第拾弐話


過去なんて関係無い、未来は創ればいい
重要なのは現在、オレがオマエの事を好きって事だ
オマエは、汚れてなんかない
汚れてんならオレが綺麗にしてやる
オレは、オマエをオマエ自身に殺させはしない
絶対に

「あーツマンネェ!」
キイは突然、怒鳴りベンチから足を投げ出しグチり続ける
「近所の公園如きじゃなんにも出来ねぇし、何より寒い」

雪の積もった公園
キイの履いているゴツいブーツの踵が、雪を削り続ける
「ミツ、最近家に入れてくれないよねー 汚いからとかって、いつもの事じゃん」

ツキがタバコの煙と寒さで白くなった息を吐き出しながら答える

「同棲してたりしてな」
サクが寒さでこわばり苦笑にしか見えない表情で笑いながら言った

まさかと思いながらも、みんなに『マジかよ』な空気が漂いだした
そりゃな、仲間とバカやってる方が楽しいようなヤツが突然、同棲なんかしてたら
『マジかよ』だわな

キイが呟く
「奇襲するか…」

みんな無言で立ち上がる
どうやら決定したらしい
何故か入念に柔軟をはじめ体を暖める
バッチリやる気でミツの家に向かった

玄関のノブを回す
いつも通りカギは掛っていかない
「お邪魔しまーす」カタチだけの挨拶をし地下への階段を下る

地下室の扉
そして、いつもの溜り場の扉

ここに来なくなって、大した経ってもいないのに懐かしい感じ

スパイ映画の主人公みたいに、その扉にへばりつき500mlのペットボトルを銃のように持ち突入準備

みんな目で合図し頷く
オレがノブを回し部屋に飛込むと、みんなも続いて飛込み叫ぶ

「フリーズ! フリーズ!!」

室内の人影に一斉にペットボトルの銃を向ける


一瞬の沈黙のあとツキが一言
「・・・マジか」

そりゃ、みんな同じ気持ちだっただろう
サクが冗談で言った、同棲ってのが目の前で繰り広げられていたんだからね

地下室の円卓
そこに置かれたピザトーストと湯気を上げるコーヒー
そして漠然とこちらを見るミツと女のコ

き、気まずい!

やっちまった的空気
サッカー日本代表を超えるアイコンタクトで瞬時に『撤退命令』を出し
「お邪魔しましたー」部屋を飛び出る

「おい!待て!」
ミツの叫び声がし、申し訳なさそうな顔したオレ達は部屋に戻る
「スイマセンデシタ」下を向いて呟くように言った

「もういいよ 隠し通せるもんでもなかったし」

ミツは、そー言いオレ達を円卓へと促す

微妙な苦笑い
「スマせん」女のコに軽く頭を下げ席につく
ミツは最後のピザトーストを食べ終わるとコーヒーを一口飲みして話し出した

「アヤメ、そろそろ家帰ったほうがいいよ・・・」

『アヤメ』そう呼ばれたミツの隣にいる女のコは「・・・うん」と小さな声で返事をした

「オレ、途中まで送って行くから待ってて」
ミツは、そう言い残すとコートを着てアヤメと共に部屋を出ていった

・・・

「なんだ?コラァ?」
真先に口を開いたのはサクだった
「いや、わかんね」
「オイオイ・・・」
それにつられるようにオレ達も言葉をあげる
30分経ちタバコの煙が部屋を曇らせる頃、ミツが帰って来た

コートを脱ぎ「今日は、暖かいな」誰に言う訳でもなく、ひとり呟いた

ミツが席に着くのと入れ違いに、オレは席を離れカウンターにミツの分のコーヒーを入れに行く

ミツの前にカップを置くと「サンキュ」小さく礼をいい
湯気の上がるコーヒーをすすった

そして、
「あー 君達、何を思ってるか知らないけど・・・ 付き合ってないから」
思わぬ一言

彼女じゃないのかよ!
「んじゃ?誰だよ!」
みんな、あまりの一言にちょっと笑いながら聞く

「ん? 聞くも涙、語るも涙の話よ」

ミツは、すこしおどけた感じに言った
いつものノリ
いつものミツだ

ミツの話によると、何と無く暇つぶしにやった出会い系でメールが来たのがアヤメだったらしい

別になんて事はない話
今まで隠す必要もなかっただろ、なんて思った

だが、ここから先 一瞬にして空気が重くなった
「初めてあったメル友にレイプされたらしいんだ」

「はぁ・・・」
ため息は出たが『またか』の言葉は飲み込む
相変わらず腐った街だ

「犯人を殺したいが情報がまったくない
そこでだ、君達ヘコんだ彼女を楽しませなさい」
まったくミツは、トンデもない事を考える

楽しませるって・・・ 何すりゃいいんだ?

「さっき君達、突入してきただろ?
送って行く時、楽しそうに話してた だからあんな感じで」
「つまり、いつもの通りのオレ達で彼女に接しろと?」

サクは作戦内容を理解し賛同したようだ

「でもさ、メル友にレイプされたんだろ?
んじゃ、なんだってまた出会い系やってメル友にあたる?ミツに会ってんのよ?」
ツキの冷静なツッコミ
ミツはタバコをくわえ火をつけながら
「親が嫌いで家出したくて、出会い系で泊めてくれる所探してたみたい
だからさ、また危ない奴に引っ掛かるくらいなら
家に泊めた方が安全だと思ってね」と答え灰皿に手を伸ばす

「ミツぅ 変な事してないだろうなぁ?えぇ?」
キイは意地悪そうな含み笑いで聞く

「何を言ってるんだぁ? 僕はフェミニストだよぉ 日本始まって以来の
そんな事する訳ないだろぉ」
また、いつものノリに戻る
だが、ツキはイマイチ納得いっていないって顔だ

確かに、思春期特有の親が嫌い、家出したいってヤツだろう
でも、彼女は精神的にやられてるみたいだし
『アヤメを助けたい』っていうミツの気持ちもわかる

オレは何も言わず、ただ見守る事にした

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