「東宝小館」(香港北角渣華道街市2F熟食中心)

 香港旅行4日目、美味しいものを食べるにはどうすれば良いか、ちょっと解ってきた。地元の人達で賑わう店に行くべきだということである。高級店で高い勘定を払えば美味しいものが食べられるわけではない。本物は土地の人が一番良く知っているのだ。一部のガイドブックには、現地の人が薦める店は日本人の口に合わない場合があるとか書かれているが、日本人向けの中華料理が食べたいのなら、日本で店を探すことをお薦めする。わざわざ、香港まで行くことはない。

 そういったわけで、私達が最後の晩餐に選んだのがこの店だった。旅行前に調べた店の中で最も賑やかで、熱気に溢れた店がここだったのだ。

 地下鉄の北角駅A1出口を出ると、すぐ目の前に街市がある。街市というのは地元の人を相手にした市場のことで、肉や野菜などの食材を扱っている。その2階に食堂街、熟食中心はある。屋台に毛の生えたような店が、数件軒を並べるその中でひときわ賑やかな店、それこそ「東宝小館」である。

 この店は別名を「トン・ポー・シーフード・レストラン」といい、その名の通り海鮮中華料理を看板メニューとした店である。水槽やスチロールケースに生きた魚や海老、蟹といった新鮮そのものの食材が並び、どれもこれも旨そうである。私達が食べたのは、まず「蟹味噌と卵白の茶碗蒸し」「蟹の大蒜チリ炒め」の二品。これはノコギリガザミというワタリガニを大きくしたような蟹(徳島ではドテホリ、高知ではエガニ、沖縄ではマングローブガニと呼ばれている。)の蟹味噌を茶碗蒸しに、身は姿が見えなくなる程のみじん切りの大蒜と唐辛子で炒めただけの料理だが、これがもの凄く旨い。蒸された蟹味噌はまるでチーズのように濃厚な旨味を持っていて、淡泊な茶碗蒸しの上にたっぷり載っている。殻ごとぶつ切りにされた蟹肉は、強火でガッと炒められただけ、なんのケレン味もなく、ただ真っ直ぐに美味しさだけを追求した味だ。

 そして、もう一品「風沙鶏」を食べたのだが、これがまたもの凄く旨い。「風沙鶏」というのは要するに鶏の唐揚げ(衣がないので素揚げ?)のことだが、たかが唐揚げと言って馬鹿にしてはいけない。もし、この店に行く人がいれば、これは必ず食べるべきだ。間違いなく感動すること請け合いである。少なくとも私がこれまで食べたことのある鳥料理の中では最高の味。皮は香ばしくキツネ色にパリッ!と揚がり、一口噛むと柔らかい身から肉汁がジュッ!と溢れ出す。鳥1羽丸ごとを低温の油でじっくりと素揚げにしているようだが、この皮の張り、火の通りの見事さは何か特別なテクニックがあると見た。

 「風沙鶏」の味に堪らず、ビールを注文する。待つこと暫し、プラスチックのワインクーラー(バケツか?)に入った瓶ビールと端の欠けた茶碗が運ばれた。茶碗でビールを呑む(ちなみにお茶はコップで出てきた。)そのシチュエーションがこの店では心地良い。周りを見渡すと、ビールやワインを囲んで地元の人たちがワイワイとやっている。ちょうど、日本の居酒屋のあの雰囲気である。時間はそろそろPM10:00になろうとするのに、店内は、ほぼ満席だ。

 この店には他にも「烏賊のスミ炒め」「中国セロリと豚の食道のXO醤炒め」「酔っぱらいエビ」といった垂涎のメニューが沢山あるのだが、料理を食べ残すのは失礼と思い、これ以上の注文は控えることにした。「風沙鶏」を注文したときも、ウエーターが我々が2人であることに気を使ってハーフサイズを薦めてくれたこともあり、これ以上は食べられないと判断したのだ。

 香港には、石を投げると料理人に当たると言われるぐらい大小数多くの料理店がひしめき合い、高級店も沢山ある。私は高級店には殆ど行ってないので何とも言えないが、もし、現地の人が普段食べている料理の中で、最高のものを安く、しかも快適に食べたいのなら、この店は絶対のお薦めだ。私の知る限り香港NO.1レストランである。