ケータイの値段


携帯電話やPHSの販売価格は、時には0円だったりして、
普通の感覚からは信じられないような値段です。
でも、現在ではそのような「信じられない値段」が普通になっています。
なぜ、携帯やPHSはあのような価格で売っているのでしょうか?

0円携帯の秘密


普通に考えて、あんな機械製品(携帯・PHSのことです)が0円で買えるわけありません。でも、実際には0円で売っていますし、販売店もそれで利益を得ています。どうしてこんなことが実現可能なのでしょうか。

電話機は、もちろん作るのに何万もの費用(製造原価)がかかっています。当たり前ですが、0円で製造できているわけではありません。例えば、J-PHONEのJ-SH51という機種ですと本来の定価は6万円もします。家電のように3割に引きくらいで売られるとしても4万円ちょっとはするはずです。それが1万円台で売ってたりするのは、通信事業者(この例で言えばJ-PHONE)が「販売奨励金」(名称はいろいろ)を販売店に払っているからです。

簡単に言うと、通信事業者はメーカーから買った電話機を、買った価格よりも安く販売店に卸売りしているわけです。そして、例えば1万円で仕入れた携帯電話に2万円の販売奨励金を出せば、マイナス1万円となりますので、販売店としては0円で売っても儲かることになるわけです。

 

流通の仕組み


上記の仕組みをもう少し詳しく理解するには、まず携帯やPHSの基本的な流通の仕組みを理解する必要があります。

図のように、メーカーは通信事業者に端末を納入します。この際の代金は、その端末の通常の代金ですから、1台あたり数万程度(個体差がかなりあるかと思いますが)がメーカーに支払われます。

このように端末を仕入れた通信事業者は、今度はそれを一次代理店に卸売りします。直接販売店(ドコモショップなど)に卸すこともあり得ますが、ほとんどの販売店は一次代理店を経由することになります(一次代理店だけでなく、二次代理店、三次代理店を経由することも)。この場合の端末の卸売価格も、その端末の通常の代金です。ただ、事業者はそれで儲けているわけではありませんから、先ほどの納入価格より極端に高いことは少ないと思われます。

さて、ここまでは他の電化製品などの流通とあまり変わりません。特殊なのはここからです。

一次代理店は、契約を獲得するごとに一定の販売手数料(ないし販売奨励金など)を通信事業者から受け取ることができます。そこで、そのような手数料をあらかじめ差し引いた上で販売店に端末を卸します。手数料には、以下のようなものがあります。
・新規契約獲得手数料(ただし6ヶ月未満に解約があった場合には取り戻し)
・機種変更受付手数料
・継続手数料(獲得した契約の利用料に応じた手数料)
・販売台数に応じた手数料(何百台もまとめて販売した場合とか)
・特別手数料(在庫処分やモデルチェンジなど)
※手数料の名目や内容は各社様々ありますので、あくまで参考まで

こうして、あらかじめ販売手数料を差し引いた価格で、販売店に卸されるわけです。その際、先述の通り、端末代金よりも手数料の方が大きい場合には卸売り価格がマイナスになることもあって、そのマイナスが大きい場合には0円で販売されることもあることになります。

ただ、こうした手数料ビジネスには、会計上・税制上の様々な問題があります。上記のように一次代理店がすべて手数料を差し引いて出荷してくれると販売店としては簡単ですが、一次代理店としてはそれが不利だったり煩雑だったりリスクを負ったりすることがあります。そこで、手数料を後払いにする場合や、あらかじめ差し引いてなかったりする場合など、様々あります。

 

手数料ビジネス


実は、似たような手数料ビジネスは携帯電話・PHSに限られませんし、むしろ携帯電話・PHSの方が後発です。代表的なものは車でしょう。各地に、トヨタや日産、ホンダなどの販売店がありますが、それらのほとんどは直営ではなく代理店です。そして、1台ごとにいくら、何台獲得すればいくらと言うように手数料が設定されているわけです。

手数料ビジネスは、モノを売る場合以外にもたくさんあります。例えば、クレジットカードやインターネット(特にADSL)は、毎月継続的な収入が見込めます。そこで、そのような収入をいわば前払いする形で、販売代理店に獲得手数料を支払っているのです。そこらじゅうでしきりにADSLやクレジットカードへの加入を勧められるのは、こういった理由によるものです。

と、手数料ビジネスで最も携帯に近いものを忘れていました。NTTです。今ではNTTテレポケットという名称ですが、NTTの代理店は古くから存在します。そこでは、各種のオプションサービスや電話機(固定電話)の購入などに手数料が設定されています。

さて、肝心の通信業界にはどのような手数料(ちなみに、インセンティブとも言います)があるのでしょうか。

まず、量販店や携帯屋さんなど、いわゆる販売店に関係があるのは新規獲得手数料や機種変更手数料などだけです。しかも、前述したように、それらはあらかじめ端末価格と相殺されて出荷されてくることが多いので、販売店自身は「手数料ビジネス」といった感覚は薄いかもしれません。

