第1話 すき焼き


割り下が関東と関西では作り方に違いがある......というものではありません。
友人宅に呼ばれて、「おおっ!今日はすき焼きかぁ。美味そうだね、こりゃ。」というものでもなく、
職場の上司から、「今夜はすき焼きでも喰うか?」と声かけられたものの、肉には手を出しにくいなぁ......ってものでもありません。

確かに、牛肉は厳選すれば、あんなに美味い食べ方はありませんよね?あ、いや。勿論、すき焼きのことですが。
ステーキのようにバターやバージンオイルでソテーしてみるのも、
脂がたっぷり乗ったカルビなんかを炭火で焼いて齧り付くなんてのも、それはそれで牛肉の楽しみ方ではあります。

子供の頃は、決して裕福に育ったわけではないので、牛肉メニューではすき焼きが一番のご馳走だったように記憶しております。
牛肉が腹いっぱい食べられる上に、生卵に浸けて食べる贅沢極まりない至福のひととき。
そして、夕餉が始まるや、一家で牛肉の取り合い......(苦笑)。
しかし、それも長じるに従って好みが変わってきたように感じる今日この頃。
溶いた生卵に一味をたっぷり振りかけて、具を浸ける。
割り下や卵の甘味と一味の辛さが絶妙のハーモニーを醸し出して、ひと口含む度に幸せを感じてしまいます。

日本人って、美味しい食べ方を知っている民族なんだなぁ......などと感心してみたり(笑)。

で、好みの変化でしたね?
今は、糸コンニャクやマツタケ風味の麩が好きです。あ、春菊は離せません。
焼き豆腐なんかも結構お気に入りで、牛肉はもはや付け合せのような
出汁をとる為の物のように陥ってしまっているような感じです。
まぁ、これは、いい牛肉(=高い牛肉)が買えないことに基因していることは言うまでもないことですが(自爆)。

宴もたけなわ、醍醐味はうどんの導入でしょうか?
私としては、うどんもいいが、すき焼きの最後の楽しみは雑炊ではないかと思っているのであります。
ふやけた白菜や粉々になった豆腐に散り散りになった具の各種が浮くところに、どばっとご飯をおもむろに放り込む。
これ、すき焼きの終わりに最高の演出ではないかと思うのです。

甘い香りが沸き立つや、どろどろに煮えた雑炊を各自丼に取り分けて、そこに生卵を割り入れて一味を振り掛ける。
雑炊の熱に、卵の白身が白っぽく固まりかけるや否や、蓮華でぐっちゃぐちゃに掻き混ぜていただくのが一番美味しい食べ方(笑)。
見た目に甚だしく美しくないこの料理は、蓮華で掬ったひと口目をはふっはふっと息を吐きながら食うに相応しいのです。

ただ、それを他所様の家庭や人目につくところでいただくには浅ましい光景かと逡巡してしまい、
心図らずも、「あ、最後はうどんにしますか?」なーんて、指を咥えてすき焼きの最後を迎えてしまうのです(涙)。

ちなみに。
我が家では、当然、自分の腹と相談しながら具を足しつつ、その日の締めはうどんのお世話になっているのであります。
雑炊は、箸にかかる具が無くなってからの最後の楽しみになっております。
ただ、独りで食べる具の量など高が知れたもので、スーパーで買ってきた食材を消費するには何日もすき焼き、
時には牛肉抜き(食べ尽くして)のすき焼きを突付き続けるという悲劇が.......(泣)。


我が家のすき焼き事情。 [ 2002.3.17.SUN. ]


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