8月
『指輪物語(第一部旅の仲間、第二部二つの塔、第三部王の帰還)』
J.R.R トールキン著、瀬田貞二・田中明子訳
言わずと知れた大長編古典ファンタジー。昨年第一部が映画化されたので、これを機に手にとってみた。
・・・面白い。何で今まで読んでいなかったのか!昔、『指輪〜』前の時代設定である『ホビットの冒険』を読んだが、全く面白いと思わなかった為、敬遠していたのだが。やはり名作だったか。
文庫版では全9冊という長さだが、一気に読破できた。しかし、エルフ語やホビットの習性、歴史等を細部まで設定していたトールキンは、殆ど偏執狂的だと思う。『難事件鑑定人』
サリー・ライト著、長島水際訳
いかにもなタイトルに引かれたのだが、ミステリとしては凡作。ウイルス、古書etc、題材を盛り込みすぎて纏まりがなくなってしまっている。タイトルも、内容とはいまいち合致していないような・・・
期待が大きかっただけに、ちょっとがっかりした。『最後の息子』
吉田修一著
この作者は、『パークライフ』で今回の芥川賞を受賞した。どんな作品を書くのかと思っていたが、この中編集はなかなか良い。表題作は、現代の何とも行き場のない感じが滲み出ており、甘ったれた主人公だと言えばそれまでだが、リアルだと思う。高校の水泳部が舞台の『Water』という中篇は、他の2作とは雰囲気が異なり、爽快。「男子・女子」な感じがすごく出ていて、生き生きとしている。『石のハート』
レテーナ・ドレスタイン著、長山さき訳
読みながら何度も「何でだ何でだ!」と世の不条理さに対して叫びたくなった。別に不条理小説なのではない。主人公の家族は、弟を残して皆死んでいるのだが、その理由やそこに至るまでの過程が、読者に徐々に明かされていく。生き残ってしまった者の傷が癒されることはあるのか。自然の状況描写が繊細で美しいだけに、主人公家族の悲惨さが際立ち、読むのが辛かった。『フリッカー式 鏡公彦にうってつけの殺人』
佐藤友哉著
メフィスト賞受賞作。脅威の19歳(受賞当時)らしい。あの人のフォロアーなのか、この人からの影響か、という所が随所にあるが、ナチュラルに壊れた作風が魅力的。素で壊れてるのか、作為的なのかが気になる所。これは「鏡家サーガ」一作目で、この後2作が既に出版済み。
10年後にも読まれる作品ではないだろうが、後世に残る作品のみが優れた作品ではないと思う。今現在の日本で読むべき本格ミステリ。ちなみに、各方面からの(かなりオタク的)な引用とカバーに満ち溢れているので、ついていけない人はついていけないだろう。ちなみにこの著者、バンド「スーパーカー」のファンらしいので、個人的に好感度アップ。『クビシメロマンチスト 人間失格零崎一識』
西尾維新著
講談社ノベルズからの出版だが、電撃文庫あたりからでもいけそうな作風。表紙もマンガ風。これは著者の2作目だそうな。キャラクター設定等はマンガチックだが、本格ミステリであると同時に、かなり直球な青春小説だと思う。そして最近のミステリ界では、キャラ立て小説が流行りなのか?ともあれ今後も注目していきたい作家だ。要するに好きです(告白)。
ちなみに、語り手「僕(いーちゃん、いっくん)」は他人の名前と顔が致命的に覚えられないのだが、私もかなり彼に近いものがあり、他人事とは思えなかった(笑)。『クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い』
西尾維新著
西尾維新のデビュー作。順番が前後したが読んでみた。やはり2作目の方が出来は良いかなぁ。でも、平均値は軽くクリアしている。メフィスト賞も受賞している。ちなみに帯の推薦文は清涼院流水。だから発行当初はうさんくさいなーと思って手に取らなかった(笑)。でも当時読んでおくべきでした。ごめん清涼院。一見「キャラ小説」ぽいが、ミステリとしてはかなり本格指向。なんてったって孤島に密室ですから。
今後シリーズ化できそうな伏線を色々張ってある。自信あったんだなぁ。(執筆ペースがすごく速い作家らしい)
それはさておき。・・・玖渚、かわいいなぁ。(作者の術中にはまった模様)『クビキリハイスクール 戯言遣いの弟子』
西尾維新著
・・・まさかいーちゃんにせーらーふくをきせるとはおもいませんでした(棒読み)。な、何を企んでいるんだ、西尾。
講談社ノベルスの企画もの「密室本」装丁。その為やや短い。しかし長さとしては丁度良かったと思う。正直、オチが読みやすく、物足りないかもしれない。しかし、この人はやはり、青春小説がやりたいのかなぁ。『クリスマス・テロル』
佐藤友哉著
講談社ノベルズの企画本である「密室本」装丁。そして帯に書いてある通り、問題作。このトリックはアリなのか。いや既にやっている作家もいるけど、こうあからさまにやってもアリなのか。そしてあの後記(らしきもの)は素なのかネタなのか。気になることでいっぱい。ともかく色んな意味で問題作。他の作品も読まなくては、という気になった。