これがドコモショップやJ-PHONEショップと言った代理店になると、実に様々な手数料が存在します。例えば、料金プランの変更、オプションサービスの申込・廃止、修理の受付、電話教室の開催、相談など受付業務のほとんどに手数料が設定されています。ですから、来店者が多ければ多いほど手数料がもらえると言っても過言ではありません。と言っても、決して儲かるだけでなく、様々なクレームも処理しなければなりません。難癖を付けてくるお客さんを何時間相手しても、それに応じた手数料をもらえるわけではありません(たぶん)。また、迷惑メール問題など本来事業者へのクレームも代理店に寄せられます。こういったものもすべて含めて、ドコモショップなどの代理店は通信事業者のいわば「顔」の部分を担っていると言えるでしょう(事業者の「顔」なのに対応が悪かったりスキルが低かったりする「面汚し」なお店も中にはありますが…)。

 

手数料と販売方法


以上のような手数料ビジネスが、消費者に直接関係してくる場面と言えば、やはり購入時の「価格」でしょう。特に、新規加入の場合には手数料がたくさんありますので、販売店の方も熱心です。具体的には以下のようなものがあります。

●月末に安い
手数料にはたいてい、台数インセンティブが設定されています。ですので、販売側もある程度これを見込んで価格設定しています。ところが、予定よりも販売台数が少ないと、この台数インセンティブがもらえない、あるいは額が少ない、と言うことになってしまいます。そこで、台数インセンティブの計算が締め切られる月末では、突然安く売ってたりすることもあるわけです。もっとも、月末に安く売ったりするのは主に量販店です。個々の販売店ではそこまで台数インセンティブに頼っていないでしょうし、ドコモショップやJ-PHONEショップのようなところでは、あまり見かけません。また、量販店でもその月の目標をクリアしているような場合には、無理に値下げしてまで販売しません。

●特価品
「台数限定○○○がなんと0円!」みたいな感じで、台数限定で特価品がある場合があります。あれは、そのお店が頑張って値下げしている場合と、事業者から特別な手数料が出ている場合の2種類が考えられます。モデルチェンジの場合に旧機種が安くなるのも同じような理由です。新機種が出てしまうと旧機種は売れなくなってしまうので、なんとか安くして売りさばこうとしているわけです。ただ、実際には新機種もさることながら、この値下げされた旧機種が人気みたいですが…。

●月末より月初?
販売価格が値下がりするのはいつでしょうか?消費者としては非常に気になるものです。これは、一律には決まっていない、というのが正解だと思います。事業者によって、ある特定の日に値下げを行ったり、毎月1日に価格の改定を行っていたりします。もちろん、これらの情報はそんなに前から出回るわけではありません(出回ったらみんな買い控えしてしまいます)。いろいろな状況によって値下げは予測できたりするので、普段から観察してみると面白いかもしれません。

このような感じで、販売価格には手数料が深く関係しています。「特価」と言ってお店が値引きしているように見えても、それは事業者が特別に手数料を出していることもありますし、また、月末に強引に販売を勧められるのも手数料が関係していると言えます。

 

手数料と即解約


即解約とは、新規で契約後にすぐに解約してしまうことを言います。その目的としては、解約した機種を自分で使う(機種変更する)ことや、売り払ってしまう、ということがあるようです。

さて、この即解約についてはいろんな意見があるとは思いますが、それと関係しているのが手数料の問題です。前述したように、事業者から出る新規獲得手数料は、6ヶ月程度の継続利用が前提とされています。ですから、たとえ新規の契約を獲得しても、即解約をされてしまうと数万の手数料が支払われない、または取り戻しになってしまうことがあるわけです。

この、即解約時に生じる「ペナルティ」を誰が負担するのかは、一律に決まっているわけではありません。例えば、中小の小売店ではお店が負担することが多いようです。ですから、これらのお店では「○ヶ月使ってください」と言ったようなお願いをしていることもあるようです。また、一次代理店が負担しているところもあるようで、この場合には、販売店はことさらに即解約を気にしません。量販店はこの場合が多いようです。

誰が負担するかはさておき、即解約をするとお店側の誰かが数万円(かなり幅があり、いくらとは言えませんが…)の負担をすることになります。そういうわけで、お店側は基本的に即解約を嫌がるわけです。

 

結局ケータイの値段は…


もともとの原価、基本的な販売手数料、需要と供給、事業者の意図など、様々な観点から決まっています。その中でも特に重要な役割を果たしているのが手数料で、これが日本において携帯・PHSが爆発的に普及した要因とも言えるかと思います。

もっとも、今後も同様の戦術を続けるのかに関しては分かりません。現に、ドコモやJ-PHONE、auは何度か携帯の価格を「適正」な価格にしようと試みていますが、それらは市場に拒絶され、結局は値下げする羽目になっています。

結局、消費者が「携帯買うなら○○円くらい」という感覚と、実際に携帯を製造するのに要するコストとの格差がすさまじく、ある意味デフレスパイラルに陥っているとも考えられます。そう考えると、消費者が商品の価値を正しく判断できていないように思われますが、このような状態を引き起こしたのは事業者です。安易な契約者獲得競争を続けた結果、「0円で買えるもの」という感覚を消費者に植え付けてしまったわけです。

今後、どの事業者も純増率・APRUともに低下が予測されます。そのような中で、手数料は経営に重くのしかかってくることになるかもしれません。あまりに新規と機種変更に価格差があると、即解約の増加も考えられます。手数料関係は事業者の生命線とも言えるだけに、どのように対処するのかが注目されるかと思います。(しばらくは何も対処しない、と予測しますが。)

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