11月

『フレディ VS ジェイソン』
 二大スター夢の競演。日本だったらゴジラVSモスラ。『エルム街の悪夢』シリーズの殺人鬼・フレディと、『13日の金曜日』の殺人マシーン・ジェイソンが対決する。キワものかと思いきや、案外楽しい娯楽スプラッタ映画になっていた。サブタイトルをあえて付けない所に、製作者の心意気を感じる。
 エルム街では大人達の対策が功を奏し、人々は悪夢を見ることはなく、フレディ(ロバート・イングランド)の存在は忘れられつつあった。ショックを受けたフレディは、過去の恐怖を呼び起こす為、殺人鬼・ジェイソン(ケン・カージンガー)の夢に侵入し、彼を復活させてエルム街で殺戮を起こさせる。さすがはジェイソン、フレディ無視で街の人々をばっさばっさと自分勝手に殺していく。このままだと自分の獲物が取られちゃう!フレディは急遽ジェイソン抹殺に乗り出すのだった・・・
 そもそも、死人であるジェイソンは果して夢を見るのかという疑問があるものの、そこに触れてはいけない(笑)。ストーリー前半はジェイソンが活躍、後半はフレディが巻き返す。私は両シリーズともそんなに詳しくはないのだが、ジェイソンが人込みの中で大暴れするというシチュエーションは珍しいのでは。血はダラダラ出ているが、あまりにも大盤振る舞いなので、却って嘘くさくて怖くない。監督のロニー・ユーが香港アクション映画出身だからか、テンポが良く、アクションも多め。特に捻りのあるストーリーではないが、シリーズに精通していなくても、この二人の名前を知っている程度でも楽しめる。
 所で、フレディってこんなによく喋るキャラクターだったっけ?ウキウキ・おおはしゃぎなフレディに比べると、黙って黙々と働くジェイソンには、そこはかとない哀愁さえ感じる。フレディの可愛らしさ(・・・)が存分に発揮されているので、ファンは必見。特に芋虫形状フレディはキモかわいい。
 なお、今回一番のつわものは、ビニールテープでがんじがらめにされたジェイソンに添い寝をし、悪夢から現実世界へフレディを引っ張り出し、あまつさえジェイソンにフレディを始末させようとしたヒロイン・ロリー(モニカ・キーナ)だと思われます。

『アイデンティティー』
 「何故このタイトルなの?」と思っていたが、見たあとはなるほど!と納得。そういうことだったのか!ある意味、このタイトルが謎に対する最大のヒントとなっている。
 豪雨の夜、郊外のモーテルに10人の客が集まる。交通事故で妻が怪我をした夫婦と幼い息子、その事故の加害者である運転手と彼を雇った女優、車が故障した元娼婦、新婚のカップル、移送中の殺人犯と刑事。そしてモーテルの経営者を含めた11人が、次々と殺されていく。犯人は?動機は?果して誰が生き残るのか?
 この映画はネタバレしていまうと全く面白くない。ラストは絶対口に出来ない。豪雨による「孤島」状態、共通点の分からない男女、奇妙な遺留品など、本格ミステリ的要素満載である。画面の随所に、伏線になりそうなものがちらちら見えている。が、ラストはかなり「ええっ!?」という方向に曲がっている。しかも、途中まではきちんと推理できるように配慮されているので質が悪い。真面目に推理しようとしない方がいいかも。
 監督は「17歳のカルテ」「ニューヨークの恋人」のジェームズ・マンゴールド。「ニューヨーク〜」の後にこれを撮るとは、作風幅広いなー。出演者は地味だし、90分と割と短めの作品だが、脚本と演出がしっかりしており密度が高い。お見事。ミステリ小説だったら西澤保彦みたいな感じか。

