富士登山記



8/19

夏の唯一のレジャー



富士山登ってきます。










台風直撃ですが無視する方向で


無事帰宅して

富士山ネタその1

出発の動機


 出発前の予定より台風が大きく速度を落としたため

 快晴の富士を登る事ができましたー 良かったです。


 さて19日に登ってきた富士山なんですが

 俺は富士を登るのは今回が初めてではありません

 去年の夏に友達と山梨側の登山道から一度登っています。


 なんでまた同じ山を二度登るのか?なんて言われそうですが

 頂上から見る御来光にはそれだけの価値があるんですよ


 眼下に広がる雲海から徐々に立ち上ってくる太陽

 あれはまさに絶景です、それしか言いようがありません

 景色を見て泣いたのは後にも先にもこれが初めてです

 *まだの方は是非自分の目で見ることをお薦めします


 下山した時には、俺も一緒に行った友達も口々に言いました

 今まで登山なんて興味無かったけど山が好きになった・・と。


 どう見たって俺もふくめて登山ってガラじゃないヤサグレタ野郎共が

 たった一回見た景色が美しすぎて山を好きになり

 毎年夏にみんなで集まって山に登ることにまでなってしまいました

 今じゃ地元で富士山に行った面子は、いっぱしの登山家きどりです。



 そして昨日の8/19に、去年富士山に行った同じ面子

 静岡側から富士山を登って無事帰って来ることができました。






 たった一度の景色を見ただけで誰もが登山を好きになってしまう

 そういう山なんですよ富士山って・・・。














 でも多分

 本当の山が好きな人18日に突然電話をかけてきて





「なぁ健、明日また富士山のぼんね?」なんて絶対言わない

そしてOKもしない


富士山ネタその2

換えの


 つーわけで、俺の友達から電話がありまして

 19日の登山を18日に知らされた侍魂の健です

 ステキな友達を持ってて俺幸せです。


 でもたぶん去年の俺が富士登山を知らせたのも

 三日前だったので向こうもきっと同じ事思ってます

 お互いステキですね。


 と言うわけで、無理矢理なノリで富士登山が決定

 しかも台風の中行く予定でしたから、それなりの装備が必要です

 水、食料、レインコート上下、防寒具、は万が一にも忘れる事はできません。


 あと大事なのは着替えです

 雨で濡れた身体は、容赦なく体温を奪われ非常に危険です

 台風が逸れたために、結局使わずじまいでしたが

 換えの下着、換えの靴下、換えのズボン、換えの上着など

 全て用意して万全の体制で登りました。








 しかし

 どうやら俺は台風に対する認識が甘かったようです

 現在台風が関東に接近し、物凄い勢いの風雨が吹き乱れてます

 窓とかガタガタ揺れて、ジョババババとかおかしな音をたててます

 近所の倉庫のトタン屋根とか飛びそうです



 こんな中、富士山登ってたら

 とてもとても、換えの下着換えの服なんかでは足りません






換えの身体が必要です。



富士ネタその3

無計画が招く死の予感


 登ったことない方は知らないかもしれませんが

 富士山には5つの登山道があるんです。


 山梨側 (富士吉田口、河口湖口)

 静岡側 (富士宮口、須走口、御殿場口)



