8月

『ピンポン』

 原作は松本大洋の卓球マンガ。監督曽利文彦はVFXの仕事をやっていた人で、これが初監督だそうだ。主演の窪塚洋介の演技が上手いのかどうか私にはわからないが(ただ、ボディバランスがすごく良い役者だということは感じた)、ペコというキャラクターにははまっていたと思う。スマイル役のARATAは、『ワンダフルライフ』(是枝裕和監督)に出ていた頃からちょっといいなと思っていたのだが、透明感があり、淡々とした所がちゃんとスマイルっぽい。ただ、高校生ってのはさすがに苦しい(笑)。が、それが気にならないくらいの映画の勢いがある。他のキャラクターも期待通り。特にドラゴン役の中村獅童は、正にキャラそのもの。動きのキレがいいのはさすが歌舞伎役者といった所か。
 ただ、残念だったのは、あまりに原作どおりだったこと。何もカメラアングルやカット割まで同じにすることはなかろうに・・・。原作に対する愛が伝わってくるのは嬉しいのだが、映画ならではの掘り下げが欲しかった。工藤官九郎の脚本はいつもの切れやユニークさが薄れていたように思う。オリジナルのギャグも不発。竹中直人演じるコーチの一人芝居ギャグも、寒かったしな・・・。
 また、ドラマが進むテンポが速く、「こ、ここはもっと溜めて・・・」と思う所が何箇所かあった。特にスマイルの心理面、ペコと立場が逆転してしまって戸惑う心理の描写が欲しかった。ぶっちゃけ、この話の芯はペコとスマイルの関係なので、卓球がなくても成り立つのだ。のだが映画はそこの所が物足りない。かといって卓球シーンもいまいちダイナミックさに欠ける。どうも中途半端感があるのだ。
 とはいうものの、2回見てしまった(笑)。文句があるのは愛あればこそ。爽やかで好感度の高い映画だと思う。全体的に透明感があり、SUPERCARや石野卓球ら、テクノ系ミュージシャンによるサウンドトラック(秀越!)がマッチしている。卓球を媒介とした少年達の愛と友情(笑)の物語。さらっと楽しめる。

『青い春』

 これも原作は松本大洋。かなり初期の作品になる。舞台は男子高校。一昔前の、校内暴力が吹き荒れていた頃の高校の雰囲気だ。九條(松田龍平)は、「ベランダゲーム」記録保持者として一目置かれているが、本人は校内のパワーゲームにはあまり興味がなく、捕らえどころがない。九條の幼馴染の青木(新井浩文)はそれがもどかしく、やがては九條に成り代わろうとする。この二人を中心に、不良少年(死語だが、彼らにはこの言葉がふさわしい)達のスクールライフが展開される。映画全体は閉塞感に覆われており、カメラが学校の外へ出ることもない。
 男子校独特の、馬鹿馬鹿しいまでのエネルギーや焦燥感が、ミシェル・ガン・エレファントの音楽との相乗効果で、ピリピリと伝わってくるこの映画の音楽は、最近見た映画の中ではトップクラスに選曲が良かった。何でも、ミシェルの曲が最初から念頭にあって、それにあわせてカット割等を決めていったそうだ。ラスト、九條が階段を駆け上がるシーンのカット割りと音楽の組合せは見ていてぞくぞくした。
 九條と青木の関係は、『ピンポン』のペコとスマイルの影絵とも言えるだろう。しかし、ペコとスマイルが同等の立場で戦うのに対し、青木は九條に憧れ九條のようになろうとするが、転落する。九條が自分にとっての青木の存在の意味に気付くのは最後の最後。それが切ない。ピリピリとした中、屋上で九條が青木の散発をするシーンが微笑ましかった。

『トータル・フィアーズ』

 試写会で鑑賞。全く期待していなかったら、意外と面白く、得した気分。主演のベン・アフレックは個人的には好きではないのだが、見ているうちにだんだん応援したくなってしまった。上司役のモーガン・フリーマンは渋くて素敵。アメリカで原爆が爆発するというのは、多分映画史上初では(それにしては被害が少なすぎるが)。諜報員(?)ベン・アフレックが、調査先に向かう飛行機の中で、恋人に「僕は諜報員で、国際紛争を防ぐ為に〜へ向かっている所なんだ」と説明して、嘘だと思われて電話を切られるのがおかしかった。しかし現代のスパイ映画は敵の設定が難しいな。
 期待して見たら、ちょっと痛かったかもしれないが(笑)

『ブレッド・アンド・ローズ』

 試写会にて。社会派と称されるケン・ローチ監督の新作。70年代アメリカの労働組合闘争を描いた作品で、正に社会派。しかし堅苦しい作品ではなく、ユーモアがあり面白い。不法入国外国人労働者であるヒロインを正義としては描かず、彼女の青臭さや思慮の浅さも見せる。また、彼女と対立する姉が抱える事情や、その苦しみを見せることで、どちらからも等しく距離を置いている。会社側の事情が殆ど描かれないのが気になるが、情緒に走ることなく、客観的な視点だった所が、見やすかった。高らかに問題を提示するような作風だったら、ちょっと見れなかったと思う。社会問題についての映画である以上に、青春映画であり姉妹間のぶつかり合いの映画。ラストシーンが冒頭の反復になっている所が、ちょっといいなと思った。
 ちなみにタイトルは「パンと薔薇」の意。労働組合運動のスローガンだったそうだ。人はパンのみにて生きるにあらず。パンが得られるだけでは、人間としての尊厳が守られているとは言えないのだ。

『リターナー』

 試写会にて。金城武の黒コート姿とマトリックスまがいのアクションが見所。ちゅーか、他に見所が見当たらんかった・・・。脚本、セットなどが大雑把すぎて、世界観のふくらみやリアリティー(現実的、という意味ではなく)が薄いのだ。マンガチックな映画は好きだが、もっと骨太な映画が見たい。岸谷五郎はイタいしな・・・。(余談だが、あのシーンはあの名作SFのパクリだよな・・・あのセリフ言わせちゃダメだよな・・・)

 

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