第弐章


人生で最低最悪な時って、いつだと思う?
自分が死ぬ時?
愛する人が死んだ時?
それとも、財布落とした時?

そりゃ 人によって違うだろうね
でも、その時はヒデにとって最低最悪だったと思う
オレだったら最低最悪だ


ユーマの一件があったなんて忘れたまま数日が経ってた
その日、ミツん家にミウの姿はなく、代わりと言っちゃ何だが、ヒデがめずらしくパーティーごっこに顔を出す

「ヒサブリだなぁ〜 彼女さんから許しでたのか?」
オレは、そう言いニヤけながらヒデの顔をのぞきこんだ
ヒデの彼女は、束縛するタイプで男同士で飲む時もついてこようとする
そーゆー理由からヒデは誘わなくなり飲む機会が少なくなってた
ヒデは、ラムコークを一気に体内に流し込むと一言呟いた

「電話が突然切れた…」
一瞬、言葉の意味を理解できなかったが、すぐ察しがついた

「ケンカしたのか? 切られたんじゃないの?」
「イヤ… 切れた」

ふと、イヤなイメージ
直感てのは、そーゆーもんだ

考えたり思ったりしてる内は予感でしかない
イメージがよぎる
気持ちが悪い
吐きそうな訳じゃない
なんか曖昧な不快感


オレのケータイからシューベルトの『アヴェ・マリア』が流れ出す
湖畔の岩の上にあるマリア像に父の罪の許しを願う少女の歌らしい
旋律の美しさに惹かれてミウからの着信音にしたんだ
通話キーを押す

「なんかイヤな感じがするんだけど…」

ミウの第一声だ
過去、ミウの直感は幾度と無く当たってた


「女のコが目の前で拐われた」


「はぁ!?」
あまりにもブッ飛んだ話
思わず声をあげた
でも突然、イヤなイメージ

なんとなく特徴を聞く
髪は、肩までのセミロング
服装は、Yシャツに白のベスト
学生ぢゃん
スカートで判断する限り、ヒデの彼女さん『アミ』の行っていた高校のモノだ
だが、アミ本人だとゆう確証は無い
違ったとしても、ほっておけないよな?

電話を切る
「(落ち着け…)」
自分にそう言い聞かせ
電話の内容をみんなに耳打ちをする
話を聞いた仲間達は順番に飲みに来てた女を外に連れ出す


1時間後…

仲間達は、女を送り帰して戻ってきた
最後にサクが慌ただしく駆け込んでくる
Tシャツが汗で湿気を帯びてる
『Bitch』って、ロゴのプリントされたヤツだ

「わりぃ」
軽く手を挙げ、キャップを脱ぎ席につく
何も言わなくてもわかってるらしい
頼もしいヤツら


オレ達は、いつも何かあるとこうやって、円いテーブルに集まり、会議の真似事をした
円卓なのは、『アーサー王伝説』の円卓騎士団に準えてる
あと、上座下座を作らないため
意外と古風だろ?

オレは対策を練るために聞いた事をまとめて、話した
みんな心当たりを探る
って、言ったって誘拐犯に心当たりなんてあるわけない
刹那、頭をよぎる何か

『ユーマ』だ

こいつなら女売るために誘拐してたって、おかしくない
イヤなイメージの元は、ユーマか?
みんなに、ユーマの事を話す


「考え過ぎでしょ?」
サクが言う
確かに、考え過ぎるのはオレの悪い癖だ
だけど、イヤなイメージは頭の底に溜ってて払拭できない
今にも溢れ出しそうで、気持ちが悪くなる

ツキは手を挙げて、話し出した

「…もし、そのユーマが犯人だったら、騒がれたらオシマイな空港はないね」
ツキは、タバコに火をつけ続ける
「って、事は陸路で移動して船 船って言っても密航船だろうから、夜だな… もう、ムリじゃない? ケーサツに通報したら?」

医者を目指してるとは思えない程、冷酷な口ぶりで提案する
ツキの言う事はもっともだった 


だけどケーサツについて、ひとつ

「ミウが、すぐ通報したけど『カップルの喧嘩だろ?』って、取り合ってもらえなかったって言ってた」

この街のケーサツはこんなもん
何もしたがらないんだ
不祥事も犯人検挙も
パトロールしてるのなんて、ほとんど見ないよ


ツキは、やれやれって顔で言う
「今、オレ達に出来る事は街の中を探す事程度だよ
10時43分か…急ごう」

ツキは、一番冷静に常に一手先を考えてる
なんだかんだ言って、最後まで付き合ってくれるヤツ


今、居る所は大空町
街の中に行くだけで、30分はかかる
見付かるなんて保証は無いかもしれない
だからって、何もしないまま諦めるのはイヤだった

みんな、自転車で闇雲に街の中を疾走する
朝6時まで走り回ったが、結局見つからなかった
免許を持っていればもう少し違ったのかもしれない

16才のオレ達はあまりに無力だった

数日経ってもヒデの彼女『アキ』とは、連絡がつかなかった
やっぱりあの時、拐われたのはアキだったようだ
日に日にヘコんでくヒデを見ているのは、辛かった

なんとかしてやりたい
でもこんな時、オレ達に何ができる?
何をしてやれる?


オレ達に出来るのは、情報を集める事くらいだ
そう、ケーサツじゃなかなか入手できない、子供だからこそ知ってるようなネタ
取り合えずオレ達は、怪しい情報を片っ端から集める事にした



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