8月
『パイレーツ・オブ・カリビアン』
製作が『アルマゲドン』や『パール・ハーバー』を手がけたヒットメイカー、ジェリー・ブラッカイマーの海賊アクションドラマ。何しろ彼の製作なので(と説明出来てしまうのもすごい)、お金がかかっているのは分かるがストーリーは大味そのもの。多分予告編から予想するのとほぼ変わらないストーリーだと思う。しかし、この際それは大した問題ではない。何故ならこれは、アイドルコスプレ映画だからです!(あ、そこの人退かないで退かないでっ)
アイドルその1=ジョニー・デップ。アイドルというには貫禄ありすぎな彼だが、今回はコミカルに海賊・ジャック・スパロウを演じている。このジャックというキャラ、登場シーンからして「くぅぅっ、可愛い奴!」という感じなので、デップファンは見よう。ファニーなデップを堪能できます。
アイドルその2=オーランド・ブルーム。LOTRでブレイクし、正にアイドル今が旬!的人気が出た彼。正統派二枚目なので、時代劇コスチュームが似合う。正直、演技力は今ひとつだが(表情に乏しいしね・・・)、剣さばきはさすがに鍛えられている。女性陣は、とりあえずこの二人を見て楽しもう。
アイドルその3=キーラ・ナイトレイ。男性諸君、「野郎ばっかりかよ」と嘆く無かれ。ナイトレイ嬢、美少女っぷりを存分に発揮している。『ベッカムに恋して!』では女子サッカー選手を凛々しく演じていたが、今回は更に美人度UP。キラキラしている。アクションも披露する、行動力溢れるヒロインだ。これってジェンダー教育に配慮しているのかしら?(笑)という感じも。実は、「えっ、王子様がお姫様でお姫様が王子様ですか?!」という展開を見せる。
正直、時代劇というよりはディズニーランドのアトラクション(というか、実際に提供はディズニーピクチャーズ。ディズニーランドには同名「カリブの海賊」というアトラクションもある)的なノリ。大人も子供も一緒に楽しめる、ファミリー向けアイドル映画といったところか。『地獄甲子園』
甲子園出場を目指す星道高校野球部。しかし予選一戦目の対戦相手は、相手チームの部員を次々と八つ裂きにする外道高校だった!そんな星道野球部に現れた救世主は、転校生・野球十兵衛!果たして十兵衛(坂口拓)は野球部を守ることができるのか?!
あらすじで一目瞭然な通り、バカ映画である。バトルロワイヤルin野球場という感じで、とにかく無駄にバトル。もちろん死屍累々、文字どおり血沸き肉踊るのである。の、わりには、転がっている死体はどう見てもハリボテ(リアルにする意欲ゼロ)。外道高校の部員の特殊メークだけは、結構丁寧にやっていたが。
原作は漫★画太郎。この人の漫画を映像化しようと考えた人がいたとは、驚きだ。バクチだ。ギャンブルだ。月刊少年ジャンプ連載だったらしいが、「友情・努力・勝利!」「戦いに倒れた仲間はパワーアップして復活」「昨日の敵は今日の友」「実は血縁者」「俺の屍を越えていけ」「みんなの元気をオラに分けてくれ!」「ピュアっ子の涙は全てを救う」等、ジャンプのお約束的セオリー(一部間違い)を全部パロディーにしつつ、何か変な方向に曲がっている。これはおそらく、原作の力(と言っていいのか・・・)。監督は北村龍平の『ALIVE』や『VERSUS』で共同脚本・第二班監督を務めた山口雄大。これがデビュー作だそうだが、よく頑張った(笑)。ストーリーは極めていい加減、話の整合性は無視。トホホ感と妙な盛り上がりとがないまぜになった、何とも言えない味がある。
実は、話の展開上「えっ、いくらバカ映画でもそれはないだろ!」と思った所が1ヵ所あるのだが、ネタバレになるので伏せる。・・・だって結局使わないなんて普通思わないよ!ありえない!『女はみんな生きている』
