第四話


4日目・夜
オレが、風呂から上がり自室に戻るとケータイから、しょぼいルパンのテーマ曲が流れていた
昔のケータイなんて、みんなこんなもんだろ?
風呂に入る前に脱ぎっぱなしたジーンズのポケットから、ケータイを取り出しディスプレイを見る
[19:33 着信 キイ]
オレは、通話キーを押すと
「いよぉ」
と、いつもの調子で電話に出た
「ミツが刺された!」
「はぁ!?」
ケータイのスピーカーから、いつもよりデカいキイの声が事件を告げ、オレも思わぬ知らせに声をあげる
「今、佐々木クリニックにいる!」
「わかった 今行く
じゃ」
それだけ言うと電話を切り
タオルで濡れた頭を乱暴に拭きながら、ジーンズに足を通す
上半身は、部屋着用におかんが衣料品店の安売りで1枚250円で買ってきた、セサミストリートのプリントされてる、だせぇTシャツ


そんな格好のまま、家から飛び出す
そんな時、ミウの言葉を思い出した
『ミツに気をつけてね
あの人、危ないよ』
『ミツは、危ない人』って、意味じゃ無く
『ミツが、危ない目に遭う』って事だったんだ
ちゃんと聞いときゃ、よかった
今更、後悔

佐々木クリニックは、オレの家から異常に近い
走って5分くらいかな?
医院内に入り、受付に駆け寄ると怪訝な顔をした看護婦のおばちゃん
『医院内を走らないでください』って感じが、ひしひしと伝わってくる
ミツの事を聞くと「あぁ、あのコの友達?」と不快な表情を浮かべた
「奥のオペ室よ」
「(変に横文字使いやがって!)」などと、内心悪態をつき
手術室まで、競歩でダッシュ

手術室の前には、キイがいた
「ミツのおかんは?」
「仕事だと」
「で、何?
どーなってるの?」
オレは、何を聞いていいのかもわからず、漠然とした質問をする
「んーっと、何から話そう…?
じゃあ、囮捜査の後からだな」


キイが説明してくれた事を要約すると
囮捜査のあとキイとミツは、ふたりで帰った
その途中、ミツがトイレへ
キイは、外で一服
トイレからミツの叫び声が聞こえたので、トイレに向かう
出入り口で、すれ違いに男がひとり出てきた
トイレに入るとミツが背中から血を流し倒れていて
さっきすれ違った男を追ったが、姿は無かった

「おもいっきり、そいつ犯人じゃん!
どんなヤツだった?
すれ違いでも顔くらい見てるっしょ?」
話を一通り聞いたオレは、思わず声をあげた
「アイツたぶん、ビリーだわ」
「なんで、ビリーよ!?」
「レイプされたコの名前、言ってなかったよな?
そのコの名前『リリィ』だよ」
「はぁ!? 話、飛び過ぎ! 訳わかんねぇ
なんで、リリィを姦した犯人捕まえようとしてるミツが、リリィの彼氏に刺されんのよ?」
「別れたよ あのふたり
今、ビリーはストーカーしてる」
「『ストーキンビリー』ッスか…」
何となく話が見えてきた気がする


俺が落ち着きだした頃「おーい」と言う声と共に、真顔のサクとツキが全速力競歩で近付いてきた
オレとキイ、爆笑
ヤバいヤバい、笑ってる場合じゃない
駆け付けたふたりに、キイが一連の流れを話す
「はぁ!? ビリーかい!?」
ふたりも同じリアクション
「明日辺り、ビリーに話し聞かんとな…」
取り合えずの話が終わった時、ミツの治療が終わり手術室から先生が出てきたので、ミツの事を聞く
「ミツ、どうですか?」
「背中の肉が5〜6センチ切られた裂傷で、全治1ヶ月だな
背骨のおかげで、内臓に傷は無いし無理しなきゃ1週間程度で、退院できるだろう」
そしてこの日は、その話を聞き解散した

