『清拭』とは、入浴が禁じられている患者の身体をナースがタオルで拭いてくれることを表す。また、『陰洗』という業界用語があるが、こちらはその名の通り陰部(以降、ナニと呼ぶ)を洗ってくれることを表すのである。但し、動けない患者にのみ適用される。
個室から大部屋に移りやっと歩くことが許されるようになった、ある日の夕方。
リハビリを終え病室に戻った私は、ベッドに寝転がったまま、隣りのベッドで寛ぐ学生さんといつものように砕けた会話を楽しんでいたのである。
何が切っ掛けでこのような話になったのかはもはや覚えていないのであるが、話し相手が若いということもあり、暫し下ネタを連発していたのは確かであった。
学生さんは同じ椎間板ヘルニアであったが、私と違ってまだ軽い方である。私が入院する数日前にラブ法(内視鏡で食み出た椎間板を削る)を受けたのだが......。
「風呂入れない時にカーテン閉めて身体拭くじゃないっすかー。
そん時、ナースがいきなりカーテン開けようとするの勘弁して欲しいっすよね?
パンツ脱いで下半身を拭いてる時には焦りますよー(笑)。」
そう、彼が言う通りなのである。
ナースは声かけと同時にカーテンを開ける人種なのである(苦笑)。
「あれ?どうかしたのー?カーテン開けますよー。」の、最初の「あれ?」でカーテンに手がかかり、次の「どうか.....。」でカーテンがシャーッと開けられてしまうことがあるのである。これではしみつの秘め事すら許されないではないか(涙)。
さて、そろそろ本題に入りましょうか。
そんなこんなで盛り上がりが極限まで達した時に、それは起こったのである。
「なぁ......、ラブ法って直ぐに動けるんやろー?
ベッドに寝転がって身体拭かれたことはないんちゃうのー?」
「そう、それそれっ!
明日で動けるという日に、たまたま男性の入浴日に当たっちゃって。
やられましたよ、1回。
もう恥ずかしくって恥ずかしくって......。
ベッドの上で全裸にされてナースに全身を拭かれている姿なんか親が見たら泣きま
すよー。おまけに尿管入ってるし......。」
「そうやなぁー。
しかしやでぇ(にやり)。
ナースは仕事やから慣れたもんやろうけど、こっちはそうはいかんわなぁ(苦笑)。
例えば身体拭きが済んで、ナースが詰所に帰った後でやでぇ。
猫ぢぃさんのはナニがでっかかったとか、ちっこかったとか、
曲がっとったとか真直ぐやったとか、ちょっと触ったら急にビッグになったとか。
そんなんとか、あることないこと言われとったらどうするー?
病気治す為に入院して手術したばっかりやのに、もう病棟なんかおられへん(爆)。」
「......。」(一同大爆笑で声にならず)
「ひぃーっひっひっ。腰、腰痛いーっ!!猫ぢぃさん、笑わさんといてくださいよー。」と、隣りの学生さんが泣き笑いでのた打ち回っているのを見ようと、ひょいとベッドに起き上がった時であった。誰かと目が合った。服装が白かった......。
「うわははははぁ〜。」
と、目が合ってそれが誰かと分かった瞬間、ナースが引きつった顔のまま爆笑し始めたのである。彼女はたまたまベッドサイドというか私のベッドの足下にいらしゃったのであるが、しかも、そのお方は私の『清拭』を2回もしてくれた人であった......。
あっ......さっきからそこにいらっしゃったの?(私も爆笑が止まらない)
「あ〜はっはっはぁ〜。」と、物凄い声をあげて笑いながら頷く。
もしかして、ずっと聞いてたの?(更に爆笑がエスカレートする)
「ひぃ〜ひっひぃ〜っ。」と、引きつった表情のままで笑いながら頷く。
あ、あの(もじもじ)。まさかこんな話なんか皆さんすることないですよね?
「がぁ〜っはっは〜っ。」と、口を全開にして笑いながら頷く。
み、皆さんには黙っててくださいね。お、おねがいっ!
「ぎゃははははぁ〜。」
彼女は大爆笑をしながら病室を出て、そして目の前のナースステーションに戻って行ったのであった。
絶対、ばれている筈だ。或いは、彼女が次の夜勤か準夜勤の時に話す筈だ。
あんなに爆笑しながら病室から出てきては、何があったのか聞こうとするのが人間だろうというものである。直後、私はその学生さんから責められたものである(苦笑)。
そして、我々は。
今度から下ネタ系で盛り上がる時は、周囲の安全を確認してからやるか、深夜の徘徊時にやろうと心に固く誓ったのであった(笑)。
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