『赤ちゃんに乾杯!』のコリーヌ・セロー監督の新作。何とフランス・アカデミー<セザール>賞最有望新人女優賞を受賞、他4部門ノミネートされたそうだ。フランスでは驚異の口コミ大ヒットを記録した、元気いっぱいの映画。
ごく平凡な中年女性・エレーヌ(カトリーヌ・フロ)はある晩、男に追われる娼婦と行き会う。しかし車に同乗していた夫は面倒を避ける為、車を発進させてしまう。娼婦のことが気になるエレーヌは、その娼婦・ノエミ(ラシダ・ブラクニ)が運び込まれた病院を探し当て、意識不明の彼女に付き添って介抱することに。しかしノエミはある理由から、売春組織に追われていた・・・
非日常的なことが起こると、どうも男性よりも女性の方が張り切ってしまう傾向があるようだ。エレーヌも、ノエミの看病をするようになってから、急に生き生きとしてくる。彼女は夫と仲が悪いわけではないが、夫はいつも忙しくて彼女の話を聞こうとはしないし、大学生の息子は親を煙たがっている。彼女は自分を必要としてくれる人が欲しかったのかもしれない。この点は、エレーヌの姑も同じ。映画の冒頭で彼女は息子(エレーヌの夫)に会いに来るのだが、息子は忙しいことを理由に居留守を使う。ホテルで息子からの電話を待つ姑は、いかにも弱々しい老女だ。しかし、エレーヌが組織に追われるノエミを連れて彼女の自宅に逃げてくると、とたんに張り切って世話をやきだす。女3人で海辺でピクニックするシーンは、何とも微笑ましい。
ノエミ自身も相当なものである。ストーリーの後半では彼女の過去が語られるが、正直、このパートが長い為にストーリーが失速している所もある。が、知恵と度胸で組織を出し抜こうとし、絶対に諦めない彼女の姿は小気味良い。
対して、男性たちはどうも冴えない。エレーヌの夫はことなかれ主義で、車にぶつかってきたノエミを助けようとも警察に通報しようともしなかった。それどころか「窓に血がついた!洗車しなくちゃ!」とガソリンスタンドに直行する始末。また、彼女の息子は女の子を二股かけたあげくバレて大もめ。実家に帰ってくるも、エレーヌは病院に泊まり込んでいて、夫と息子だけでは家事が全くできず、家の中は荒れ放題。せめて鍋は洗っとけ!アイロンのかけ方くらい覚えろ!と突っ込みたくなる。そしてこの父息子、行動パターンが似ていておかしい。
終始一貫、女性の為の映画という感じが。女性は元気が出るが、男性はへこむかもしれない。『茄子 アンダルシアの夏』
鬼才・黒田硫黄原作のマンガをアニメ化した、中編映画。47分間を自転車で疾走する。
世界三大自転車レースの一つ、スペインを一周する「ブエルタ・ア・エスパーニャ」。レースはアンダルシア地方に差掛かっている。故郷であるアンダルシアを捨てたレーサー・ペペ(大泉洋)は、複雑な気持ちでレースに挑む・・・
ペペはレーサーとしては2流で、チームの成績不振もあり、解雇寸前だ。故郷にはかつての恋人・カルメン(小池栄子)と、そのカルメンとレース当日に結婚式を挙げる兄・アンヘル(筧利夫)がいる。レーサーとしての先は見えないが、故郷には戻りたくない。しかし故郷に残した根っ子は消えることがない。「そうでなきゃ、生まれた土地からでて行けないだろう?俺は遠くへ行きたいんだ」。私は故郷在住なもので何ともいえないが、この気持ちに共感する人は少なくはないのでは。
監督は『千と千尋の神隠し』で作画監督を務めた高坂希太郎。 原作のある種のエグみはないが、原作ではちょっと分かり難かった自転車レースの流れは鮮明に分かるようになっている。このあたりは動きがあるアニメーションの強みだ。レース中に実況中継が流れるのだが、この中継はプロの解説者に、アニメを見ながら台本なしで入れてもらったそうだ。本当は台本があったのだが、「こんなこと言わないですよ」と言われてしまったからだとか。
