第壱話
『神は死んだ』
ニーチェの【ツァラトゥストラはかく語りき】に、こんな事が書かれてたっけな
確かに神は死んだのかもしれない
でなきゃこんな救いようの無い話は存在しなかっただろうしね
これはオレ達の育った大空の物語
オレが観て、聞いて、想い感じたすべてを書き記したモノだ
拙い文章ですまない
オレ達が蔑み、そして愛した街
すべては、5年前の大空町から始まる
オレ達が16才の時だ
大空って街は脳ミソの腐ったヤツばっかだった
暴力、放火、窃盗、強姦
悪い事なんでもアリ
そんな中で育ったオレ達だったが、オレ達は違った
そんなに馬鹿じゃない
悪い事なんていくらでも出来る
でも、他の馬鹿なヤツらがするような事はしたくなかった
その頃、オレは高校に入学したが、ほとんど行ってなかった
どこに行ってたか?
オレ達のたまり場『ミツん家』
ミツん家は広くて騒いでもok しかも親はいない
三田ユウヤなみの環境
そこで、オレ達は考えた
カクテルにハマりだしてて、酒を買い揃えてミツん家でパーティごっこを始めたんだ
毎日のように飲んでたな
来るのは、男友達 女は毎回違うヤツだった
今じゃ名前も顔も憶えてないや
そんなパーティやってりゃ変なヤツはいくらでもくる
そいつはその中で一番イカレてた
ミツん家は、どーゆー訳かカウンター付きのホームバー完備
オレ達はいつも通りデカイテーブルで飲んでた
そん時、カウンターでひとり飲んでる
群れから外れたヤツが目に飛込む
ジントニックの入った自分のグラス持ち席を立つ
みんなで盛り上がりたいからね
さり気なく横に座る
名前は… ユーマって言ったかな?
「女、売らないか?」
初見で、ユーマがオレに言った言葉だ
そんな話、誰が本気にする?
誰だって遠い国の出来事だと思うだろ?
ユーマは、ロン毛に痛んだ金髪
毛先にパーマがかかってて
襟のとがったワイシャツに
ブランドのスーツをだぼだぼに着てた
ダサいホストって感じ
スーツが安く見える
ポール・スミスが泣いてるよ
俺の苦手なタイプだ
「いくらで売れる?」
俺は冗談混じりに聞いた
飲み会を盛り上げるために苦手なヤツでも興味の無い話でも
のるってのは、必要な事だ
「質によるけど、イイ女だとひとり400万
悪いのはひとり100万
400万で売れたら50万は貰えるよ」
ユーマは真面目な顔で言った
よく出来た嘘だ
値段の設定まで、考えてるなんて
オレは、この男に興味が湧いてきた
「ここにいる女はいくらで売れる?」
尚も話にのる
ユーマは、カウンターから女に目を向ける
「バカギャルよりお嬢様学生の方が高いからねぇ〜」
ここに来てるのは進学校に行ってるキイ、ツキ、サクが連れてきた女達だった
確かに、お嬢様系かもしれない
でも、あの女達もバカだと思うけど…
見た感じが、俗に言う清純派ってのにバイヤーどもは食い付くみたいだ
いや、正確にはバイヤーから女を買う客の方だな
暫く女を物色していたユーマは2本指を立てこちらを向いた
「これか、これ」
次は、3本指を立てた
「200〜300万かな?」
女達は値踏みされてるとは、思いもしてないだろう
こちらに気づき手をふる
オレは、軽く手をあげた
「オレ今んトコ、4人売って50万にしかなってないんだよねぇ〜
しかも、売った女の親に恨まれて
呪いかけられてんスよぉ〜」
もし仮に、コイツの言っている事がホントだとするなら
年に何十人とでる行方不明者の内、何人かは売られているんだろう
「売れた女はどこに行くんだ?」
オレはなんとなく気になった
「オレにもわかんない 外国だろぉ?」
ふざけた答えだ
確かに、ここにいる女なんて売ってもいいかもな
でも、倫理的観点から言って売っちゃダメだろ
この男の話を聞いているのは、いい加減ムカついてきた
ジョーダンもイキ過ぎると不快なだけだしね
オレは、席を立とうと無言で椅子を引く
ユーマは、引き止めようとオレのケータイのプリクラを指して言った
「そのコ! 500万はイケる!」
オレは、思わずユーマの頬を殴った
たじろぐユーマ
当たり前だ
さっきまで好意的に話を聞いていたヤツに殴られたんだからね
「な、なんだよぉ〜」
「コイツには、手ぇだすなよっ」
オレは勢いにまかせて凄み、狼狽するユーマを外に追い出した
コイツってのは、ミウの事
ミウはオレが一目惚れして、ナンパしたコだ
ぽっちゃりしてて、ノンノにでてきそうな服を着てた
ギャルに見飽きてたオレには新鮮だったね
逢った時、ミウは両親の暴力で軽い鬱病みたいになってた
馬鹿な親を持つってのは、人生最初の不幸だ
ミウは、死ぬ気だったらしい
そしたらある日、自分の目の前に変な男が現れた
それがオレ
ミウは、変なオレを観察するために死ぬのを止めたってさ
話が脱線してしまった
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