『マトリックス・レボリューションズ』
 3部作完結編。・・・1作目でやめておけばよかったのに。<いきなりそれか。
 マトリックスシリーズの醍醐味は、マトリックス内でのアクションシーンの、スタイリッシュさと過剰さにあったはずだ。所が、今作ではその肝心なシーンが少ない。ザイオンでの人間と機械との戦いに多くを割いているのだが、このザイオンでの闘いがいまひとつ。「リローデッド」でも感じたのだが、マトリックス世界に比べると、ザイオンの造形は精彩がない。生活空間にしろ、今回活躍する人型戦闘機にしろ、「何処かで見たな・・・」感に溢れており新鮮味がない。漫画やアニメでは見慣れた世界、とはいえ、それが思いがけない動きをすればそれなりに「おおっ」と思うのだが、敵であるマシンにしろ、人間側の兵器にしろ、動きが予測可能な範囲内なので、「何を今更」と思ってしまうのだ。
 監督の意図もあるのだろうが、話の筋や設定が色々と説明不足で、すっきりしない。そもそもネモとスミスがあんなに闘う必要ってあったんですかね・・・。あの取って付けたようなラストは何なんだ!そもそも当初の目的が果たされていないぞ!問題解決されてないじゃん!ゲームやDVDで補完して下さい、というのは、ちょっとムシが良すぎるのでは。尻窄みもいい所なので、ファン以外にはお勧めできない。ラストがどうしても知りたい、という人はどうぞ。
 所で1作目のあるシーンでは、うお「ストU」だよ!と思ったが、今回のネモとスミスの空中戦は、まるで「ドラゴンボールZ」のようだったよ・・・。そういえばスミスのデコはベジータのデコとお揃いですね。

『木更津キャッツアイ 日本シリーズ』
 テレビシリーズがじわじわと人気を伸ばした『木更津キャッツアイ』がついに映画化。いやー、良くぞここまで来ました。
 と言ってみたものの、映画としてはある意味邪道。TVシリーズを見ていない人というのは観客として設定されていないので、まずビデオDVDなり再放送なりで前知識を仕入れて行くことが必須。更に、TVシリーズを見て普通に「おもしろかったー」な人でもダメで、「すげーおもしろい!」「キャッツ最高!」くらいにテンションが上がった人でないと。それ以外の人はあのノリに置いていかれそうだ。全編内輪ネタだらけの、まさにファンサービス・皆様どうもありがとうございました状態なので、キャッツ初体験者にはとても勧められない。
 私はTVシリーズには相当楽しませてもらったので、結構期待して見に行ったし、それなりに笑ったし楽しませてもらったけれど、正直TVシリーズの面白さには及ばなかったかなと。TVでは1話が表・裏に分かれていたのが、映画では1回から延長10回まで一気にやってしまう。が、このスタイルを取るメリットがあまり感じられなかった。無理矢理区切っている感じもあって、ちょっと苦しかったと思う。更に、無理に10回表裏やったせいで全体の時間が長すぎる。南の島も人外もいらなかったと思うけど・・・
 ファンの為のお祭りだから内輪ネタだけでも結構なのだけれど、せっかく映画にしたのだから、もうちょっと煮詰めてほしかったなというのが正直な所。やりたい放題やればいいってものじゃないです。

『ぼくの好きな先生』
 フランス、オーベルニュ地方の小さな小学校を追ったドキュメンタリー。小学校の先生はロペス先生一人だけ。そこに13人の子供達が通っている。幼稚園くらいの子から中学生くらいの子までを一人の先生が教えるのだから、それはもう大変なはずなのだが、画面からは何故かゆったりとした空気が伝わってくる。
 小さい学校なので、大きい子も小さい子も一緒に勉強する。国語や算数の合間にクレープを焼いたり、冬には橇滑りに行ったりと、とても楽しそうだ。先生が生徒一人一人に目を配っている様子が分かる。もちろん、こういう形の教育がベストだとは限らない。先生が一人だし、小さい子には手が掛かるので、どうしても勉強が遅れがちになってしまう。進学先とのギャップを埋めるのが大変みたいだ。
 ロペス先生は物静かでちょっと素敵な先生だ。小さい子供に対しても大きい子供に対しても、接する態度は基本的に同じ。これはフランスのお国柄でもあるのかもしれないが、お互いにベタベタした所がなく、相手を確立された人格として扱っていると思う。こんな学校に通えたらよかったのになーと、ちょっと子供達が羨ましくなった。全ての学校がこうであれとは思わないが、この学校の卒業生達は先生のことを忘れないのではないかな。
 子供たちにもそれぞれ事情がある。私が気になったのはナタリーという上級生の少女。彼女は学校でも家でも殆ど喋らず、周囲と馴染めない。彼女とどう接したらいいのかわからない母親が先生に相談に来る。先生は「辛いことかもしれないが、もっと距離を置くことです」と言う。このあたりの冷静さが好ましい。子供の性格をちゃんと見ている先生なのだと分かる。教師とはどういう職業なのかということを、とっくりと考えさせられた。
 監督のニコラ・ファブリは『音のない世界で』でいくつもの賞を受賞した、ドキュメンタリー映画の監督。本作では、カメラはただそこにあるだけで、インタビュー等は殆どない。子供達もカメラがないかのように自然に動いている。かなり入念な打ち合わせをしたのでは。とても自然な表情がとれているのは凄い。
 それにしても、子供のやることは万国共通ですね(笑)。思わず笑ってしまうようなシーンがたくさんあった。特にジョシュという小さい少年の言動は面白い。こういう落ち着きのない子って、クラスに一人はいた気がする。