 昨年登ったときは山梨側の吉田登山道からだったので

 今度登るときは静岡側と決めていた

 とりあえず地図を見たところ、一番手前にあったのが

 御殿場口だったので、そこでいいやとあっさり決定

 無計画万歳



 東名高速を御殿場インターで下り、富士にむけ山道を進んでいたのだが

 標高が高くなる度に、どんどん霧が濃くなっていく

 御殿場口駐車場に到着した時には、非常に濃密な霧に進化

 深呼吸をすると肺に水が入ってむせます



 しかし、そんな霧ごときでは俺達を止めることはできない

 「やってやるぜ」っと車のトランクを勢い良く開け

 その場で服を脱ぎだし登山モードに着替える。



 一日前に突如決まった富士登山で

 静岡に入るまでどの登山道から登るか決めてなかった俺達ですが

 昨年登って過酷な環境を体験してるので、用意だけは山を舐めてません

 念入りに揃えた富士アタックの装備は完璧です



 背に50リットルクラスの登山用リュック

 頭にタオルを巻いてヘッドライト

 手に昨年買った登山用の金剛杖



 アタック隊4人のすべての装備がそろった所で

 富士の麓でユンケルで乾杯



 これからの登頂計画は

 現在夜の8時、御殿場口から登り初めて

 夜明け前に頂上に到着、御来光を見てから下りる。


 いままさに、その富士登山第一歩を踏みださんとする俺達を

 とても不思議そうな顔で見ていた、駐車場の警備員は言った。




え 今から登るんですか?



今思えばこんな事言われるのおかしいと思ったんだよなぁ・・


富士山ネタその4

一生懸命考えないようにしてたけど、もう限界


 この時富士山御殿場駐車場では

 スターウォッチングキャンペーンと言うイベントが催されていて

 その分があるのだろうが駐車場には約50台ほどの車があった


 台風の中、富士登山に挑む馬鹿は俺達だけではないと勇気づけられる


 ちなみに

 霧で星なんぞ1つも見えない夜に星を見ようと言う趣旨のイベントを

 一生懸命盛り上げようとしてたスタッフの方々にも勇気づけられる。(涙)




 いよいよ登山の為の準備が終わり、みんなでユンケルで乾杯

 車にカギをかけいざ出発

 駐車場の出口で警備員の前を通ったとき

 彼は明らかに完全な登山スタイルの俺達を見てこう言った・・


 警備員 「え!! 今から登るんですか?」


 なんでアンタが驚くんだ!

 むしろ驚いたのは俺達だ、ここは富士山の駐車場だぞオイ・・

 しかし思い出してみると、確かあまりにひどい天候の時は

 入山させないと言う話を聞いた事があり、恐る恐る聞き返す


 俺達 「え・・ 今日登っちゃまずいんですか?・・」

 警備員 「いや別に大丈夫ですけど・・・」


 なんだろう今日登っている人少ないのか?

