||||| 「境界線」 |||||


退院が迫る中、最後の日曜日には外出をしてみるかと、前夜、急に思い立ち、消灯前に外出許可を申し出る。 申請はナースに提出するのであるが、主治医の許可が得られないことには如何ともし難いらしい。従って、我が主治医には携帯電話で連絡をつけていただき、晴れて翌日の日曜日には外出が許可されたこととなったのである。
めでたしめでたし(笑)。

さて、許可が下りれば、次にはバスの時刻表をチェック!.....とばかりに、外に出た。細かく言えば、館内から館外に出た、のである(注;外来ロビーにバスの時刻表が掲示されていたのであるが、この時にはまだ気づいていなかった。)。

勇躍、停留所に急ぐ私ではあったが、正門の所で、足が止まってしまった。
要するに、心理的なブレーキが掛かってしまったのである。

不思議なことに、足が前に出ない......。
夜遅い時間帯に、正門前で、呆然と立ち尽くす私。
そして、目の前を流れる車に目をやる私。
傍目から見れば、夜、スウェット姿で病院正門前に静かに佇む男の姿は、異様に見えたことであろう。
あっ、出た。幽霊!......とか(笑)。

足元を見、そして前方に目を据えと、この動作を暫し緩慢に繰り返しながら、漸く意を決したかのように門を出た。人によれば、外出許可も取らず、何とも気軽に病院を出たり入ったりしている......のにである。例えば、私には妙に真面目なところがあると言っても、この行為が規則を大きく逸脱する訳でもなし。

そして、バスの行先と時刻を確認した後、停留所のベンチで一服したが、何とも哀しい想いが胸一杯に溢れてきたのであった。
大袈裟な表現であるが、これら一連の不思議な感覚は今も忘れないでいる。


「囚われの自由」を実感したという淋しいお話でした(苦笑)。



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