『ブルドッグ』
 『トリプルX』でブレイクしたヴィン・ディーゼル主演の新作。ショーン(ヴィン・ディーゼル)は麻薬取締局の捜査官。ある日、メキシコ最大の麻薬組織のボスを逮捕する。しかしその後、「ディアブロ」と呼ばれる謎の組織が勢力を拡大。捜査を続けるショーンは自宅を襲撃され、妻が殺されてしまう。復讐に燃えるショーンは、執拗に組織を追う。
 ・・・怪我した妻を抱えてないで、早く救急車を呼びやがれ。電話つながってるだろうがーっ!!ちゃんと呼んでたら助かっていたかもしれないよ!この人が抱えた問題の半分以上は自分が原因なんじゃないの?!潜入捜査中に妻の話をされてキれるな!バレるだろうが!(その結果敵味方負傷者多数)。上司の命令を無視して組織のアジトに突っ込む時に同僚を誘い、渋る彼に対して「おまえが俺だったらどうする?」って妻子持ちなんだから危ないマネできないんだろうが!巻き込んでどうするよ!

 と、突っ込み所満載である。アクション映画のはずなのにアクションシーンが印象に残らないわ、主人公の性格が前半と後半とで違うわ、無理矢理などんでん返しはあるわ、結局何をしたかったのか良く分からないのですよ・・・

『キル・ビル』
 タイトル通り、組織を抜けた元殺し屋のヒロイン(「ブライド」という通り名があるが、本名不詳。本名を呼ぶシーンでは×××となる。演じるはユマ・サーマン)が元ボス・ビルを殺しに行く。お話としてはそれだけの単純明快さ。今時そりゃないぜという位のベタさだ。が、その白々しい話を堂々とやってしまう度胸の良さはかう。タランティーノ監督が自分の好きなものをふんだんに詰め込んで作っているので、彼のファン以外にはぴんとこない(むしろ嫌な)映画かもしれない。
 シーンの一つ一つはどこかで見たようなものなのだが、全体で見ると今まで見たことがないような、何とも珍妙なブツになっている。部分部分は空疎なのだが、選び方・つなげ方が上手い。タランティーノのサンプリング能力、編集の上手さがフルに活かされていると思う。アクション映画という触込みだが、実はアクションシーン自体はそう上手くない気が。動きの流れの中で一番見たいところをあっさり切っていたりして、もったいないなーと思うところもあった(わざとなのかどうか、よくわからないのだが)。とにかく手も足もスパスパ飛びすぎ、血飛沫飛びすぎの過剰さで、楽しいと言えば楽しいがくどいと言えばくどい。
 これだけお金をかけて自分の趣味以外の何物でもないものを撮れるなんて(しかも日本では2部構成での上映)、なんて贅沢なのか。制作費不足であえいでいる映画関係者が見たらキレそうだ。さらに、その制作費を回収できると見込んでいる(つまり同じ趣味の人が全世界に多々いる)という所が小憎らしい。ただ、逆に言うと最初から同じ趣味の人に客層を絞って作っているわけで、そういう内輪盛り上がり的(まあ広ーい輪ですが)なのは映画制作者としてどうかなーという気がしないでもない。そいういわけで、メチャメチャうけたにもかかわらず、感想は今ひとつ歯切れが悪くなってしまう。
 例によってストレンジ・ジャパンが色々出てくるのだが、もちろんタランティーノはちゃんと分かっていて、わざと妙な日本の風景を見せているわけだ。いちいち突っ込むのは野暮というもの。でも飛行機の中に刀を持ち込むなよ!とだけは言わせてもらいたい(帯刀でバイクに乗るのは可)。

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