決して悪くはないのだが、レース以外の部分、結婚式や群集シーンなどは、意外にありきたりだった。もうちょっと見せ方があると思うのだが。また、アンダルシアの土地をクローズアップするのは良いのだが、郷愁を漂わせすぎで、挿入歌等もちょっとうっとうしい。悪い意味でのジブリ臭さが出てしまっていて惜しい。『ゲロッパ!』
某自腹評論番組で本職よりも有名になってしまった、井筒和幸監督の久久の新作。「ゲロッパ」とは「GET UP!」。ご存知ジェームズ・ブラウンの「セックスマシーン」の超有名フレーズだ。
ヤクザの組長・羽原(西田敏行)は、刑務所収監を控えていて、大好きなジェームズ・ブラウンのライブに行けない。弟分の金山(岸部一徳)は、子分に「ジェームズ・ブラウン捕まえてこい!」と無茶な注文を。一方羽原は、幼い頃に生き別れた娘(常磐貴子)に会いに行くのだが・・・
「映画の中でソウルミュージックを使いたい!」という監督の思いが見える。往年の名曲の数々に加え、主題歌は姉妹デュオSOULHEADが歌う。西田敏行ももちろん歌うのだが、さすがに上手い。そして世にも珍しい、踊る岸辺一徳と藤山直美(上手い!ファンキー!)。
話自体は結構強引で、へ?と思う所も。常磐貴子と山本太郎の恋模様も必然性を感じない。ギャグ単体は面白し笑えるのに、全体で見ると印象が残らないのは何
故?無理に感動作にする必要はないと思うんだけどなぁ。一番楽しかったのはエンドロールのような気もするし・・・。個人的にはトータス松本が歌わないなんて許せない!歌わせろ!『ハリウッド★ホンコン』
私が贔屓にしているフルーツ・チャン監督の新作。しみじみ風味な『ドリアン・ドリアン』とは一転して、スイートと見せかけてビター。あのポスターでは、皆誤解すると思う。
バラックが立ち並ぶ香港の下町で、肉屋を営むチュウ(グレン・チン)一家。一家の母親は失そうしている。父親、長男ウォン(ウォン・ユーナイ)、二男タイニー(ホウ・サイマン)全員が、見事なおデブさんだ。その近所でガールフレンドに売春させている少年ウォン(ホウ・サイマン)。彼らの前に、ある日上海からやってきたという美少女(ジョウ・シュン)が現れる。この美少女、紅紅とか東東とか、適当な名前を名乗っていてどうも胡散臭い。が、男たちは皆彼女に夢中になってしまう。彼女は下町を見下ろす高級高層マンション「ハリウッド」の象徴なのかもしれない。男たちは手に入らないものを欲しがって、えらい目に遭う。しかし、彼女と接している間の彼らは本当に楽しそうなのだ。彼女の方も、少なくとも小学生の二男・タイニーと遊んでいる間は、本当に楽しかったと思うのだが。しかし彼女が目指すのは本物の「ハリウッド」。手段は選ばないのだ。
香港の二つの面が見られる。現代的な高層ビルや地下鉄と、そのふもとに広がる、今にも崩れそうなバラック街。でもバラック街に暮らす決して金持ちではない人達も、パソコンでインターネットを楽しんでいる。このごった煮感が香港らしさなのか。
冒頭のスタッフロールが、豚に押された刻印から成っていてびっくりするのだが、結構キッチュでグロテスク風味も。今までのフルーツ・チャンのイメージからすると、ちょっと意外かもしれない。ブラックすぎて笑えないと思う人もいるかも。逆に、ちょいブラックな笑いが好きな人にはお勧めしたい。『HERO 英雄』
