はじめてのホークス(1)

小学校5年生の頃・・・
私が当時住んでいた広島は当然のことながらカープファンばかりで、私もその一人だった。
ヨシヒコ・浩二・衣笠といったスター選手たちを見に、親に連れられてよく球場へ行った。
スタンドでは大きな声でカープの選手を応援していた。
小学校の朝の会で、「カープ!カープ!カープ広島!・・・」とみんなで歌っていた。
みんなカープの帽子をかぶっていた。
そんな退屈な日々を送る少年はある種の刺激を求めていたのかもしれない。
友達に言った。
「パ・リーグの帽子ほしゅうない?」
「みんな同じゆうんも何じゃしねえ!」
「今度買うてもらうときパ・リーグしょうやあ」
「わしもそうするわあ!!」
数ヶ月が経つ頃、僕の帽子は阪急に、友人たちは西武とロッテ・近鉄になっていた。
多分好きだったからではないと思う。
たまたま売っているのを友達とかぶらないように買っただけだった。
日本ハムと南海はどこを探しても売っていなかった。
今のようにグッズショップで全球団そろうような時代ではなかった…

冬、大雪の日・・・
パリーグの存在を知った私にテレビが呼びかけてきた。
「南海ホークス呉キャンプ、今日は何と雪で練習が中止になり、・・・」
親父に聞いた。
「ねえ、南海のキャンプ広島でしょおるん?」
「ああ、なんかしょおるみたいなで」
あまりにも衝撃的だった。
遠い存在のパ・リーグは私の目の前にいた。

友達5人で冒険に出かける計画を立てた。
電車でたった数十分。
だけど僕らには壮大な計画だった。
新聞でしか知らない南海ホークスの選手たちが目の前に現れるのだ。
駅から歩いてしばらくすると、球場が見えてきた。
みんな走っていた。

南海の選手なんて、はっきり言って名前しか知らない。
門田がホームラン王なのは知っている。
エースが山内なのも知っている。
でも顔を知っているのはドカベン香川だけ。
少ない小遣いで買ったハンカチ・ノートと家から持ってきたマジックとボールを握りしめていた。
本物のプロ野球選手を見れる。
もしかしたらサインがもらえる。
期待はあっさり現実へと変わった。
「あのう、サインください・・・」
名前も知らない選手に声をかける。
「うん、ええよ!」
簡単にサインがもらえた。
球場に人なんて数えるほどしかいなかった。
汗をかいた背番号29の人に声をかけられた。
「ボク、野球好きか?」
「うん、好き!」
「よかったらハンカチ貸してくれる?」
思わずハンカチを渡していた。
『山本和範』
マジックの匂いが僕の心に染みついた。

−続く−