ここらで、『ビリー』について補足しとかないと、みんなわかんないよな?
ビリー、リリィって言っても、おもいっきり日本人
しかも、キイ、ツキ、サクと同じ高校
ふたりは付き合ってて、お互いを『ビリー』『リリィ』って、呼び合ってた
そのバカップルぶりをキイがネタにしていたので、オレも知っていたって訳
補足の余談だが、リリィの本名は『フカダ キョーコ』
深田恭子と同姓同名だけど、まったく似てないんだコレが


5日目
「ビリー、学校にきてるわ」って、キイから連絡がきて
オレとミツは、ビリーに話を聞くために高校の校門前で出待ちをしていた
何故、ミツが居るかって?
抜け出して来たに、決まってるじゃん
殺ル気満々だよ、この兄さん
でもな点滴は、はずしてこい
しかも、点滴ぶら下げるスタンド付き

下校時間で、ゾロゾロと学校から生徒が出てくる
みんなイヤな顔で見る
うーん さすがに赤髪のオレと青髪のミツがふたり並んで居れば
『氷炎将軍 フレイザード』もビックリ仰天マホカンタだろうね

「連れてきたよー」
サクとキイに挟まれてビリーは来た
ツキは、後ろにいる
抵抗する様子は無い
“白”なのか?
「オマエの所為だーっ!」
ビリーはミツが視界に入ると突如、飛びかかろうと身を乗り出す
「ミツ、危ない!」
と、叫びながらミツから離れるオレ
だが、キイが横にいるのに飛びかかろうとするなんて無謀だ
キイは、咄嗟にビリーの腕を絞めあげる
その瞬間、オレを横切る影
ミツだ
認識した時には、ミツは飛んでた
「ミツバズーカ97'!
どーん」
ミツのドロップキックがビリーに決まった


だがそのあと、地面に落ち
「いたゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!!!!」
と、孫悟空並に痛がり叫びながら、のたうち回るミツ
「(さよならミツ…)」
ツキがミツを連れて速攻病院へGO!!

2時間後、オレとキイ、サクは、ミツのいる病院にいた
事件の結果報告のためにね
みんな、ミツのベッドを囲むように座る
「結論から言うと今回の事件、全部アイツだわ」
サクが、あっさり言ってくれる
「レイプ事件も、犯人アイツさぁ」
今度は、キイが呆れた顔で言う
「はぁ!?」
現場にいなくて話を聞けなかったツキとミツは、その事実に喫驚する
そりゃそーだ オレ達もビビったし…
「ビリーさ、リリィにフラれたあとも、しつこく復縁せまったんだけど断られまくり
それで、自分を頼って欲しくて他人の振りしてレイプ」
サクは、相変わらずあっさりと説明してくれる
「んで、なんでオレは刺されたの!?」
「そこら辺も、よーわからん だってストーカーヤローの言ってる事だもん
取り合えずオマエの所為で別れたらしいよ」
ミツの問いに、キイは茶化すように答えた
まあな、確かに始終『ミツの所為で別れた』とか、ホザいてたわな


「ちょっといい?」
ツキが、いつものように手を挙げて質問を始める
「てか、なんでそこまで話してくれたの?」
オレも同じように手を挙げ、答える
「自分は、悪い事してるって思ってないんだよ
だから、話す事に躊躇いがないって感じ
それどころか『オレは被害者だ』みたいな事、言いやがるし…
救いようないからケーサツに引き渡してきた」
「ま、妥当なトコだな
よかったんじゃないか?」
「まーなぁ 一件落着って、感じだろ?
納得いってないのミツだけだし」
いく訳ないか、ガチコン刺されてるしな

オレ達じゃ計り知れない世界に生きてるビリー
『何故、そんな事をしたのか?』聞いても分からないだろうな
ビリーは逮捕されたが、またリリィをストークするかもしれない
下手したら、ミツもまた刺されるかもな?
イヤ、それだけじゃない
オレ達みんな刺されても、おかしく無いって、漠然とした恐怖が残る
『別れたのは、オマエの所為』なんて理由で、関係の無いミツが刺されたんだからね

今度、仲間に何かしたら全力でビリーをボコるだろう
たとえ、ケーサツに捕まるとしてもね


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