(Phase Y-8.5::supplement)
「(・・・もうこうなったら一か八か!)」
陽亮は、賭けに出た。
陽亮は思うように動かない両手を気力で動かし、斜め下に広げた。
そして陽亮自らが半ば埋もれているベッドの残骸に掌を押し付けた。
陽亮は一瞬だけ目を閉じ、再び目を見開いた。
そして陽亮は全力で咆哮した。
「術式・旋空雷!!!」
術が発動する。
陽亮の両手の掌からは閃光が発し、部屋は瞬く間に白以外の色を許可しない世界になる。
そして陽亮は徐々に雷撃の放出を強める。
床が縦に揺れ始める。
ここで、陽亮は一気に雷撃の放出を爆発的に強めた。
突然、轟音とともに部屋の揺れが極端に増幅した。
陽亮の身体が放出の反動で浮いた。
「うああああああ!!!」
陽亮は雄叫びを上げ、また更に雷撃の放出を強めた。
陽亮の身体が重力の束縛から解き放たれ、瓦礫から『発射』した。
陽亮は、発射された直後に身体が何か障害物に衝突したような気がした。
しかし陽亮は構わず雷撃の放出を続けた。
一つ間を置き、再び陽亮は障害物に衝突した。
今度は『気がした』のではなく、陽亮は確実に衝突していることが分かった。
何故なら、それ以上前に進めないからだ。
その障害物は天井だった。
陽亮はその天井に腹這いの状態で重心を預け、自らの後方へ雷撃の放出を続けた。
閃光が収まった。
それと同時に陽亮は後方――即ち、重力がはたらく方向へ身体ごと引っ張られた。
そして、瓦礫の上へ腰から『着弾』した。
刀身の半分以上が瓦礫に埋もれている剣が、目の前にある事に陽亮は気付いた。
- more...
陽亮はジン=シロガネが走り去る足音を確認した後、全身の筋肉が弛緩した。
それと同時に、陽亮の足は身体を支えきれなくなり、膝から前方に崩れ落ちるようにして倒れた。
「よ、陽亮っ!?」
蒼碧は慌てて陽亮のもとへ急いだ。
「いってて・・・へへ」
陽亮は痛々しい笑顔を浮かべた。
陽亮の意識は割とはっきりしていた。
「何が『へへ』よ・・・!もう・・・」
蒼碧はそう言うと、腹這いに倒れている陽亮の左手を自分の両手で握り、そこに顔をうずめて泣き崩れた。
「おーい・・・蒼碧・・・泣いてるところ悪いんだけど、右手を貸すから左手は離してくれないかな・・・?かなり・・・痛いんだ」
そう言われた蒼碧は顔を上げ、陽亮の左腕を見た。
陽亮の左上腕の傷口は、月明かりで照らされて鈍く赤く輝いていた。
「えっ・・・何この傷・・・!?」
蒼碧は涙で顔をくしゃくしゃにしながら驚き、陽亮の左手をそっと離した。
「んーっと・・・斬られた」
陽亮は淡々とした態度で答えた。
蒼碧は涙を流しながら、もう一度陽亮の傷を見つめた。
陽亮が負った傷は予想以上に深く、傷口の大きさは左上腕の半分近くまで及んでいた。
「これ、かなり深いじゃない・・・病院に――
「いや、大丈夫」
陽亮は、蒼碧の発言に被せるようにして提案を拒否した。
「・・・だって、血もたくさん出てるし、お医者さんに診てもらった方が・・・」
それでも蒼碧は陽亮を説得しようと試みた。
「蒼碧も、知ってるだろ?」
陽亮が逆に蒼碧に訊いた。
「・・・。でも・・・」
蒼碧は言葉に詰まった。
陽亮には両親がいない。
数年前に、突然消息不明になった。
以降、陽亮は両親と過ごしていたこの家に一人で住んでいる。
「俺にはそんな余裕、無いんだよ。・・・分かるよな?」
週末のアルバイト代だけで生計を立てていた陽亮にとっては、医療費は大きな打撃となる。
「・・・分かってるわよ・・・」
それを知っていた蒼碧は、説得を諦めざるを得なかった。
「悪いな。・・・ごめん」
陽亮は蒼碧の想いを汲み取り、心から謝罪した。
蒼碧はそれから少しの間考えて、切り出した。
「・・・その代わり」
