもLotus1-2-3の牙城を切り崩せなかった表計算ソフトでも、元々Mac用ソフトだったExcelがWindows時代になってからは他を圧倒しているし、日本語ワープロでもMS-Wordが純国産ソフトの代表的存在ともいえる一太郎と肩を並べるところまでシェアを伸ばした。最近ではブラウザソフトで標準だったNetscape NavigatorをInternet Explorerで激しく追い上げ、こちらはWindowsだけでなく先日発表されたAppleとの提携によりMacOSでも標準設定ブラウザの地位を手に入れてしまった。この他、現在注目の言語Javaでも開発元のSun Microsystemsを追い落とす画策をしている模様である。つまりWindows95を日本コカ・コーラの自販機と考えてみると、その構図はよく似ているのに気付く。
 マイクロソフトにしろコカ・コーラにしろ、失敗した製品(もしくはプロジェクト)も実は数多いのだが、そういったネガティブな要素はあまり表に出てこないし報道されない。これは宣伝戦略のうまさも大きいと思う(その点がまるでダメなのがAppleで、この会社は昔からネガティブな要素ばかり過大報道される嫌いがあるが、メディアの偏向だけでなくApple自体の宣伝戦略のまずさにも責任はあるのは確かだ)。逆に、成功している商品の多くは、他社のコピーというか後発だったものの方が多いような気さえする。
 ちょうど僕等が長崎に集まっている頃、MicrosoftがAppleに1億5000万ドルを出資することが発表された。これを業界事情を良く知らない記者が「Apple白旗」などと書いて朝日新聞の1面に掲載されたのにはいい加減呆れたが、独占禁止法の適用を恐れるMicrosoftが提携相手なら買収されることは絶対にない訳で、確かにAppleとしては最高の選択だった(心情的には最悪かもしれないが…)筈だ。Microsoftとしても独占禁止法以外にも、唯一Appleに敗れたQuickTimeをWindowsに標準で取り込むこともできるだろうし、お互いにメリットは多いのだろう。しかし、提携に至った理由として流れている様々な噂の中で、僕が最も気に入っているのは、次のようなものである。
「そりゃ、Appleが潰れたらMicrosoftはコピーする相手を失くしちまうからさ!!」

(追記。このあとMac OS 8が発表されたが、標準ブラウザにはI.E.が入ったもののNetscapeも従来通り付属。そして半年後、あのiMacが発表され、以後もPower Mac G3/G4iBookの発売と、次々と話題を提供、Appleは驚異的な復活を遂げている。また、ペプシは自販機など販売ポイントの拡大を狙ってサントリーと提携、今年は春の「ペプシマン」夏の「STAR WARS」ボトルキャップで売り上げを大幅に伸ばしたのはご存知の通り。そして槇原敬之は…。)