幻の坦々麺
「鑚石山(ダイヤモンドヒル)のバラック街には今まで食べてきた四川料理は何だったんだー !と思ってしまうほどおいしくて安い坦々麺の店がある」ということは前々から知っていた。 でも私は辛いものが苦手。どんなにおいしい坦々麺だろうと、これでは味がどうのと言う以前に 辛くて食べられない。しかし行く人行く人がおいしいと絶賛するので一度は行っておかなければ ならない。いつの日かこの店で坦々麺を食べることを目標にして私は辛いものが食べられるように 訓練をはじめた。
それから数年、少しは慣れてきたようだがまだジャワカレーの甘口が精一杯、 まだまだだなーと思っていたところに悲しい知らせが入ってきた。「あと何ヶ月かでこの店は移転、 きれいなショッピングセンターに入ってしまうので、あの坦々麺が味わえるのは今のうちだろう」 きれいなショッピングセンターに入ってしまったら、高い入店料を払わなければならず、 値段が高くなってしまうか、材料費をケチって味が落ちるかのどっちかだ。 これはどうしても店が移転しないうちに行っておかなければならない。私の舌はそっちのけで POCHIと私は地下鉄鑚石山駅に降り立った。
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バラック街は細い道が入り組んでいて必ず迷うと聞いていたので時間に余裕を持たせて 来たが、バラック街解体が理由のための移転で、その解体もだいぶ進んでいるようで 迷うこともなく開店時間前に着いてしまった。店の中を覗くとお姉さんが奥のテーブルに 案内してくれた。「もう注文も聞いてもらえるのかな?」と思ったが、他のメニューはともかく 坦々麺は12時からでないとできないと言われてしまったので、予約だけしてもらって時間まで 外をうろついていようということに。また来る旨を告げるとお姉さんは予約カード (というか番号入りの紙切れ)を渡してくれて、お姉さんの方の控えには「日本人」と 書かれてしまった。
しばらくバラック街の向かいにある、ショッピングセンターを冷やかしてから再びお店に 戻るとすごい行列ができていた。ただでさえ人気店なのだがこの移転騒ぎで客が増えているらしい。 でも予約をしていたので席があくとすぐ座らせてもらえた。
注文はもちろん坦々麺、その他に雲白肉と麻婆豆腐も頼んだ。ただし、雲白肉と麻婆豆腐は 辛いのを頼んだからと坦々麺はあまり辛くないのを頼んだ。しばし待つと程なく雲白肉が 運ばれてきた。辛いのは平気なPOCHIがまず一口…「げほっ!」と咳き込んでしまった。 口に入れた状態で息を吸うと咳き込むくらい辛いらしい。 「ああ、やっぱり私にはまだまだの世界だったんだ〜」と後悔したが、おいしいらしいので 勇気を出してタレで辛子の部分を洗い落としながら(しかしそのタレもめっちゃラー油が 入っている)パクッと食べてみた。やっぱり油断して咳き込む。今まで食べてきた辛い物の中で 一番辛い、でも辛い中にもうまみがある。おいしいぞ〜!!麻婆豆腐も雲白肉よりはマシだけど 結構辛い。でもこれもおいしい。「うまいうまい」とがっついていると坦々麺がやって来た。 さて念願の坦々麺だ。がしかし、今までの2品が辛かったので舌がバカになってしまったのか 全然辛くなく、単なるゴマ味の麺になってしまった。辛辛ばかりではいけないと思って 辛くないのを頼んだのが大失敗。ちょっとショックだったが雲白肉がめっけもんだったから 良しということで我慢した。
落ち着いてから周りを見ると、みんな坦々麺を頼んでいる。それにネギ入りのお焼きのような 物を食べている人が多い。「ああ、あれもおいしそうだ」と思ったが満腹になったし、店の外には 行列がずっと待っているのでその人達に席を譲った。お勘定は3品で100ドルちょっと。 安くてうまいのはウソではない。また新しい店になったら今度こそは辛い坦々麺を食べに 行こうと思う。できることなら店が新しくなってもこの味と値段が変わらないでほしいと 願わずにはいられない。
ところで私の舌はというと、この日以来辛いものがかなり平気になり、時々無性に辛いものが 食べたくなるようになってしまった。自分で作る食事も辛味をプラスするという、今までに なかったことまでするようになった。ずっと辛いものは辛いだけと思っていたが、このお店の おかげで辛い中にもおいしいというのがわかるようになった。このお店にはとても感謝しなければ ならない。
いずれはこのバラック街も、バックにそびえ立って
いるようなマンション群になってしまうそうです