貧乏性の日本人プールサイドにたたずむ
ビューフォート2日目の午後にのんびりする目的を果たすべく私たちはプールサイドで昼寝をすることにした。しかしプールサイドにはシャワーやタオルレンタルの設備はあるのだが、着替える場所がどこにもない。水着のままで部屋から出ていくことも考えたが、そんな人を見たことがないし部屋からプールまで遠いのでこれは恥ずかしい。結局仕方なく水着の上に服を着て行き、濡れた水着の上に服を着て帰ることにした。
タオルを貸してもらって椅子にかけて水着になって寝転がる。しばらくそうしていたの
だがなんだか落ち着かない。欧米人の客たちは雑誌など読みながらゆったりとしているのに、貧乏性なのか私たちはどうもこんな所まで来ていながらじっとしていられない。のんびり目的は早くも断念。そうしてプールに入ったのだがなぜか底に足がつかない。あわてて飛び出て浅い部分を探した。このプールの作りは長方形で長い辺の一方が一番浅くてもう一方に滝があって一番深くなっていた。浅い部分は小さい子供が座れるくらいだが、途中で急に深くなって一番深いところは2.5mあった。私は初めこの辺りに入ってしまったらしい。足がつかないのも当然である。
しばらく水の中で遊んでいると、だんだん空模様が怪しくなってきて雨が降り出した。スコールかと思いしばらく軒の下で雨宿りをしていたが、一向にやむ気配がなく従業員がパラソルなどしまい始めてしまったのであきらめて部屋に戻った。
外は大雨なので外出する気にもならず絵はがきを書いたり雑誌を読んだりしていたが、水遊びをすると疲れてしまったようで、気づくと同室の友達共々昼間から寝てしまっていた。この時が一番「のんびり」できたようだ。
雨は次の日まで続き夜には雷まで鳴っていた。南国の雷はとても派手で大地を揺るがすほどの大きな音だった。
シンガポールをペルーにしてしまう
ビューフォート泊の最終日はそこのレストランで夕食をとった。ツアー料金の中にここのバーベキューレストランのチケットが含まれていたのだ。料理はバイキング形式でお菓子やフルーツなどのデザートが充実していて女性にはうれしかった。その中で私はフィッシュヘッドカレーを見つけてしまった。私は辛いものが苦手なのだがカレーは大好きなのだ。ましてやこれはシンガポール料理。食べてみないわけにはいかない。もしたくさん取って食べられないと困るので試しに少しだけ取ってみた。が、やっぱり辛くておかわりはできなかった。
食事をしているとギターを持った南米系の男の人が4人レストランに入ってきた。何だ何だと思っているとカップルの席に彼らは陣取り、突然ラブソングを歌い始めた。そしてぼーぜんとしているそのカップルを尻目に、一曲歌い終わると次のカップルの席に移っていった。
「そうか、カップルの席を回って生演奏しているんだな。」
と私達は理解した。そのうち彼らの歌をBGMにしながら食事と会話に没頭していると誰かが私の背中をつついた。振り向くと彼らが私の目の前にいて、
「エイゴ?スペインゴ?」
とカタコトの日本語で言ってきた。カップルにしか回ってないんじゃないの?と焦りつつ、思わず
「スペイン語」
と答えてしまうとスペイン語の歌が始まった。私以外の友達3人も全然自分たちの所に来るとは予期していなかったのでしばらく呆然としていたが、最初に我に返ったMさんがカメラを構えて彼らの写真を撮りはじめた。他の2人も
「私も一緒に入れてー」
と言い出しそこで撮影大会になってしまった。私は
「これはチップを渡さないといけないのでは?」
と焦り始めた。私達は誰もこの場に財布を持ってきていないのである。どうしようと悩んでいるうちに歌が終わり、彼らが
「リクエストはないか?」
と聞いてきた。私が3人を見回すと3人ともぷるぷると首を振り、
「あんたが何でも言いなさい」
と言う。何か気の利いた曲でも思いつけばいいのだが、急には思い出せない。でもにこにこと私を見つめている彼らに
「ない」
というのも何か悪い。必死でない頭を回転させると唯一私が知っているスペイン語タイトルの歌を思い出したので、一か八か言ってみた。
「エルコンドルパーサ!」
「オー!ノープロブレム!」
おお通じたぞ!そして彼らは歌ってくれた。それは私のとても好きな歌『コンドルは飛んでゆく』だ。こんなアジアの小さな島で南米の歌を歌ってもらうのは変だけど、フォルクローレっぽい演奏と歌が聴けてすごくうれしかった。しかし浮かれてばかりもいられない、チップの問題がある。2曲もやってもらったので渡さないわけにはいかないだろう。顔は笑いつつも背中に冷や汗を流しながら私はもう覚悟を決めた。彼らに待っていてもらってこの後すぐに走って部屋に財布を取りに行こうと。歌が終わり周りは拍手喝采。
「待ってて」
と言おうとすると彼らは
「ありがとう」
とだけ言ってそのまま次の席に行ってしまった。あれ?チップ要らなかったの?