 とりあえず先を急ぐためお互い不思議な顔をしながら別れる


 そのまま登山道に向けて歩き続けると

 すぐに御殿場登山道入り口と書かれた鳥居と

 山頂までのコースが書かれた看板が見えてくる。


 すこし立ち止まり看板を見てルートを確認

 まず最初の目標は富士山六合目である

 看板にも真っ直ぐに描かれた六合目までの登山道を地図で確認

 現在地である御殿場新五合目からまっすぐ行って2時間以上かかる

 ユンケルを飲んで無駄に猛っている俺達にはむしろ丁度良い。


 ひんやりとした空気が火照る身体に心地よく

 心身共に充実した状態で登ることができそう準備は万全だ

 ただちょっとだけ、あたりに全く人がいないのが気になるが

 俺達はいよいよ富士登山第一歩目を踏み出す。



 ズサ・・ ズサ・・ ズサ・・


 靴が埋まり、登山用のリュックがおもく肩にのし掛かる

 こうして登っていくと昨年の富士山の事を思い出し友達に話を振る


 「そういや去年の富士山は、水の奪い合いになったっけな〜」

 「そうそう持ってく量間違ってな、全然たりねーでやんの」

 「あとよ、満天の星空って感じだったよな」

 「あぁ あんなに流星が流れるの俺初めて見たよ」

 「つーか、登るのより下山の方が疲れたよな」

 「すっげーつらかったなー」

 「だってよボロボロになって下りてくる俺達を見て今から登る人、えっ何?富士山の登るとこんなボロ雑巾みたいにになっちゃうのって顔で見てたもんな」

 「だったな(笑)」



 その他にも、友達の事、就職活動の事、女の事など

 本当にいろいろ話しながら俺達は登った

 山の開放的な雰囲気の為か

 普段なかなか話さないような事まで話題に出た。


 ちょっと恥ずかしいが深まる友情って感じで

 俺はこういう時間がたまらなく好きだ

 まだ六合目にすらたどり着いてないが富士山に登って良かったと思った。




 そう、この時俺は本当に楽しかった

 俺達の様子は友達と喋りながらの楽しい登山以外の何者でもない


 だけど俺には登り始めた時からずっと気になってた事があった・・


 多分それを気にしてたのは俺だけじゃない

 他の四人もみんなも同じだったと思う


 すべて楽しく上手く回っていたからこそ

 あえて誰も口にはしなかったんだと思う



 だけどみんなずっと思ってたんだ







そろそろこの霧ヤバイんじゃないか?って


気がつけば数メートル先も見えない濃霧



富士山ネタその5


霧の中で知らされる真実


 ふと気がつけば俺達は

 数メートル先も見えないほどの濃霧に覆われていた。



 すまんいきなり嘘をついた

 気がつけば、ではなくとっくに気づいてた

 今までの会話が皆やけに饒舌だったのがなによりの証拠だ

 みんな必死に考えないようにしていただけだった



 急に決まったとは言え

 全員のバイトの予定が奇跡的に空いた日を狙って

 ようやく実現した富士登山、台風すら覚悟した俺達の夏の思い出作り

 俺にはこれしか思い出が無いんだ

 誰もがちょっとやそっとの霧くらいで水を刺したくなかったのだ。



 しかし、霧は登れば登るほど濃くなっていき

 もはや数メートル先も見えなくなってしまい

 さすがに耐えられなくなった一人が申し訳なさそうに口を開いた


 友人A 「あ・・あのさぁ この霧やばくない・・?」



 一同 「
俺もヤバイと思ってた!!

 お前もかブルータス!!完璧なまでに声が揃った

 みんなよほど恐ろしかったらしい

 鼻水垂らしてたガキの頃からの付き合いだが

 これほど奴らと一体感を感じたのは初めてだった

 ただこんな時にそんな友情を感じてもあんまり嬉しくねぇんだが・。



 とにかくさっきの友達の一言で

 ずっと考えないように避けてきた現実を直視してしまい

 まるで決壊した堤防のように

 皆の押し殺してきた恐怖感が一気に外に溢れでる


 「つ つーか ヘッドライト最大にしてみても数メートル先も見えねぇよ

 「絶対おかしいって!、この登山道でまだ一人も登山客に会ってねーよ

 「これまじで遭難するぞ、だってもうライト無かったらお前らの顔見えんぞ!

 「ロープが見えねぇから今ここが正しい登山道かわかんねーじゃん!」


 とにかく本当に笑えなかった

 けっして大げさに言っているのではなく、本当に数メートル先が見えない

 夜の闇と濃霧が重なりすこしでも離れてしまったら

 ヘッドライトが無ければお互いどこにいるか分からないくらいだ


 なにせ道の真ん中からでは登山道を形造る二本のロープが見えないのだ

 一回でも富士山に登った事がある方なら

 どれぐらいひどい霧か分かっていただけたと思う。


 それに誰かに相談しようにも登山道には自分たち以外は誰もいない

 去年山梨から登ったときには、溢れ返る人とライトでまぶしいくらいだったのに

 今年は未だ出発時から登山の格好をした人に会っていない

 しかも追い打ちをかけるように途中にあった山小屋まで誰もいなかった


 なんにも見えない、誰もいない、山小屋まで留守


 よくここまでこんな状態で一度も立ち止まらずに登ってきたものだ

 原因は四人みんながせっかく静岡まで来たのだから

 なんとしても登らなくては帰れるに帰れない思っていたからだが

 それ以前にこれだけ人の手が入った山で死ぬわけがない

 やはり心のどこかで富士山を舐めてた部分を認めざる得ない


 なぜなら

 立ち止まってこの後どうするか話していたときに

 洒落のつもりで試しに

 全員喋るのを辞めて一斉にヘッドライトを消してみたのだ


 無音で静まり返った辺りは一切の光を失い霧に包まれ

 何も見えなくなりまるで白い箱に閉じこめられたようだった

 その様子はあまりにも非日常的ですげー恐ろしかった


 さすがにこれには一発で全員目が覚めた

 友達同士でハイテンションになっていた所に氷水をぶっかけられた感じだ

 冷静になった俺達は、うかつに動き回ると本当に遭難すると

 ひとまず腰を下ろし下山も考慮に入れての話し合いに入る。


 現状を把握する為の様々な話が出る中で

 まずみんなあまりにも人がいない事が不思議がった


 「あのさぁ霧もまずいと思うんだけど それ以前に人いなすぎじゃね?

