「谷川」(高松市)

 8月も終わりに近づいたある週末、四国の玄関、高松市とは思えない田舎道沿いの、これまたうどん屋とはとても思えない田舎の農家のような製麺所にたどり着いたのは、昼時もとっくに過ぎた午後4時前のことだった。案の定、私達の他に客はおらず、「ひょっとして今日はもう終わったのかなぁ?」と思わせる雰囲気だった。

 どう見ても農家の納屋の店内では、若奥さんらしき人が小梅の梅干しを漬けている。同じ机で子供が夏休みの宿題を片づけていた。恐る々る声をかけると「もう少ししかありませんけど・・・。」とおもむろに蒸籠からうどんを取り出し、丼に入れてくれる。大鍋から茄子や玉葱の入った出汁をすくって入れていると、「どうぞ。」とテーブルの横の扇風機をつけてくれた。若奥さんは再び梅干しを漬けに戻ったので、誰もいない店内で心地よい扇風機の風に当たりながら、やや平打ちの麺をすすり込む・・・。

 耳を澄ませると宿題ができていない子供を叱っているお父さんの声が聞こえた。お婆さんもまじっていつの間にか家族が全員揃っていた。微かに笑い声も聞こえてくる。一気に少年時代にタイムスリップしたかのような心地よい雰囲気・・・。自分が小学生の頃に戻って叱られているような錯覚に陥りながらもうどんを食べようとすると、不意に丼から出汁に煮込まれた大振りの茄子が現れた。そういえば、好き嫌いの多かった子供の頃この煮込んだ茄子が大嫌いだったことを、ふと、思い出した。