初カナダ上陸

 次の日は他の日本人観光客と一緒にナイアガラの滝観光だ。ホテルのロビーに迎えが来るので待っていたら白人のおじさんがやってきた。きっと迎えは日本人と思いこんでいた私、この人は関係ないと思っていたら突然名前を呼ばれて驚いた。

 しかしこの人はどう見ても日本語はしゃべれないようだった。日本語が話せるガイドさんが案内してくれるんじゃないの?と彼に聞きたいのだが英語でなんて言えばいいのかわからない。おろおろするうちにバスに乗せられ、ニューアーク空港に連れて行かれ、搭乗券を渡され、

「Have a nice trip!」

と送り出されてしまった。

「こら待てー!ガイドはどこだー!」

どうなることやら心配したが、バッファロー空港に着くと女性の日本人ガイドさんが待ってくれていたので一安心。

 ここからはバスに乗る。バスにはイタリア人とドイツ人団体の先客がいた。なんと日本人ガイドさんはひとりで3カ国語をあやつりガイドをしていた。異国のキャリアウーマン!という感じで見ていてとてもかっこよかった。

 「右手の方を見てください」

とガイドさんが言う。かわいい家が並ぶそのずーっと向こうに水煙がもうもうとしている。

「あそこがナイアガラの滝です」

その辺りにある家よりも何よりも高く見える水煙。どれだけの水量が流れ落ちているのか早く見てみたいと思ったが、そこにたどり着くまではまだかなりの時間を要した。

 ナイアガラの滝近くの大きな橋をバスで渡るとカナダに入る。滝のあるこの川がアメリカとカナダの境だ。そのため入国審査をしなければならず、すぐそばに滝があって水音まで聞こえるというのになかなか近づくことができない。いらいらしながら審査の順番を待ちようやく滝にたどり着いた。

 まず渡された青い雨合羽を着て「霧の乙女号」という観光船に乗る。これは本当なら5月以降でないと乗れないはずだったので諦めていたのだが、その年は氷の溶けるのが早くてその日から運行が始まったとのこと。私達はとてもラッキーだった。ガイドブックに

「この船に乗るときは靴を脱ぐように」

と書いてあったのでちょっとみっともないかなと思いつつも裸足になって乗り込み船の一番前に陣取った。

 ナイアガラの滝は2つあって小さいアメリカ滝とTVなどでよく見るカナダ滝に分かれている。私達の船はまずアメリカ滝に近づいてからカナダ滝の方へ向かった。初めはみんなのんきにカメラなど構えて滝をバックに笑っていたが、カナダ滝の方のメインイベント(?)水の落ちている間際まで船が近づくと、大雨どころでない水しぶきにばしばし叩かれ目を開けてなどいられない。周りは阿鼻叫喚。合羽の中に隠していたカメラを取り出し写真を撮ってはみたが真っ白にしか写っていなかった。

 そんなに長い時間の船旅ではなかったがそうそう経験できることではないのでとても面白かった。船を降りて合羽を脱ぐと前髪はびっしょり、足もジーンズの裾を膝まで上げていたが濡れていた。私達は靴を脱いでいたので足さえ拭けば何とかなったが、靴をがぽがぽいわせている人もいた。この船に乗るときは靴を脱ぐこと。簡単に裸足になれるように、ストッキングなんか履いて来たりしてはいけません。

 カナダ滝の水が落ちる寸前の所はすぐそばで見ることができるのでその後に行ってみた。柵のすぐ向こうで大量に水が流れ落ちていて、じーっと見ていると吸い込まれそうになる。水と共に流されて行くと気持ち良さそうー。が、すぐにこんな所に飛び込むと命はないなと考え直した。実際何人かが本当に飛び込んだことがあるらしいがほとんどの人は帰ってこなかったらしい。そういえばさっきから霧雨が降っているなと思ったらこれは滝壺に落ちた水のしぶき。あのバスの中で見た水煙が降ってきているのだった。その後またアメリカ流大盛り昼食を取り、おみやげを物色してニューヨークに帰った。