 「だよなー去年と全然ちがうもんな」

 「もしかして今は使われてない登山道なのかな?」



 去年の山梨側の富士吉田登山道から登った時は

 車で五合目に着いた時点で真夜中だと言うのに売店が強烈に光を放ち

 そこら中に完全装備の登山客がいて登山道が渋滞して登れなくなり

 下から見上げると登山客の持ったライトが頂上びっしりと連なっていたほどだ


 しかし今年の御殿場登山道は

 まず五合目に一店しか売店が無いしかも開いていない

 そもそも登山客がいない、と言うよりも人間がいない

 途中にあった山小屋にも住んでいる人がいなかった

 霧のせいもあるが見上げてみても明かりが一個も見えない

 いくら台風が来ているとは言えこれはあまりにも異常だ


 そこで携帯電話で友達に連絡を取り

 ネットで御殿場登山道について調べてもらう事に

 10分ほどたって友達から折り返し連絡が入る


 「なんか分かった?」


 「まぁ適当に富士山関連の個人サイト巡ってみて感想とか見てみた」


 「わりーな、ちょっと聞かせてくれ、この一体登山道どうなのよ?」


 「なんかね、別に閉鎖した登山道って訳じゃないんだけど、他の2300〜2400mまで車で上がれる登山道に比べて、御殿場は1300mまでしか車で上がれない事と足が埋まって登ってもズルズル落ちてしまう細かな火山灰地帯だから、御殿場登山道は富士山の五つの登山道でぶっちぎりで一番人気が無いらしいよ


 「・・・・・・。」


 「昼ならまだしも御来光をみる為の夜間登山で他のルートの倍近くかかる
御殿場から登る人はほとんどいないって書いてあるぞ


 「マジかよ・・。」


 「あっ!でも待って御殿場登山道のナイスな所とか書いてる所がある」


 「なに それ早く読んでくれ!


 やっぱり何にだって一個くらい良いところってのはあるもんだ

 もしかしたらそれが突破口になるかもしれない

 正直電話口で心が躍った


 「ちょっとまて、今読むよ 〜通称砂走りと言われる火山灰地帯では滑り落ちるようにスピーディーに下れるため為、下山ルートとして人気が高い、そのため最近では御殿場登山道は砂走りを楽しむ為の下山道として認知されてつつある〜だってさ」


 「・・・・・・。」


 「お前ら人がいないのがおかしいから調べてくれって言ってたけど、平日に一番不人気の所から登ってて、しかも台風来てるんだから誰もいない方が当たり前なんじゃないか?つーか今御殿場から登ってるのお前らだけかもよ