「・・・?その代わり?」
陽亮が聞き返した。
「今から応急処置はやらせてもらうからね」
蒼碧は涙を溢れさせながら真剣な眼差しで陽亮の目に訴えかけた。
「・・・あぁ、頼んだ」
陽亮は微笑みながら快諾した。
蒼碧は足元に落ちていた布切れ――元々はシーツだったのが破れて細かくなったもの――を拾い上げ、幾重に折り畳み、即席の三角巾を作った。
その布で陽亮の傷口の上から腕をくるくると二周させ、その後強く縛った。
「いてぇ!!」
あまりの痛さに耐え切れず、陽亮は叫んでしまった。
「我慢してよ。消毒薬も無いんだから、止血くらいしかしてやれる事ないのよ」
蒼碧は陽亮に言い聞かせた。
「はい。これで止血は完了。あんまり動かしちゃダメだよ」
「ありがと。・・・ところでさ」
「うん?」
「何で・・・蒼碧ここに来たんだ・・・?」
「何で、って・・・んーと・・・胸騒ぎがしたから・・・」
「・・・そっか」
「・・・」
「まさかこんな事になるとは・・・なぁ」
「本当に・・・陽亮、死ななくて良かった・・・」
「あー・・・泣くなよ・・・。悪かったよ。・・・何が悪いのか良くわかんないけど」
「泣くわよ!・・・陽亮がこんなトラブルに巻き込まれるなんて・・・ねぇ、一体何があったの?」
「んー・・・実は俺もまだ良く分からないんだけど・・・」
『おーい!大丈夫かー?』
「・・・!外から?」
「・・・みたいだな。そりゃあ、こんなドタバタやってたら真夜中でも気付くよなぁ」
「あたし、見てくる!」
「あぁ、頼む」
「うわぁ・・・いっぱい集まってる・・・」
「どうだ?誰かいるのか?」
「うん・・・結構たくさん」
「あはは・・・こりゃまずいな」
「笑い事じゃないわよ!どうするの?」
「ごめん、俺動けない。頼んだ」
「・・・もう!分かったわよ!」
『おーい!生きてるかー?』
「はーい!何とか生きてまーす!」
『あれ?蒼碧ちゃんじゃないか。陽亮くんはそこにいるのかい?』
「ええ、います!ちょっと怪我しちゃってるみたいですけど、生きてます!」
『そうか、そりゃ良かった!』
『でも、すごい音がしたんだけど、一体どうしたんだい?』
「あ・・・えっと・・・。・・・皆さんお騒がせしてしまって申し訳ありません!」
『地震でも無いのに壁が崩れてるけど・・・本当にどうしたの?』
「あの・・・その・・・」
「(蒼碧、何とかいい言い訳考えて!)」
「(えぇ!?そんな、無理言わないでよ!)」
「(頼む!)」
「(そんな事言われても・・・)」
『蒼碧ちゃん、何が起こったの?』
「うーんと・・・。・・・あっ!そうだ!」
『・・・?』
「・・・隕石!そう、隕石がここに降って来たんです!」
「(おー、そう来たか)」
「(なに呑気に感心してるのよ!)」
『えぇっ!?』
『隕石!!』
『こりゃ警備隊どころじゃないぞ!』
『統和政府に連絡した方が良さそうだな』
『テレビ局にも連絡だ!』
『とにかく急げ!』
「(・・・)」
「(・・・何か、すごい事になってきたな)」
「(・・・あたし、もう知らない)」
「(もう後には引けないな・・・はは・・・)」
『陽亮くんはそこにいるんだろう?本当に大丈夫なのかい?』
「・・・はい!大丈夫みたいです!」
『陽亮くーん!大変な目に遭ったねー!』
「(陽亮!返事して!)」
「(あ、あぁ、分かった。)・・・すみませーん!!皆さん起こしちゃったみたいでー!!」
『おー、陽亮くんだ!』
『大丈夫みたいだね・・・良かった』
「(ふぅ・・・)」
「(何とか、乗り切れそうね・・・)」
『ところで、何でこんな時間に蒼碧ちゃんが陽亮くんの家にいるのー!?』
「・・・あ。」
「・・・あ。」
- It is an INTERMISSION till EPISODE 2 starts.
|