「割勘」(徳島市JR徳島駅前)
JR徳島駅前の阿波観光ホテル横の地下に1件の居酒屋がある。店先には酔っぱらいのサラリーマンを描いた漫画調の看板があり、入り口に一歩踏み入れると「イラッシャイマセ」の電子音に迎えられる。おそらく、初めてここを訪れたグルメな方々はここできびすを返して帰るだろう。とても美味そうなものが、出てくる雰囲気ではないのだ。実際、私は県外の大切なお客さんが来ると、たいがいこの店へ連れて行くが、「最初はなんてとこへ連れて行かれるのだろうと思った。」と何人もの客人に言われた。しかし、一度行ったが最後、皆、この店のファンになってしまう。
もし、「居酒屋の基本」というものがあるとすれば、「美味い」「安い」「楽しい」の3つが揃った店だと思うのだが、「割勘」が正にそうであろう。
コの字形に区切られたカウンターに腰をかけて辺りを見渡せば、JR駅前という地の利も手伝ってか、客のほとんどが仕事帰りのサラリーマン達である。皆、ネクタイを緩め、思い思いのスタイルでアフター5を楽しんでいる。メニューは日替わりで多彩だ。まずは大皿の料理から肴を2〜3皿選んでもらうことをお薦めする。いつも満席状態のこの店でいきなり焼き物、揚げ物をたのむと料理が出てくるのに時間がかかるということもあるが、それ以上にこの店は煮物出汁が美味しく、これをたのまない手はない。「ヤツシロ貝」「飯蛸」に粉山椒を振って貰うも良し、さっぱりと焼魚を使った「南蛮漬け」も捨てがたい。 そして、いよいよ黒板に書かれた日替わりメニューに目を移す。「抜群 鰹のタタキ」「地物 ハモの湯引き」「入手困難 鯨の刺身」等ストレートな表現が心地よい。この店は肴が¥300〜と安いものが多い。はっきり言って素材に関してはもっと良いものがあると思う。しかし、どれもこれも酒呑みの心を知り尽くした品ばかりである。そしてそれが随時変わってゆく。もし、許されるなら毎日でも通いたい店だ。
もうひとつ、この店で忘れてはならないのは、日本酒の品揃えである。冷蔵庫に並んだ全国の地酒は徳島ではここでしか飲めないものも多く、それぞれ冷酒で頂けるが、懐が寂しければ、富山の地酒「立山」を樽から一合升に注いで貰ってもいい。焼酎も本格的なものが数種類揃っているし、燗酒に「金陵」を貰うも良し、チューハイで喉を潤すのも良いだろう。それぞれが思い思いに楽しめる。それが、居酒屋の醍醐味なのだから…。
以前、県外からお客さんが来たときに、勘定を持つと言い出したお客さんと押し問答していると、この店の大将が口を挟んでこう言った。「勘定は店の名の通り、割り勘!」やはり、この店は「居酒屋の基本」である。