 「・・・・・・。」


 聞けば聞くほど絶望的だ・・・

 ひとまず礼言って友達との電話を切った後、俺は頭を抱えた

 無計画に決めてしまった登山だから

 何を言われても大抵のことは驚かないつもりだった

 でもまさか・・・






下山道を登ってるとは思わなんだ・・



富士山ネタその6


地雷人生ここに極まれり


 自分たちが登っていたのは下山道だった・・

 友人からの電話で初めて知る驚愕の事実。



 逆風、逆流、逆行

 そんな言葉が似合う事態が今までの人生で多々あったのは確かだが

 登山道まで逆でなくて良いのに自分、なんだか泣けてきたわりと本気で



 しかし不幸中の幸いと言うか

 別にこの御殿場口が閉鎖したわけではない事も分かった

 上の六合目には、しっかり山小屋もあるし

 登る人こそ少ないが、今でも登山道としても機能しているらしい。



 とりあえず、友達から電話を切って話し合いの再開をする

 相変わらず霧の晴れる気配は無く、無茶をすれば本当に遭難しそうな事態に

 当初下山案も出た、しかし誰もウンとは言わなかった


 やっぱりせっかく友達と静岡まで来ているのだ

 四人とも大学四年だし来年の夏はもう集まる事も難しい

 恐らくこれが友達と行ける最後の富士山になる

 それを考えると、どうしても下山するのは寂しかった。


 最後かも知れないし、思い出になんとか登りたい

 四人共そう思っていた俺達の出した結論はやはり登山続行だった



 しかし登る事にしたと言っても、相変わらず危険な状況であることは変わらない

 霧は濃いままだし、なにか事故があっても周りには助けてくれる人もいない


 そこで、なんとか六合目まで登って様子を見ることにした

 高度を稼いで霧の上に出る可能性に賭けてみたのだ

 それにそこまで行けば、山小屋の人に今後の天気も聞く事もできるし

 その上で登るなり下りるなり判断すれば良い。




 まずは富士山六合目まで行こう!!

 一度は萎えかけた闘争心に再び灯をともし、俺達は霧の中また富士山を登り始めた。




 ズサーー ズサーー ズサーー

 御殿場登山道特有の細かな火山灰は歩く度に足が沈み込みズリ落ちる

 下る時は楽しそうだが、登る時はスゲー疲れる。


 しかし、そんな火山灰地帯の地面の事など、このに比べれば大した問題ではなかった


 この濃い霧のなかでは、登山道の端に寄って

 ロープを掴みながらでなくてはとても登る事などできない

 もし手放して見失ったらあっというまに遭難してしまう。


 この霧の状態の御殿場登山道でロープを手放すことは

 海に投げ出された人が救命胴衣を脱ぎ捨てる事に等しい



 しかしロープをたどっていれば

 なにも問題が無いかというとそうでもない



 なぜなら登山道のロープは途切れ途切れで山頂まで張ってある為

 濃霧の中ロープを確かめながらやっとの思いで登っている今では

 ロープが途切れると次のロープを霧の中探し歩かなければならない事になる


 数メートル先にあればすぐ見つかるが

 曲がり角だったり、距離がある時はまったく見つからず

 全員で迷わないように声を出し合いながら探し回らなければならなかった

 一カ所豪快にロープが途切れているときは本気で泣きそうになった



 しかも、御殿場登山道は古い登山道の為か

 ロープが一本しか張られてない所がよくあるだが

 周りの景色が全く見えない中、一本のロープをたどって登ると言うことは

 どちら側が道側か崖側か全く分からないのだ

 事実、間違った側を歩いて何度か転げ落ちそうになった

 とにかく視界の無い濃霧の中の登山は困難を極めた。



 しかし俺達はやる気を失うことは無かった

 ノリだけで登ってきた途中までとは違う

 今は十分に危険を認識したうえでの登っているからだ。


 お互いが離れてしまわぬように遅い奴に

 全体を合わせて隊列をしっかり組み、時折点呼をかけあった

 ゆっくりとゆっくりと・・そして慎重に霧の富士山を登り続けた。


 そこからしばらくたったころだろうか、まだ霧こそ晴れないが

 徐々に視界のないロープづたいの登山に慣れてペースも上がってきていた

 心配してた台風による雨風も今のところ大丈夫そうだ


 これならば、ゆっくりと登っていけば富士山の山頂まで行けるかもしれないと

 一度は諦めかけたこの登山に俺達は手応えを感じた


 「時間かければ行けるよ山頂!!」

 「だな! それにもっと登れば霧の上に出るかもしれないしな!」

 「けっこうペース上がってきてるし良い調子だよ!」

 「うん 行ける 行けるよ 山頂まで行けるよ!」



 山頂に登れる!!

