第六話


翌日、オレはバイトが終わるといつも通りミツの家に向かった
ミツの家に近付くにつれて音楽が聞こえてくる
みんな外でスケートボードをやってるみたい
って、事はタロー来てるな?
タローはストリート系で、よくサクと2人でhiphopかけながらボードやらインライン
スケートやってた
「yo brother!」
てな感じのヤツラ

家の前に行くと案の定タローが「yo brother!」と言いながら抱き着いてくる
「よう ブラザー」
オレも戸惑いながら返事
「おぉ クボ待ってたぞ」
コウイチが寄ってきて経緯を話してくれた


今日、学校でヤスを探したが見つからず
ヤスの同級生に話を聞いたら
最近、学校来てないってさ
で、家庭訪問するって流れらしい
ヤスは、ひとり暮らしのボンボンだった
金には、不自由してない感じ
『オレも金に不自由したくねぇーっ!』
まっ そんなコトは、おいといて
「それで、なんでタローがいるんだ?」
オレの素朴な疑問
「ヤスが心配でさ・・・」
「ウソつけぇ ヤスを一番嫌ってたのオマエじゃねぇか」
タローの言葉にキイは鋭くツッコむ
「なぁーんて 偶然だよ いいだろ?一緒に行っても」


オレ達は、ヤスの家がある大空の隣街『空港南町』に向かった
隣街って、言っても徒歩で行ける距離
それと空港って付いてるけど空港は無いよ
昔、空港があった時の名残りらしい
オレ達が生まれた時には、すでに無かったけどね


今の空港南町は、同じ型の建て売り住宅が乱立を始めた発展途上のニュータウン!
それに比べたら大空は・・・
まあ いいや
大空町の話は別の機会に話すよ


そんなニュータウンの端にヤスの家はあった
周囲の家と比べると、ひとまわり大きい
真っ白な壁にパステルレッドの屋根
シルバニアファミリーの家みたいだ
デカい庭には、デカいハスキーが2頭のさばってる
すべてが、ビッグサイズ
うさぎ小屋ライクなオレ達にゃ無用の長物だな
問題は、そんなコトじゃない!
このバカデカい家に住んでいるのがヤスと使用人のおばあちゃんの2人だけってコトだ


さっきも話したけど、ヤスん家は金持ちで、親が仕事の関係で引っ越し
ヤスは高校卒業まで、その家に残るコトになったらしい
でも、使用人付きて!

その話を初めて聞いたオレ達は
『オマエがスゴイんじゃないぞ! オマエの親がスゴイんだからな!』
って、怒鳴ったのを今でも鮮明に記憶してる
貧乏人の小倅根性丸出し



チャイムを鳴らすとインターフォン越しに、使用人のおばあちゃんの声が聞こえてきた
話を聞くと家には居るが、部屋から出てこないらしい


オレ達は、お邪魔するコトにした
鍵が開いたのを確認しノブをまわす
おばあちゃんに軽く挨拶をし、部屋のある2階に駆け上がった


ここで、ふとイヤなイメージ


だが次の瞬間、みんなは部屋に上がり込んでいた
ヤスは、ベッドで寝息をたてている
「寝坊だぞ このやろーっ!」
コウイチは、寝ているヤスにジャンピングエルボーをする
「ううん・・・」
唸るような声を上げて、ヤスは目を覚ました
壁側を向いて寝ていた体をオレ達側に向け
「おはよぉ〜ござぁいまぁ〜す」
と、間の抜けた挨拶をする
ヤスの顔は、しばらく見ない内に頬が痩け、頬骨が浮き出し顔色が悪くなっていた
「大丈・・・」
オレが声をかけようとすると、机をあさっていたタローが遮るように声をあげた
「オマエ、いまだにビックリマンのペンケース使ってるのか?」
タローの手には、剥げかけのヤマト王子がプリントされた錆びたペンケースが握られていた
タローは、ペンケースを開けようとする
「!」
ヤスは、それを見るとタローから取り返そうと飛びかかる
だがタローの方が一瞬、速かった
中から注射器と白い粉末が入った小さな袋が出てきた
「オマエ・・・」
部屋の空気が重く沈む


オレ達は、ヤスをきつく叱責した
ヤスは俯いたまま動かないし、返事もしない
これ以上、怒ったって本人が反省しない限り、やめるコトはないだろう
オレ達は、取り合えず注射器と覚醒剤と思われる粉末を没収して帰るコトにした
勿論、ふたつとも帰りに焼却処分したよ



ヤスが逮捕されるまで、そんなに時間は掛からなかった
ある朝、バイトに行く準備中
朝食のパンを食いながら、カルアミルクを飲んでいた時だ
朝からカルアミルク
接客業
しかも、服屋の店員
オレの人格が疑われそうだが、そんないつもと変わらない朝だった


新聞を広げると下の方に小さく覚醒剤事件を報じる記事を見つけた
書いてあるコトを要約すると
『自生の大麻を乾燥させて地元のバンドのライヴ会場で捌いて、その売り上げ金で覚
醒剤を買い常用していた』ってコト
容疑者の名前は、未成年なので載ってはいない
記事が小さいのは、この街では大した驚くべき事件ではないからだ
捕まるヤツは、中学からいる
バレてないだけで、小学生もいるかもな?
そんな、ありふれた記事なのにヤケに気になった
例のイヤなイメージだ


その日のバイトが終わり、ミツの家に向かった
ミツの部屋に入るとコウイチが手招きする
話を聞くと、やはり今朝の新聞はヤスのコトだった

「バカだな・・・」
ミツは、小さく呟き壁を蹴る
止められなかった自分に怒っているようだ


オレ達は、ヤスの家に行った
なんとなく、使用人のおばあちゃんが気になったからだ


インターフォンを鳴らす
おばあちゃんの声
元気がない
そりゃそうだろ
オレ達は、居間に通された
幾度となく来ていたが、居間は初めてだった
そして、お茶が出たのも初めて
「あ、オ気にナさらずに」
慣れない言葉使い
少し片言

おばあちゃんがぽつりぽつりと話しだした
実は、おばあちゃんヤスの祖母なんだと
使用人てのは、ヤスの嘘自慢だったらしい
そして、息子と嫁
つまりヤスの両親だな
に、責められたコト


確かに家に居た、おばあちゃんに任せてたって言ったって
親は、あんたらだろ!?
話を聞いたオレ達は、親の無責任さに不愉快ゲージ急上昇


おばあちゃんは、おばあちゃんなりに責任を感じてた

知ってたんだ
薬をやって、部屋で暴れるヤスを
話をしながら時折、涙を浮かべていた
でもさ、暴れる16の若者をおばあちゃんひとりじゃ止められないよな
オレ達は、持ってる言葉すべてで、おばあちゃんを元気づけようと奮闘した
17才の言葉なんて、大した言葉じゃないかもしれない
でも、これがオレ達に出来るコトだ
ヤスに薬を止めさせられなかったオレ達に・・・




この話をしたのは、別に『薬止めろ』なんて言うためじゃない
するもしないも本人次第だしね
ただ、リアルな大空
オレ達を取り巻く悪い環境の話をしたかっただけ
どー思うもアナタ次第ってコトで

いい加減かな?
ムカついたら
忘れてくださいな

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