名匠チャン・イーモウ監督初のアクション映画。豪華キャストによる、正にスター映画。主人公無名にジェット・リー。長空にドニー・イェン、残剣にトニー・レオン、飛雪にマギー・チャン、如月にツァン・ツィーイー。特に見せてくれるのが、トニー・レオンとマギー・チャンのメロドラマ。マギー姐さんに比べれば、チャン・ツィーイーなんて小娘ですよ、小娘。ドニー・イェンの見せ場が少ないのには納得いかないが。
物語は、秦の皇帝と、無名の対話で進む。皇帝を暗殺しようとした3人の刺客を無名が倒し、その経緯を皇帝に語っているのだが、これが二転三転し、ミステリーのような趣もある。各パートによって映像の基本となる色を変えており、それがすべるようなワイヤーアクションと相俟って美しい。撮影はクリストファー・ドイルで衣装がワダ・エミだから、映像が美しいのはまあ当然なのだが(相変わらずアクションしづらそうな衣装だが・・・)。
ワイヤーアクションは「グリーンデスティニー」やら「マトリックス」やらでもう見尽くした感があるが、この映画ではアクションというよりも舞踏のような動きで、映像美を追求している。重力のリアリティは全く無視されているのだが、武器のしなりや重みは妙に細かく表現されるなど、妙な部分にリアリティを見せる。そして、CGの使い方が非常に上手い映画だったと思う。水滴が落ちるシーンや、無数の矢が降り注ぐシーンは圧巻。ロード・オブ・ザ・リングも真っ青な大量エキストラも見物。平原一面に兵隊がならんでおり、どこからがCGなのか分からない。
映像ばかりが特化した映画のように見えるが、最後に持ってきたテーマは結構重い。このラスト、無名の選択に納得がいくかどうか。「HERO」とはどういう意味だったのか。『ベアーズ・キス』
異種婚姻の伝説を日本ではよく聞くが、これはヨーロッパ発。サーカスの少女ローラ(レベッカ・リリエベリ)は、熊に恋をした。熊は人間に変身して彼女と愛し合うが、彼らを悲劇が襲う。かわいい系ファンタジーかと思いきや、個人的には結構ヘヴィだった。孤独さが胸に突き刺さる。
早い話が、ローラと熊の道行きなのだ。ローラはサーカスのぶらんこ乗りに拾われた身の上で、身寄りが一人もいない。同年代の友達もいない。母親代わりのぶらんこ乗りは、ぐうたら男に愛想を尽かして立ち去り、父親代わりだったぐうたらなバイク乗りも、やっとやる気になったとたんに事故で命を落とす。ローラの心の拠り所は熊だけだ。彼女を心配してくれる道化師がいるのだが、彼女の愛情も関心も、熊のミーシャにだけ向けられる。また熊のミーシャは母親を人間に殺されており、幼い頃にサーカスに買われてきた身の上。お互いにお互いしか持たず、世界は二人だけへと閉じられていく。ミーシャとローラがダンスをするシーンがあるのだが、ローラの表情はうっとりと幸せそうなのだ。あまりにも孤独だと、人間は異世界に入っていってしまうのかもしれない。熊が人間の青年になるのは、少女の幻想なのかもしれない。ラストにささやかな奇跡が起きるが、それすらも少女の幻想なのか。
監督はセルゲイ・ボドロフ。『コーカサスの虜』ではチェチェン紛争の悲劇と滑稽を描いたが、今回は一転してファンタジック。ローラ役のレベッカ・リリエベリはスウェーデン出身だが、前作『ショー・ミー・ラブ』(小粒だが良作!)でも周囲と馴染めないアウトサイダーな少女を好演した。人間となったミーシャ役のセルゲイ・ボドロフJrは、監督の息子さん。しかし撮影後、雪崩事故で亡くなったそうだ。『ハルク』
最近のアメリカンヒーローは、スパイダーマンにしろデアデビルにしろXメンにしろ、暗い。その中でも、このハルクはずば抜けて暗い。何しろ悪と闘うわけではないから、ヒーローと呼べるのかどうかも定かではないし、第一見た目が致命的に地味である。更に変身前も地味という念の入れよう。ここまでキャッチーではない主人公も珍しいぞ。