 そう思うと皆の志気もどんどん高まり力がみなぎってくる

 出発前に飲んだユンケルが効いてきたのかもしれない

 今は火山灰を踏みしめる一歩がとても力強い

 当面の目標は富士山六合目だ

 このペースならば一時は絶望視されていた御来光もなんとか見れそうだ


 「よしまずは
富士山六合目を目指してガンガン登ろうぜ!!」

 「オッシャァァア」



 全員で気合を入れ直し

 「富士山六合目」を合い言葉にどんどん登っていく

 すると前方になにかが見えてきた・・


 「なんか見えてきたぞ」

 「まだよく見えないがたぶん看板だな」

 「きっとたぶんあれ○合目って書いてる看板じゃない?」

 「そうだなあれが富士山六合目に違いない

 「よし あそこついたら、一休みしよう!」




 もうすぐ富士山六合目

 はやる気持ちを抑えつつ登っていった俺達を出迎えた看板には

 一言だけこう書いてあった・・・

 ↓















 










どこそれ?・・


 濃霧の中一生懸命登ってきた俺達を待っていたのは

 なぜか「双子山」と書かれた看板だった


 衝撃だった、まったく意味が分からなかった

 これを見た俺達四人の気持ちを表すならば

 トキメモのエンディングで伝説の樹の下で待っていたのが

 詩織ちゃんじゃなくて館林さんだった主人公の気持ちと言ったら分かってもらえるだろうか(誰だよお前!!みたいな)


 事態を飲み込めない俺達は軽いパニックに陥った


 「なんだよ!双子山ってどこよ!!」

 「富士山じゃねーのかよ ココ!!」

 「
意味わかんね!意味わかんね!意味わかんね!


 確かに自分たちは富士山御殿場登山道を登ってきたはずだった

 それは間違いない、入り口の鳥居もちゃんと覚えている

 だがなぜ双子山に出た?つーか双子山ってどこ?



 出発前に御殿場登山道の全体図が入った地図が有ったのを思い出し

 すぐさまリュックを降ろして、なかば祈るような気持ちで広げてみた






 なんだこの豪快すぎる間違いは・・

 あり得ねぇ・・・

 義務教育9年、高校3年、大学4年も勉強した成人男性が

 四人もいてこの間違いはあり得ねぇ!!

 未だパニックから抜け出せない俺達の横で双子山の看板がこちらを向いている


 +++

 富士山中腹に位置する双子山は2000mの標高を持つ寄生火山で、小高い山が二つ並んでいる事から双子山と名付けられた、その山頂から見下ろす景色は・..

 +++



 黙れ看板ふぜいが!

 今更こんな山のプロフィールなんて知りたくもねぇ!

 事故起こしてから保険のパンフ読んでも意味ねーんだよ


 てか本当に一体どこで間違えた?

 いくら霧だとは言え、あまりにも間違え方が豪快すぎる

 絶対途中に分岐点があったはずだ、まさかそれら全てを見逃したのか?

 俺達は登山中の心当たりを思い返してみた


 ・・・・・

 ・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・。

 

 ロープだ!

 ま・・間違いねぇ ロープだ・・それしか考えられねぇ・・

 図解
 


 遭難しないように登山道の左側のロープを握りしめていたら

 そのまま双子山ハイキングコースを一生懸命登ってきてしまったのだ

 まるで外れのあみだクジに全力で突っ込んでったみたいだ


 認めたくはない・・考えたくはないのだが

 どう地図を見ても、心当たりのロープをたぐっても

 今自分たちがいるのはどう考えても双子山で間違いない


 自分たちが濃霧の中危険を冒して登ってきた山は

 富士山ではなく双子山だった・・・

 この驚愕の事実を知った俺達は霧の中

 ラジオの玉音放送を聞いた終戦記念日の日本国民のように突っ伏した



一体今までの苦労は何だったのか?


 台風すら覚悟して出発しました(双子山に)

 霧の中滑落の危険を冒してまで登りました(双子山に)

 夏休み最後の思い出に富士山に登ってきました(でも双子山でした)


 ベトナム戦争末期のアメリカ兵さながらに男達は叫んだ

 俺達が命をかけたのは、こんな山の為じゃねぇ!!




 霧に包まれた夜の双子山


 天を仰いだ四人の男達の頬は熱く濡れていた・・・。



後日談 そのうち掲載


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