大自然満喫の旅へ
前日の夕方からずっと寝ていたので朝5時頃目が覚めた。起きあがることもできたのでKちゃんを起こさないように静かにバスルームに行き、なるべく音を立てないようにお風呂に入った。体は大丈夫なのか不安だったが、一晩寝るとさっぱりしていた。今日の予定も変更しなくて済みそうだ。
しばらくしてKちゃんも起きたので朝ご飯を食べ、身支度を整えた。今日は氷河を見に行く。私達はこの日のためにどんなに寒くても大丈夫なコートを新調していた。Kちゃんは赤、私は蛍光オレンジ。別に一緒に買いに行ったわけではないのだがお互い派手な色を選んだものだ。しかしこれだけ目立つ2人組ならもしバスツアー中迷子になっても同行者にすぐ気づいてもらえるに違いない。
外に出るとホテルの前にすでにバスが来ていた。名前を告げて乗り込むとまもなく出発。人数が少ないなと思っていたら他の何件かのホテルでも人を拾っていき結局ほぼ満員の状態になった。しばらく針葉樹林の山と川と道しかないところを走り、小さなドライブインに入った。いくつかある店を見回すと切手を売っている所があったので入ってみた。中にいた人に
「日本まで絵はがきを送りたいので切手が欲しい」
と伝え、待っていると店の一番奥のドアが開き男の人が入ってきた。その人は私を見るといきなり
「オハヨウゴザイマース!」
と叫んだ。私も驚いて思わず
「おはようございます」
とお辞儀までしてしまった。
トイレ休憩も終わり、またバスが走り出す。運転手さんがガイドも兼任していて小さなマイクを使って
「あの山は云々、この川は云々…」
といろいろ説明してくれるのだが英語の早口なので私達には全然わからない。ついでにギャグも飛ばしているようで他の乗客は大笑いなのだが私達には何がおかしいのかさえわからない。
山や川の説明を理解できないだけならまだ良かった。お昼ご飯のために寄ったドライブインでのこと。休憩時間が終わり皆バスに乗り込んできたがどうも客がひとりいないような気がする。しかし運転手さんは客の人数を確認することもなくそのまま出発してしまった。他の乗客も気づいているようでみんな
「なんか変だな」
と思っているようなのだが誰も口には出さないままだった。山の中で置いてけぼりになったその人はどうなってしまったのだろう?
人数確認せず時間が来たら出発するということがわかってから、私達はバスの外へ出ても怖くて運転手さんが見える範囲より遠くへは行けなかった。この日は本当に英会話を勉強しておけば良かったとつくづく思い知らされた。
「あ、エルクだ」
と運転手さんが突然バスを停めた。道端に野生の大きな山羊の親子が歩いている。何か動物が見えるとそうやってバスを停め、しばらく観察させてくれた。そしてたまに渋滞に巻き込まれることもある。交通量が多いわけでもないのにどうして?と渋滞の先頭を見ると動物が道の真ん中を悠々と歩いていて追い越すに追い越せない状態になっている。日本では見ることのない光景がとても楽しい。
朝バンフの町を出てしばらく走ると道ばたに雪が積もりだした。そして道の横に見える川や湖がだんだん凍ってきた。そして鬱蒼と茂っていた針葉樹がだんだん減り、とうとう木もなくなってしまった。バスが道をはずれ、枯れ草が所々に見えるだけの岩がごろごろしている荒れ地のような所に入っていき停まった。遠くの山の谷間に真っ白な雪の大地が
見える。それがコロンビア大氷原だった。
夏場ならば氷原の上にバスで乗り込み直に歩いたりもできるそうだが、まだその時期ではないらしく氷原の手前までしか行くことができなかった。バスを降りて氷原に向かって歩き始めたものの、気温の低さと風の強さで歩くのがつらくなり、耳まで痛くなってきた。私は途中で挫折したが、Kちゃんは手前までたどり着き、ついでにその辺りを走り回っていた。基礎体力のある人はうらやましい。
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コロンビア大氷原を見た後はもう帰って行くだけだ。途中、シャトーレイクルイーズホテルで休憩になった。バンフスプリングスとどちらに泊まるか悩んだ、あこがれのホテルなので少しだけ探検させていただく。バンフスプリングスより建物は小さいのだが、横に
レイクルイーズという湖があって、とてもきれいなところだった。このときはまだ湖が凍っていたのだが、夏に来ると湖で遊んだりもできてもっといいかもしれないなと思った。
今日の夕食はアルバータ牛のステーキを食べると旅行前から決めていた。バンフにセットでお得に食べられるという店があったのだ。
「ステーキセットをください」
「サラダはどれがいいですか?」
「ポテトサラダをください」
「前菜は?」
悩んだ末、私はエスカルゴ、Kちゃんはオニオンリングのフライを頼んだ。
しばらくすると前菜がやってきた。エスカルゴは6つ。バターとニンニクが利いててとてもおいしい。オニオンリングは小皿に山盛りだったので少し分けてもらい、エスカルゴも分けてあげた。次はサラダ。カナダなのにアメリカ並の大皿に山盛り。ポテトなどというおなかにくるものを頼むんじゃなかったと後悔しつつもおいしいのでどんどん食べていく。サラダを食べている途中に最後のステーキがやってきた。
「……」
大皿からはみ出している。
もしかしてこれは一人前を半分こすれば良かったのでは?
結局6個入りのエスカルゴ以外は食べ切ることはできなかった。