第参話


「ミツに気をつけてね」
ミウは、言った
なんだ?唐突に…
「あの人、危ないよ」
「ミツ? アイツはいつも危ないよ」
オレは半笑いで返事をした

以前、カツアゲされた時の話だ
イカツイ兄ちゃんが寄ってきて
「金貸してくれぇ」

品性の欠片も無い顔
その時、ミツは「それが人にモノ頼む時の態度か!?」
キレた
確かに、ムカついたが、そこまで直球ど真ん中とは…
イヤ、変化球かな?
面喰らったイカツイ兄ちゃんは「貸してください…」
意外と素直なイカツイ兄ちゃん
「何に使うの?」
オマエは、おかんか? ミツ
「バイクの鍵なくしちゃったから、バス代を…」
「わかる 俺もバイク乗るから いくら必要?」
「500円なんだけど…」
「小銭ないから、1000円やる」
そーゆー訳のわかんないのがミツ
だからミウの言ってた事は、気にもしてなかった
だけど、この時からもっと注意しとくべきだった


オレは、バイトが終わると慌てて、バス停に向かい走った
ギリギリで『大空行き』のバスに乗り込みバスチケットを取ると同時に背後からドアが閉まる音がした
目の前の席に座り、ケータイの時計を見る
[17:15]
いつもならミツの家に着いてる頃だ
お偉いさんが来てて、店長なかなか帰らせてくれなかったからな…

オレがミツの家に着いたのは、30分を少し廻った頃だった
部屋の前に立つが室内から、いつもの騒ぎ声が聞こえてこない
『静かだ…
ドッキリか?』
いつもと違う=ドッキリって、考えちゃう辺りは大空人の悲しい性だ
不安になりドアを数センチ開け、隙間から中の様子を伺った
空気が重い
みんな円卓を囲んでるからなにかあった事は察しがついた
オレは何食わぬ顔をして部屋に入り、円卓につく

めずらしくキイ、ツキサクがキレていた
この3人がキレるなんてなかなか無い
イヤ、全然だな
3人は同じ高校で、クラスのコが下校途中レイプ通りで姦された事を今日の全校集会で知り、キレてるらしい
全校集会で言う校長も、どーかと思うがレイプはイカンな
なんだって、この手の犯罪は無くならないのかな?


3人の通ってる学校に行く道は、おおまかに分けるとふたつ
ひとつは、普通の通学路ってヤツ
そして、もうひとつは大幅にショートカットできるレイプ通り
誰が名付けたのかしらないが出来た時から、そー呼ばれていた
周りは雑木林、外灯無しで薄暗く人通りも下校のピーク以外、ほとんど無い
女のコひとりで通るには、十分危険な感じだろ?

話を聞いたミツは「犯人捕まえようや」なんて言い出した
オレ達は『拉致事件』の情報を集めてる最中だ
関係無い話に、首を突っ込む気は無い
でも、ほおってもおけないか…
ミツがレイプ犯を捕まえるプラン考えるって言い出したからまかせて、その日は解散した

翌日、昨日のメンツがミツの家に集まる
「犯人捕まえるためのプラン考えたよ」
ヤバい楽しそうだ
イヤなイメージ
こんな時に?
ミツが楽しそうに話す時は、大概良からぬ事を考えてる時だ
「ドロロロロロロロ…」
口でドラムロールを奏でながら紙袋をあさる
何を出す気だ!?
「じゃーん」
キイ、ツキ、サクの行ってる学校の制服だった
しかも、女モノ
何処から、そんなモノ入手してきた!?

まさか…


「女装して犯人探すのか?」
サクがビビりながら聞く
そりゃそうだ
俺達の中に、だれひとりとして女装の似合うIZAM(死語)なヤツなんていない
だが、ミツは止まらない
「ピンポーン
ツキとクボが女装して囮捜査デェース」
ミツは、衣装を渡しながら続ける
「ふたりとも女装したら似合うってー」
今更だが、クボとはオレの事

『マジで? なんで俺達が…?』
オレとツキは、アイコンタクトをする
当然の疑問
ミスキャストもいいところだ
だって、ツキの身長は、175センチ
俺に至っては180センチ
ブーツ無しでこんなにデカイ女のコは、そーそーいないよ
しかも、ふたりだよ?
ありえん
ありえんよ
ミツさん!
心の中で呟く
そこらへん考えてます?
そんな疑問、知ってか知らずかミツは、にこやかに手際良く準備をする

オレとツキは半ば強制的に着替させられた
学校推奨の白いYシャツにニセラルフの紺色ベスト
そして、流行りのバッグ
グレーのスカートからスネ毛の生えた足が見える
んーなんとも言えないキモイ光景
ミツの家で着替えさせられたオレとツキは、レイプ通りまでチャリで行く事になった
20分程度の道のり


レイプ通りに向かう直線を走っていると、前方から男子高校生がふたり来る
ニヤけヅラと溢れんばかりに注がれる好奇の視線が痛い
『アイツら、“絶対”男だよ…』
今にも、聞こえてきそうだ
こーゆー時、ドラえもんが居ない事を恨む
居たなら自分の姿を消すも良し、男子高校生ふたりの記憶を消すも良し
その気になれば、ヤツラの存在を消す事だって…
なんて妄想に耽っている内にレイプ通りに着き、現実に引き戻される
そして、オレとツキはスネ毛も剃らぬまま、夜のレイプ通りに放たれる事となった
「襲われたらケータイなぁ」
ミツは無責任な言葉を吐くと早々に、この場を去った

これが、イヤなイメージの原因か…
まさか女装して、高校生の晒者になった上に、レイプ通りに置き去りとは、バイト中のオレは想像もしていなかったな
あと、この事だったのかとミウが言っていた事を思い出した
オレ達に女装させるんだから、ミツは相当危ないヤツだ

なんて、この時もミウの言葉をそう深くは考えてなかった



NEXT

戻る