第拾話


突然、目の前のタクヤが吹っ飛ぶ
頭を潰されたタクヤグループは、急におどおどしだした

「多勢にぶぜいは、許せんなぁ」
声の聞こえた後ろの方を向く

わぁお ヒーロー登場
フェンシング部の部長兼王子様と言う
謎の肩書きを持つ男 イオリちゃん

「何?助けてくれんの?」
オレがイオリの方を見ると「気が進まんがな」
ホントに嫌そうな顔で答える素敵なイオリちゃん
小柄なイオリが、自分よりデカい奴を倒していく
柔よく剛を制すって感じだな

イオリの加勢で一瞬にして勝負がついた

タクヤを残して、みんな逃げて行く

オレは残されたタクヤに尋問をした
「ユメの下駄箱の中に『コロス』って書いた紙入れたのオマエ?」
いきなり核心直球勝負

「? 何それ?」タクヤはマジで知らないようだ
何故、襲ってきたのか詳しく聞くとユメから事情聴取してたのがラブラブに見えたらしい
そんなふうに見えたのか?
つーか、「そんな理由で襲ってきてんじゃねぇーっ!!!!」
胸ぐらを掴みタクヤに絶叫した

ちょっとスッキリ

「じゃ 帰るか」
それまで様子を見ていたイオリが言う

「ぇ…」
今まで学校の事務的会話以外した事のないイオリに誘われ一瞬、躊躇したが平静を装い
「お、帰るかー」
ちっ、声が上擦った

このあと、イオリと一緒に帰ったんだが意気投合し急激に仲良くなった
恐らく、堅物のイオリが下ネタを言い出すようになったのは、オレの所為だろう
関係者の方にこの場を借りてお詫びを

なんつってな

話がそれたので本線に
翌日
「早く起きなさーい 遅刻するよー」
おかんの声で起きる

体が微妙に痛い
昨日殴られたのが、効いてるみたいだ
あの程度で…
悲鳴を上げる体を無理矢理起こす
「体痛ぇなぁ」
飯を食いながら呟くとおかんが
「痛くなるほど動いてもいないくせに…」

「昨日、ボコられたの」

「あっそ、やり返したかい?100倍」

んー
素晴らしい母
ちょっとは心配すれ
そいや、学校でイジメ事件があった時
おかんが真っ先にオレに向かって

「アンタじゃないの?」

「オレは、イジメられてないよ」

「いや、アンタがイジメたんじゃないの?」

なんて事があったな

8:25
ヤバい
目の前にあるオカズを適当に口に放り込み、家を出る

狭い町だから中学校まで走って3分
ギリギリで教室に走り込んだ

一番後ろの窓際にある自分の机にからっぽのカバンを置き
席に付くとサトウ君が寄ってきた
サトウ君は、真面目でおとなしいガリ勉を体現する人物
そんなサトウ君が、オレに用でも?

「オレ、見たよ 下駄箱に紙入れた奴」

「マジ?」

無言で頷くサトウ君

「んで、誰?」

「エーイチ」

あのストーカーやろうかよ

「サンキュ」
オレがそー言うと、サトウ君は自分の席に戻って行った


エーイチは、一番前の入口側に座ってた
暗い訳じゃないが、言動が理解不能なためみんなから敬遠されてる奴だ
イジメ事件の時、イジメられたってのがエーイチだった

だが、実際は何もなかった

そう、イジメなんてなかったんだ

暴力も無視もなかった
なのに、イジメはあった
エーイチの中にだけ
殴られるらしいし、聞こえるらしい
『死ね』って言葉が

エーイチは、登校拒否になった

もちろん、親は理由を聞く
理由は先生に伝わる
イジメとして

その存在しないイジメで3人が処罰の対象になり
3人の親は激怒し、学校にきた
オレは、エーイチの机の前、向き合って立っていた
『コロス』と書かれた紙きれを机に置く

「オマエか?」
エーイチは頷いた
「なんでこんな事した?」
「悪口言われた」

はぁ ダメだ
恐らく何を言っても無駄だろう
先生に言ったところでうやむやにされ消されるだろう

イジメ事件もそうだった

親が激怒して来たため処罰は無くなり
事件は、消された


ただ、容疑者にされた3人の傷と存在しないイジメだけ残して
学校ってのは、面倒事が嫌いだ
全部、うやむやにして消しちまう
諦めるしかないのか?

チャイムがなり、梅やんが教室にきた
とりあえず席に戻る


こんな時、みんなならどーする?
悩んでるうちに給食の時間

授業は、ほとんど上の空だった
いつもの事だが、ウォークマンも使わずひたすら悩んでたのは、これがはじめてかも

仲間に相談してみるか
配膳係をサボり、仲間と連れだって廊下に出た

キイがニヤけ面で、オレを見る
「昨日は、散々だったんだってな?」

「マジ最悪だったよ
それより、犯人のエーイチをどーするかだよ…
ん?」
廊下に人だかり発見

「なんだ?」
オレ達は人だかりに近づく

廊下の窓
エーイチが身を乗り出してる

おいおい 自殺かよ!

ギリギリで飛び降りる事はしない
見る限りじゃ、パフォーマンスだな
騒ぐばかりの外野をかき分け
エーイチを窓から引きずり降ろす
“落ちたら”大変だからね

騒ぎを聞き付け、梅やんが来た

梅やんは、簡単に事情を聞くとエーイチを連れ職員室へ行った

なんか、ややこしい事になりそうな予感
案の定、昼休みに梅やんに呼ばれ職員室へと行く
「オマエ、エーイチに何言ったんだ?」
「何って…」
事件の経緯を話す
ユメの下駄箱に『コロス』と書かれた紙切れが入っていた事
サトウ君から聞いた事
そして、エーイチに紙切れをつきつけた事

梅やんは、小さなタメ息をついた
「そうか、オマエの言い分はわかった
でもな、エーイチが『悪口を言われた』って言っている以上…」
『出来るだけ中立に』
梅やんの気持はわかる
でも、悪口を言われたから
それだけのか?
あ、忘れてた
オレは、梅やんを放置し教室へ駆け戻り
事情聴取した時のノートを出した
えーと…
あった!
『3.エーイチ 3年4組
下校時、家まで付け回した』
これだ!
それとユメに聞いた
言葉も思い出した
『家のカギがなくなった』
んー
妄想全開
名探偵は止まらない
机の中をエーイチ越しに覗き見る
ディズニーキャラ
プルートのキーホルダが見えた
アレか?
一時撤退し
ユメに確認を取る


アタリ!


ユメの家カギがエーイチの机の中に

エーイチは、ユメの事が好きなんだろう
だが、伝えられず
嫌がらせと言う幼稚な方法しかとれなかったんだろう
これが真相か
でも、実際に恐怖を与えられた人がいるってのは
放置出来る問題じゃ無いだろう
オレは、梅やんにすべてを話す事に

こうして、事件は一応の決着を迎えた

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