大学の研究室に勤めるブルース・バナ(エリック・バナ)は、研究中の事故により、怒りを感じると怪物に変身してしまう。変身している間は「夢の中みたい」で、本能のままに周囲を破壊し、恋人ベティー(ジェニファー・コネリー)の顔もわからなくなってしまう。自分の正体に気付いた彼の絶望は深い。ベティーの「あなたがどんな姿でも分かるわ」という言葉に、「それは無理だよ」と呟く。物語の王道・お約束完全無視である。更に、彼の力を狙って軍も動き出す。彼はどんどん追い詰められ、行き場を無くしていくのだ。
主人公の状態が悲劇的なので、映画自体も爽快とは言いがたい。フルCGのハルクのアクションは思ったよりも自然だが、ちょっとアニメ風味すぎる気がする。爽快さを削ぐ最大のファクターは、主人公・ブルースの父親(ニック・ノルティ)だろう。実はブルースが変身体質になっていまった元凶は、この父親だったのだ。この父親のアクが強すぎて、話がどんどん破綻していくのだ。アン・リー監督は手堅く仕上げようとしていた感じだが、キャラに引きずられたか。マンガのコマを意識したような画面分割も、あまり効果的とは言えなかった。『えびボクサー』
・・・えびじゃなくてシャコだって話ですが。イングランドでパブを経営している中年男ビル(ケヴィン・マクナリー)は、巨大エビをボクサーに仕立てて見世物にしようと、スランプ中のボクサー・スティーブ(ペリー・フィッツパトリック)、そのガールフレンド・シャズ(ルイーズ・マーデンボロー)を巻き込みTV局に売り込む。が、エビに愛情を感じるようになったビルは、戦わせることにためらいを感じるようになる・・・。
あらすじを書くだけでアホアホしいのだが、実際に見てみると、意外にも良い話(笑)。人生たそがれかかっているおやじの、再出発話なのだ。ビルが暮らしているのが、イングランド中部のおそらく郊外だというのもポイント。パブでの変わり映えのない毎日に嫌気がさし、エビを連れて都会へ向かう。が、やはり田舎者なので、気合を入れてオシャレをしても、正直趣味が悪い(銀色のシャツはないだろうよ・・)。これはスティーブも同じ。要するに二人とも田舎者なのだ。スティーブがシャズと「アイスクリーム」でモメる所はトホホ感満点。いるよな、こういう雰囲気読めないやつ・・・。
と、いい話系と書いてみたものの、その作りは極めてアバウト。ご都合主義上等である。肝心のエビの造形もやる気のないこと甚だしい。どう見てもぬいぐるみだ。しかも、まともに動くのは最後の最後だけ。その動きにしても、車輪に乗せて走らせたようなチープなもの。ビルとエビの心温まるはずの触れ合いシーンも、ぬいぐるみと戯れているようにしか見えない。ぬるま湯に長々つかって、上がってみたものの全然暖まってない感じの映画。・・・ところで、エビって鳴くの?『藍色夏恋』
「何もしないうちに夏が終わった」「走り回っていただけで、何も出来なかったわ」。そんな一夏の少年少女を描いた秀作。青春をあらわす色は、どこの国でも青なのだろうか。女子高生モン(グイ・ルンメイ)は親友ユエチェン(リャン・シューホイ)から、水泳部のチャン(チェン・ボーリン)のことが好きだと打ち明けられる。しかしチャンはモンに好意を持ち、モンもチャンに興味を持つ。二人は友人とも恋人ともつかない付き合いをするようになる。
