#002 ある作家と無印良品
  
原田宗典氏の『こんなものを買った』(新潮文庫)というエッセイ本のなかに「無印良品のいかスナック」というタイトルで無印について触れられている記述があります。
 そのまま引用したら原田氏御本人または「酒鬼薔薇の顔写真掲載」でおなじみの新潮社から著作権侵害で訴えられるので、主要な部分だけ紹介します。

 久しぶりに吉祥寺へ行った。(中略)。まあ昔から吉祥寺というのは、三多摩地方の中にあって突然変異的にオシャレな街ではあったが、最近とみにその傾向が強くなっている。
 例えば東急百貨店裏に店を構える無印良品のショップなんかも、妙にオシャレである。無印良品と言えば、もともとは「オシャレから一歩退いたスタンス」を特徴とし、機能性を追求したシンプルな生活を提言していたはずなのに、吉祥寺のショップは思いっきりオシャレである。
「ブティック・ム・ジルシ」
 とでも呼びたいような商品のレイアウトがなされており、そこで立ち働く店員のみなさんもすごくオシャレで、
「ハウスマヌカン無印オム」
 という感じなのである。ブランド主義に一石を投じていたはずの無印良品が、今や「無印」というブランドを作り上げてしまったらしい。まあ、もともとそれが狙いだったのだろうけど、実にこう見事な戦略である。商売うまいなー、と感心してしまう。

 (中略)特に菓子類は、そのシンプルなパッケージのデザインが成功していて、とても美味そうに見える。何でもないかりんとうなんかが、
「あー、このかりんとう美味そう!ガリガリッとやりたいッ!」
 などと思わせるシズル感に満ちており、じっと見つめてると愛しくなってきちゃうのである。(中略)続いて惹かれたのは、アゲイカである。パッケージには「いかスナック」と書いてあったが、ぼくが子供の頃は単純にアゲイカと呼んでいた。(中略)お値段248円。安くはないが、高くもない。
 
 
これだけ引用すれば十分犯罪のような気もしますが、その時はその時。著作権侵害の刑罰である「三年の懲役」を甘んじて受けるとするか。(笑)

 何度も言うように、僕は無印のブランド化を批判するつもりはありません。良品計画は生協でもなければ、慈善団体でもない。利益を追求する「営利企業」なのだから。企業は従業員を養う責任があるし、株主に利益を配当する義務があります。儲けないことには始まらないのです。
 あとは何と言っても消費者次第でしょう。このページに来られる方の多くは無印好きな人だと思うので、この原田氏のように無印ショップに並ぶ商品を見ていると購買欲をそそられるでしょう。そこで思わず、座りづらい椅子を買ってしまったり、同じ種類のものがディスカウントで安く売っている家電製品を買おうが、それは消費者個人の責任であります。買ってから無印に文句を言っても始まりません(もちろん無印には良い品もたくさんある。だからこそ僕はこのページを作っているのだが。)。

 もちろん無印良品には「客を騙してやろう」なんて魂胆は無いはずです。結果として「あまり良くない品を作っちゃったなぁ」ということでしょう。それはPB(プライベート・ブランド)の弱点に起因すると考えます。
 PBは、「消費者の声を商品に反映出来る」というメリットを有する一方で、「製造のノウハウが欠如している、あるいは、創造力が弱い」といった弱点もあります。つまり、小売業者は「モノ作りの素人」であるわけだから、その商品が信頼できるものであるかどうか、見極めるのは私達なのです。
 こういったPBの弱点を面白く指摘した漫画が発売されているので、紹介しておきます。

 『百貨興亡記<T・U>』(小学館)

 これはバブル崩壊後、経営に苦しむある架空の百貨店を舞台にした漫画です。といっても内容は堅苦しくなく、デパートの商品や売場にスポットを当てた、気軽に読める漫画です。おすすめの売場なども載っているので、買い物好きな方は是非読んでみてください(良品計画の社員の方にもオススメします♪)。

コラムindexへ