こんな純情な高校生、もう日本にはいないよ!青すぎるよ!まだるっこしいよ!と見ていてじたばたしたくなってしまった。こういう純情さをどこに置いてきてしまったんだろう。3人とも繊細さ・優しさと鈍感さが入りまじっている。十代ってそんな感じだよな。映画前半は、モンの言動が首尾一貫しておらずにイライラさせられたが、彼女の「秘密」が明かされるとあの言動はそういうことだったのか!と納得でき、俄然面白くなった。また、モンとユエチェンのまだ「女子の世界」にいる感じ、女の子同士でじゃれあっている感じには、このノリは世界共通なんだなぁと苦笑いさせられる。ユエチェンがチャンの身の回りのものを集めたり、彼のボールペンで彼の名前を何度も書いたりする(でも本人とは恥かしくて話せない)あたりには、こんな子いたなぁ、でもちょっと恐いぞと更に苦笑い。(このユエチェンの行動が私には理解しにくくイライラした。何でモンの名前でチャンにラブレター出すかな)
主演のグイ・ルンメイが良い。日本映画『blue』での市川実日子を彷彿とさせるボーイッシュさだ。最初はちょっと堅さ、鋭さのある表情だったのが、映画終盤になるとすごくまろやかな表情になっている。将来が楽しみな女優だ。チャン役のチェン・ボーリンは「台湾のキムタク」と呼ばれるくらいの人気アイドル。ちょっと甘めの二枚目顔でかっこいい。正直キムタクより好み(笑)。キムタクといえば、彼は台湾でも大人気だということが映画の中で証明される。よーく見てみよう。
私の極めて個人的な主張の中に、「自転車で走るシーンが魅力的な映画は良い映画」というものがある。この映画でも自転車が何度も出てくる。特にラスト、少年少女が自転車で走っていくシーンはすがすがしい。台湾の風景も、どうということはないが、何か懐かしさを感じさせた。あー、台湾に行きたい。『ナインソウルズ』
冒頭、松田龍平が高層ビルから眺める東京の景色からは、次々と建物が消えていき、荒野に東京タワーのみが突き刺さる。おかしさと哀しさ、痛さが入りまじるロードムービー。『青い春』の豊田利晃監督の新作。
正直、映画としてはさほど完成度が高いとは思えない。安易なモノローグやいかにもMTV風なスローモーション。話の焦点もバラけてしまっている。キャラクターを9人としたのが徒になったか。しかし私にとっては何故か捨て置けない。何かせっぱつまったものを感じる。
長年の引きこもりの末、父親を殺した未散(松田龍平)を含む脱獄犯9人。ワゴン車で逃走するが、お目当てだった富士山のふもとに埋められたと言う現金はガセネタ。やがて彼らは、それぞれやり残したことに決着をつけようとする。今までの豊田映画には女性が殆ど登場しなかったが、今回は伊東美咲、京野ことみ、鈴木杏、松たか子らの華やかな女性キャストが出演する。しかし女性たちは、男たちを救ってはくれない。「待っていると思った?」「バカを待っていたんじゃない」と受け入れることさえしてくれない。辛うじて、伊東美咲演じるストリッパーだけは、主治医であった白鳥(マメ山田)を「待っていたよ」と言ってくれるのだが、このストリップ劇場自体、夢とも現実ともつかない(なんせ、田んぼの真ん中に劇場があるのだから)。
豊田監督は今まで「負けていく人達」の物語を撮ってきたし、今作も同様だ。9人は脱獄したものの、逃亡生活は長くは続かず、一人づつ仲間から抜けて行く。どこにも行く場所はなく、現状からの出口も見えない。未散は冒頭も最後も、東京を見下ろすビルの中に籠もっている。彼の目に映るのは荒野だ。
『青い春』に引き続き、松田龍平が主演している。この監督はつくづくキャストに恵まれており、今作でも原田芳雄やマメ山田、大楽源太、『ポルノスター』にも出ていた千原浩史、鬼丸、KEE、鈴木卓爾、板尾創路らの個性豊かな面々が揃った。個人的に「自転車二人乗りシーンがある映画はいい映画」という勝手なジンクスがあるのだが、今作ではKEEと松田龍平が二人乗りしている。